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Almond(6)

『演技』を開始した少女はくすっと笑んで小首を傾げ「あっれー?」と、明るい声音で問いかける。


 その声は、何処か悲しみが孕まれていて。


 その笑みは、何かを隠し通している様に見えて。


 ソウが見ている事に気づかない……否、気付いているが気付いていないふりをしている少女は笑って言う。


「――何で、今日はいっちゃんがいるのーっ?」


 いっちゃん、と呼ばれた少年は顔を上げる。同時に死神はゆっくりと立ち上がって少年を見た。


 丸椅子に腰かけており、両膝に両肘を乗せている、黒い学ランに身を包んだ少年だった。


 襟足がやや長い黒髪に垂れ目がちな藍色の瞳。学ランの前のボタンは何も留めておらず、白いワイシャツが覗いている。長い脚を放り出しながら、いっちゃんは柔和に笑み


「いやー、急に放課後暇になっちゃてね。それなら爺さんの見舞いにでも行こうかなーって、そんな感じだよー」


「相変わらず間延びな口調だねー、いっちゃん。和むわーっ」


 軽口を叩きながら、彼の隣にあった丸椅子を引いて腰を下ろす。ひざに両肘を突き、顎をくっつけた両手の平に乗せながら楽しげな笑みを浮かべ


「んで? 今日はさっちゃん先輩いないの? 私いっちゃんよりはさっちゃん先輩に会いたかったのになー……」


「従兄に対して酷くない?」


 ざんねーん、と言いながら軽く口を尖らせた茉那に対し苦笑を零したいっちゃん。彼等の祖父、誠一郎を見ながらもう一度苦笑を零すと


「しゃーないじゃんか。そのさっちゃんが委員会の用事で一緒に帰れなくなっちゃったんだよ」


「なーるっ。それで、委員会も部活も無所属のいっちゃんだけのこのこ帰って来たと」


「ぐはっ!」いっちゃんは苦しそうに言葉を吐くと、胸元を押さえ「痛いとこを突かないでくれよ茉那ぁー……」


 その様子を見た茉那はからからと笑って見せる。今まで蚊帳の外に居た誠志朗はため息を漏らしながら「相変わらず変わらないのぉ……」呆れ混じりに呟いた。


 その後も続くのどかな会話を、ソウは数歩下がった位置から眺めていた。


 視線は少女一人に注ぎ続けたまま、耳は三人の声に傾けたままの状態で立っている。


 腕を組むと、小首を傾げ


(見た感じ、アイツ普通の人間だよなぁ……?)


 見当違いだったかも、と思いながら


(でも何だか……目を離したらヤバイ気がする)


