表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/22

ラビット・アイ (5)

「――えっ、友恵っ!!」


 彼女が意識を取り戻すと勇人が心配そうに顔を覗き込んでいた。彼は友恵が目をふっと開いたのを見てほぅ、と小さく息を漏らして「ったく、心配させんじゃねぇよ。お前が唐突に光りだしたと想ったら、倒れるんだからさ……」


「ごめん、ごめん……。いやーその分いい物が見れたんだけどねっ♪」


「いい物?」と不思議そうな表情になる彼を見ながら「まぁいい物だよ♪」と返す。


 ゆっくりと上体を起こした。頭を軽く振り、ウサギを彼の手に返す。


「ありがとね、貸してくれて」 


「いや……コレ元たどればお前のだし」


「でも今は勇人のだしねー」


 そんな事を話していると、彼女はふっと笑んで「ねー勇人、一つお願い事頼まれてくれない?」


「お願い事?」


 小さく首を傾げると、少女は満面の笑みを浮かべた。


「うん♪ あのね…」ほんのりと頬を赤く染めながら「……キス、してもらえるかなぁ?」


「………………………はぁっ!?」


 唐突な彼女の発言にボンッと顔を赤くする勇人。それに対して友恵は「わ、私だって恥ずかしいんだからね?!」と叫んでいる。


「で、でも勇人が帰っちゃう前に……そ、そのほら折角両想いだったんだし……何かそれっぽいのしたいなー、って想っちゃったり?」


「……はぁ」


「だ、だからほらー……ねっ!?」


「最後お前誤魔化したよな完全に…」


 そう言いながら、彼はゆっくりと彼女との距離を縮める。彼女の頬に軽く触れ、若干邪魔な位置にあった髪を梳くと、彼女の口に自分のそれを重ね合わせた。


 暫くしてから離れると、彼女の顔が更に赤く染まっている事に気がつく。その姿を見て勇人も更に赤く染まってしまう。


 そんな沈黙に耐え切れなくなった友恵は何か言葉を発しようと口を開いたのだが、最初に出た言葉は――


「手馴れてませんか!?」


「はぁ!?」


「いや、何て言うかその初めてやったというには余りにも上手すぎるといいますかなんと言いますか動作に無駄が全く無かったといいますか……!! 結論言っちゃうと初めてじゃなかったでしょ!?」


