ラビット・アイ (2)
「………いや、話がぜんっぜん読めねーんだけど?」
勇人がそう言いながら呆れた表情をしていると「ふむ、まぁ馬鹿である君には致し方がないな」と言ってのける。
「まぁ要約すると『キミはリストに居ないから死者に逢いたいと想っていない。ならば死者に逢いたいと願われている。だからその相手に逢いたいか答えろやー……あ、でも誰がキミに逢いたいと想っているか分からないな。だからキミに逢いたいと願っている人が分かるまでそこで待っていてもらえるかい?』という事さ」
「長い!! 要約が予想以上に長かった!! そして分かってないんだな!?」
「あんな短時間でキミに逢いたがっている死者が分かると想っていたのかい?」
「凄い不機嫌な声で返された!!」
彼がズガーン、という効果音を背負って驚いていると少女は軽く手を振る。すると「はいはいー」と妙に間延びした声が返ってきた。声のした方を見るとひょこっと駅舎の後ろから一人の女性が出てくる。
青髪を後ろでポニーテールに結っている黒い瞳のスタイル抜群の女性だった。年は一九位だろうか、メイド服を着用しており、手には箒を持っている。雰囲気はぽわぽわしており可愛らしい感じだ。
そんな女性に向かって夜美は「木夏。今すぐ死者の方のリストを持ってきてくれないかい? この馬鹿に逢いたがっている奴の顔が見たいんだ」
「はいー、かしこまりましたー」
女性はにっこりと笑うと箒を握りながらぱたぱたと走って駅舎の中へと入っていく。勇人はその後姿を眺めながら「……今の誰だ?」
「ん? あぁ、詩伊瀬 木夏。ボクと一緒にここを管轄している奴だ」
「…………何でメイド服?」
「…………」その質問に対し、夜美はふっと視線を逸らして「……アイツの趣味、かな……」珍しく戸惑った声を出す。
「…………」
「まぁあの趣味が全く理解できない木夏は放っておいて、だ。アイツが管轄しているのは死者の想いを書き連ねたリスト。故、キミに逢いたがっている奴がすぐに見つかるはずさ」
そう夜美が言っていると。木夏はぱたぱたーっと走ってきて「はい、夜美様―。リスト持ってきましたよー」にっこり笑顔で差し出す。
「ん? あぁ、ありがとう。さて、センサキに逢いたがっている奴は…と」あれ? とした表情を浮かべ「何か早々に見つかって不気味だな」小さく呟く。
そしてその人物の資料を差し出してきた。
「名前は英田友恵。死亡時期は去年の一月一六日午前四時五八分。へぇ、死亡してからまだそんなに時間は経っていないね」
そんな風に夜美は呟いていたのだが……ふと異変に気がついた。勇人から返答が一つもないのだ。彼女が不思議そうに顔を上げると――彼は、遠くを見つめていた。
視線は夜美に向いているのだが、上の空で。まるで遥か彼方の思い出を思い出しているようだった。
そんな彼の中にとある声が響き渡る。
昔、よく一緒にいた少女の声。
『勇人、勇人っ!! ほら見て、雪だよ雪―!!』
真っ白な病室の中で無邪気な声をあげ、雪を指差す満面の笑みの少女。
『綺麗だねー♪ 本当綺麗だねー……触ってみたいなぁ……でも雷原さんに外出するな、って言われてるから怒られちゃう……』
主治医の名前を呟きながらむぅっと頬を軽く膨らませる少女。
『もー、勇人どこ行ってたの? ……あれ、手に何持ってるの? うわぁ、雪!? もって来てくれたの!? ありがとう!! やっぱり勇人は優しいねぇー♪』
雪に触れた、というだけで更に楽しげに笑う少女。
「……と」
「と?」
夜美が首を傾げ問いかけると勇人はまた呟いた。
「と、も……え……。……友恵が、俺に、逢い……たがってんのか?」
「だからそう言っているだろう。そんなに信じられないなら――」
「……俺も、逢いたいんだ」
「唐突にこの馬鹿はどうしたんだろうね?」と木夏に問いかけると「混乱していらっしゃいますねー」とぽわぽわ声で返された。
そんな声も聞こえないらしく、勇人は変わらずに呟き続ける。
「……俺、も逢いたい……。……聞きたい、こと。話したい、こと。たくさ、んある、んだ……。少しで、もはなし、た、い……。だ、から……逢いたい……」
そう呟いていると、夜美は呆れたため息を漏らし「……ボクは他者の過去を聞くのはひどく辛い性質なんだ。だから、列車に乗って、木夏にでも話せばいい」そう言いながら親指で何時の間にかやってきていた列車を指す。
勇人はこの駅の存在を認めた訳ではない。だけれど。
友恵が自分に逢いたがっている、と聞いて。少年の足は勝手に歩き始めた。
ようやく逢いたがってた子の名前が出てきたのに全然進まないですねー。
すいません…進むの遅くてすいません…。
次回も早めに投稿できると思います!!