 本能的な感想を抱えたまま少女をじっと見つめ続けた。




 それから一時間ほど経った頃。茉那はおもむろに立ち上がり


「じゃあそろそろおいとまするね―っ。いっちゃんはおじいちゃんとお喋りでもしてなさないなっ」


 バックと傘を持ってカーテンを開けて帰路につき始めた。その背中に


「ばいばい、茉那」


「気をつけて帰るんじゃよ?」


 従兄の明るい見送りの言葉と祖父の心配が入り混じった言葉を受け、笑みを返しながら帰路につく。


 それを見たソウは慌てて少女を追いかけ始めた。


 行きの道を逆戻りし、玄関先へと出て行く。自動ドアを通り抜けると傘の中に手を突っ込んでボタンを一つ押し、ポンッと花を一輪咲かせた。


 時刻はすでに夕刻。赤い夕陽が照らした地面に、少女は花の影を落としながら歩いて行く。その後も暫くついていく事にした。


 曲がりくねった道を通り抜けて行く。一つ曲がる度に人通りがどんどんまばらになっていき、車の走る音も遠ざかって行った。


 どんどん人が減っていく道を歩く、少女と死神。


 一体どれだけ歩いたのか、それさえも分からなくなった頃。夕陽に照らされた人通りが一切なくなった、歩行者通路の真ん中。


 少女はゆっくりと立ち止まる。そして傘をくるっと一回転させると




「――ねぇ、サンドラさんではない死神さん」




 背後にいるソウに対して言葉を投げかけた。


 声を掛けられた少年死神は驚き、歩を止めてしまう。それを待っていたかのように、少女はくるっと振り返って来た。


 水色の傘の下で、死神が見える少女は妖艶な微笑を浮かべながら


「何で、病院に入った時から私をつけていたんです?」


 問うてきた。が、死神は唐突な事態に驚き返答に詰まってしまう。それに畳みかける様に質問が連鎖した。


「サンドラさんに言われたんですか? 見てろって言われたんですか?」


 傘をくるっと一回転させる。


「私が死にたがりだから、死なせたくない死神さんは援軍をよこしたんですか?」


 くすっと悪戯っぽい笑みを浮かべ


「だから、貴方はずっとずっと私の後をつけていたんですか?」


 あぁ、それとも。と前置きしてから


「――死神が見えるやっかいな私を、殺しに来て下さったんですか?」


 そしたら万々歳ハッピーエンドですね、と少女は酷く嬉しそうに言った。


 その言葉を、その笑みをただ眺めているだけだったソウはごくりと生唾を飲み込み、喉をほんの少しだけ潤わす。からからに乾いた口を必死に動かし


「……殺す訳、ねぇだろ。友達が助けてぇっつってる奴を」


「へー。私が殺してほしい、と言ったのはサンドラさんだけなので……。彼とご友人関係なんですか? 浮いてると思っていたのに意外ですねー……」


 けどまぁ、根本は優しい方ですからね。いうと温和な笑みを浮かべた芦垣茉那。それを見たソウの口から素直な感想が思わず零れてしまう。


 それは――



「……怖いよ、お前」



 死神らしからぬ、恐怖の感想。


 それを得た少女は小首をかしげる。水色の花には夕日が投光されており、不可思議な色合いを彼女の顔に射していた。


 それは、彼女の顔を悲しみに彩っている様にも見え、彼女の顔を困惑に染めている様にも見え、彼女の顔を嬉々とした風に形どっている様にも見え。


 もしかしたらその感情が全部入り混じっているのかもしれない茉那は、くすくすと口元に手を当て笑いながら


「死神さんが、人間を怖がっちゃだめでしょう? 死神さんは『人間より強い存在』なんですから、ね」


「それでも、さ……」


 一旦言葉を切り、ぐっと握りしめた拳に力を込める。爪が食い込む感覚がした。その痛みが唯一現実である事を肯定してくる。


 ――死神が人間に畏怖する現実を。


 手の平に痛みを感じながら、その分眼光に力を注ぎ


「……死神を前にそんだけ気丈に振舞って。挑発めいた発言するお前が、俺は怖いよ」


 吐き捨てる様に、言って見せる。


 と、その返答を受けた茉那は顎に人差し指を当てる。一瞬悩む素振りを見せたが、すぐに綺麗に笑むと


「仕方がないじゃないですか。私は死にたいんですよ、なるべく早く。なら、気丈に振舞って挑発して。相手の怒りを買って殺してもらおうって魂胆なんです」


 言い終えるとくるっとその場で半回転した。傘をソウに向けながら、思い出す様に言葉を零す。


「それに、私が生きてたら死神さん達にとっても不都合ですよ?」


 傘をくるっと器用に回し


「私はなるべく早く死にたい。死神さん達は、不都合極まりない私を殺すだけでいい。――ね? どっちにも利益しか残らないでしょう?」


 ほぅら、理にかなってる。


 言うと、少女はまた傘を回転させた。くるくる、くるくる、と無地の水色の花が回転して行く。


 それを聞いたソウは一つひっかかる点がある事に思い当る。回転を続ける傘を見つめながら


「なぁ」


「何ですか、死神さん」


「――俺らが不都合な事って、何なんだ?」


 確信に迫る事を問いかけた。


 刹那、傘の回転がピタッと止まる。ゆっくりと少女――芦垣茉那が振り返って来た。


 夕日に照らされた姿は儚く、一般的な少女と何ら変わりはない。


 静かに、口が開かれる。


「……それはですね――」


 ゆっくりと、子どもに諭す母親の様な声音で言葉を紡ぐ。


「……――――――――――――――――――――」


 その時を待っていたかの様に、突風が吹きすさび少女の声をかき消す。だが、死神の耳にはしっかりと届いていた。届いてしまった。


 死神、ソウ=レシェンスの目が大きく見開かれる。


 述べられた『死神の不都合』は予想を超える内容だった。


 故に、彼はもう一度死神らしからぬ感情を人間に覚える。




 ――怖い、という畏怖の感情を。





――と言う訳で続きです、思わせぶりで終わるというね!←


あっはっはー……何か、もうすでに、どうなるんだろこの話って状態ですよ……


次回は、広げた風呂敷を畳みにかかりますかね……?


茉那の『死神の不都合』について、書いてくと思います!


……これだけ更新しといて、サンドラもとい結斗の過去がようやく中盤ってなにこの事態……!?


と、とにかく過去編も中盤に差し掛かって来たので、楽しんでいただけるように書いていきたいと思います!


感想もお待ちしておりますーっ! いただけたら本当喜んで、泣きかけます……!!


では、またお会いできます事をーっ♪

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