「何言ってんだよ!? 俺が一体何時何処で誰とやったっつーの!? 俺だって今のが初めてだったんだからな!?」


 そしてお互いの発言を聞いて更に赤く染まる二人。いわゆる自爆である。


「……ん、まぁそれはおいておいて、だ」彼はこほん、と誤魔化すように咳をしながら「……結果的に俺はどうしてここに呼ばれたんだ?」


「んーと……ただ、勇人に逢いたかったってだけなんだけど……」


 そーだなー、他にあるとすれば…と言いながら彼女はうーん、と唸り「……約束、してほしいかな」


「……約束? 何の約束だ?」


「うん、その、ね……」彼女は若干寂しそうに笑うと「……私のこと、覚えていてほしいんだ」


「…………」


「ほら、今回は特別に逢えただけだし、これから先は絶対に逢えないし? だから……これから先、生きていく中で少しでも私のことを覚えていてほしいんだ」


 友恵は笑いながら小さな声で呟き始める。


「……ほんの少しでもいいから私のことを覚えてて。こんな子がいたなー、程度でいいの。……私よりも好きな子とかができたとしたら……もう付き合っちゃえっ♪」


 そう言いながら彼女は無邪気に笑う。それでも内心では辛かった。


 勇人は今を生きる現在の人ならば、自分は過去を生きる過去の人なのだから。


 彼はこれから先成長していくが、自分の時は永遠と止まったままなのだから。


 自分という存在に囚われずに、好きな人ができたのならば付き合ってほしい。


 そう思っていたのだが――


 唐突にぽん、と頭に手が乗っかった。不思議そうな表情をして顔をあげると勇人が微笑を浮かべていた。そしてぽんぽん、と頭を撫でながら


「……ありがとな、俺のこと心配してくれて」


 だけどさ、と呟くとにっと笑い「これから先、友恵以上に好きな奴なんて絶対にいねーよ。できねーよ」


「…………へ?」


「俺、友恵みたいにずっと病院の中にいた訳じゃなくって、学校にも行ってただろ? 女子との接点も結構あったわけじゃん」


 それでも、やっぱり。


「どんな奴と一緒にいても……友恵以上の女子なんて居なかったんだよ」


「…………」


「だから、心配すんなって。他の奴らはお前のこと徐々に忘れてくかもしれねーけど……俺は一生覚えてるから。全部、全部」


 一緒に笑ったことも、喋った内容も、見た光景も。


「思い出し続ける。お前との約束絶対に破らないから。それにさ――」


 ウサギのマスコットを彼女の眼の前にかざし、にこっと笑んで。


「――こいつに色んな景色見せてくから」


 それを聞いた瞬間、彼女の目から涙がポロポロ流れ始める。


 止め処なく、ポロポロと静かに流れ続けた。


 その様子を見て勇人はさらに友恵の頭をなで「……やっぱお前ウサギみてーだな♪」と言うと彼女は「……なっ、何でよぉ……」と泣きじゃくり始めた。


「ほら」彼はにっと笑い「寂しがり屋のウサギは寂しいと死んじゃうから、寂しがらないようにずっと一緒にいてやれってさ♪」


 でも、もう俺は行かないとならないから……と言いウサギのマスコットを見ながら笑い。


「こいつとずっと一緒にいるから、それで我慢しろよ?」


「……は、はっ……。やっぱ、勇人って酷い位に優しいよね……」


 こしこしと涙を拭いながら彼女は言う。


「折角泣かないでおこうと想ったのにさ――そんな言葉かけられたら泣いちゃうに決まってるじゃんかぁ……」


 そう言って彼女はさらに涙を流す。


 彼は若干涙ぐみながらも笑みを湛えて優しく彼女の頭を撫で続けた。


 そんな事を何時まで続けていたのだろうか。


 それさえも分からなくなってしまった中で、彼女は「もう、平気」と小さく呟いた。


「ん?」


「もう平気……♪ ありがとねっ♪」


 そう言いながら、彼女はにこっと満面の笑みを浮かべる。


 それを見て彼もふっと笑み「どういたしまして♪」と返した。


 そして別れの時が訪れる。


 彼は立ち上がると彼女へ手を差し伸べた。友恵は「やっぱ優しいねーっ♪」笑ってその手を取り立ち上がる。


 手をそっと離し、友恵は数歩後ろへと下がった。


 そしてぐいっと目を拭い、残っていた涙を服にしみこませる。


 泣き続けていたから、きっと目は赤いだろう。まだ話していたい、という想いもあったがそれでは彼があちらへと戻るタイミングを失ってしまう。


 だから、これが本当に最後の別れだと分かっていながら。


 彼女は手をメガホンのようにして口元に持っていき、すーっと息を大きく吸うと


「――じゃーねっ!!」


 大きく声を張り上げて。満面の笑みで彼へと手を振った。


 対して勇人は振り返ると、にっと笑いウサギのマスコットを見せながら手を振りかえす。


 二人ともこれが本当に最後だと分かっていた。


 それでも、最後だからこそ。


 満面の笑みで終わりにしよう。


 彼はゆっくりと列車へと乗り込む。木夏は扉を閉める時にこちらに向かって口を動かしている少女を見た。


 何故か読唇術を得ている木夏はそれを正確に読み取る。


『勇人に逢わせてくださって、ありがとうございましたっ♪』


 それを読み取った際、木夏はにこっと笑い「いえー、お気になさらずー♪」と返した。


 声は届いていなかっただろうが、友恵は可愛らしい笑みを浮かべてぺこっと頭を下げる。


 扉が閉まり、列車は発車し始める。


 彼女はその中でも頭を下げ続け――


 あえて、彼の去りゆく姿は見ないようにしていた。




「しかし、意外でしたねーっ♪」


 木夏が笑みながら呟くと「何がです?」と勇人は首をかしげる。


「いえー、大抵死者と逢った人って泣いてしまうので勇人様も泣かれるのではと想ったんですがー、お泣きになられなかったのでー♪」


 あぁ、その事かという風に彼は頷き


「そりゃ、泣きたかったですよ。もう絶対に逢えないと想っていた友恵と逢えて。話せて。メッチャ幸せでしたから。それでも……」


 にこっと彼は笑み。


「……あいつは最後、笑って終わらせたかったみたいですから。それなら俺も泣かないべきでしょう?」


 それを聞いた木夏は「そうですかーっ♪」と満面の笑みを湛える。どこか満足そうな表情だ。


 そんな様子を眺めながら、勇人はふとある事を想い「そういえば」と彼女へと問いかけた。


「木夏さんに聞きたいことがあったんですよ」


「どんな事ですかー?」


「えっとですね……友恵と逢えたので、ここが不思議な場所だっていうのは分かりました。けれども――木夏さん達って一体何者なんです?」


 それは彼の心の奥底に引っ掛かっていた疑問。


 ここが不思議な場所だというのは理解できたが、では何故その様な場所に夜美、木夏、結斗が居るのだろう、という疑問。


 その質問に対して木夏はにこっと笑み


「そうですねー、では、昔々のお話をしましょうかーっ♪」


 話し始める。


 とある存在の話を。


「昔々、ある神様が居りましたー。その神様は生者が生きる世界と死者が逝く世界のパワーバランスを整える神様でしたー」


 そんな神様はある日想ったのですー、と彼女は間延びした声で続ける。


「『何故死者と生者が逢ってはならないんだろうね?』とー。なのでその神様は己の力を利用して生者と死者を繋げる駅を造りだしましたー」


 勇人は首をかしげながら聞いている。木夏はにこにこと笑みながら


「そしてその想いに賛同した天使や死神や悪魔がお手伝いしているという訳ですーっ♪」


 その話が終わると同時、夜美が待っている駅へと到着した。結斗のアナウンスを聞きながら勇人は「……えっと、それじゃぁ木夏さんや結斗さんは一体……」と言うと。


 彼女は変わらず満面の笑みを浮かべて、それでも目は勇人をしっかりと射抜きながら。


「よく言うじゃないですかー、『名は体を表す』ってーっ♪」




「おや、帰ってきたのかい?」


 そう言うと夜美は読んでいた本から顔を上げた。


 勇人はあきれた溜息を漏らし「……お前は呑気だなー」


「ふむ。傍から見れば呑気にみえるかもしれないが、こう見えてボクも結構働いていたんだよ?」


「まぁ、それは置いておくとして、さ」勇人はにっと笑んで「ありがとな、友恵に逢わせてくれて♪」


「……用事は全部済んだのかい?」


「あぁ、お陰さまでな♪」


「ふむ、キミが上機嫌だと実に不気味に感じるのはボクだけかね」一人で呟きながら「なら、用はもう無いのかい?」


「……あぁーっと。あるっちゃーあるんだけど……」


「何だい? 言ってみたまえ」


「えっとなー……」彼はピッと下を指しながら「どうやって帰んの?」


「……キミは自分の来た道さえも思い出せない程馬鹿なのかい?」


「いや、俺勝手に連れてこられたんだし。自分で来た記憶なんて全くねーし」


「あぁ、そうだったね」彼女はくぃっと顎で桜並木を指し「あそこをずっと歩いていけば元の世界へ帰れるよ」


「そっか。……んじゃー俺帰るわ♪」


「そうかい。ならばさっさと帰りたまえ」


 しっしっと手で彼を追い払う仕草をする少女。それを見て「最後までその態度変えんのな……」と彼はあきれた風に呟く。


 それでもぺこっとお辞儀すると桜並木へと歩いて行った。


 バックにウサギのマスコットをぶら下げた少年は、ぶわっと吹いた暖かい風が運んできた桜の花びらに紛れ――風が去った後には消えていた。







 彼が目を覚ますと、そこは学校の机の上だった。夕日が落ち、教室内を赤く染めている。


 ゆっくりと上体を起こしながら(……夢、だったのか?)


 そう一瞬想ったが、すぐに夢じゃないと知る事となる。


 手を開くと、桜の花びらがあったからだ。


 おそらく最後の突風の時に握りしめてきたのだろうそれを見て、ふっと笑み。


 夜美達を思い出して感謝の意を捧げた。


 そしてウサギのマスコットへと視線を落とし、軽くその頭を撫でて。


「――色んなトコ、見て回ろうなっ♪」


 笑って呟く。このウサギと、ウサギを作った少女に向けて。


 刹那、開け放たれていた窓から風が吹き、ウサギが揺れる。


 友恵が同意したみたいだな……、と想いながら、彼はバックを持って帰路へとつく為、教室を後にした。


 彼女との約束を果たそうと決意した目で。

……はい、完結です!! 落ちませんでしたね、ええ!!


えっと、「ラビット・アイ」は終わりましたがまだまだ続けるつもりなので…!! その為に木夏で伏線はったといっても過言じゃないです!!


では、次回の話も早めに投稿しようと思うのでよろしくお願いします……♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