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Almond(5)

 場所は変わり、天辺を見る事が出来ない程高い漆黒の塔の中。壁一面を埋め尽くしている茶色い本棚から本を一冊抜きだすと、パラパラと捲りながら


「なあなあ、サンドラ」


 ソウ=レシェンスは背後で同じ様な事をしている同僚に声を掛けると同時に振り返った。サンドラは手に持った青い表紙の本を手に持っており、目の前に翳して睨みつけるように目を通しながら「…………何だ」と返す。


「んー……いやさ、その子の事例と類似したの見かけねーなー、って」


「…………だな」


「やっぱ事例がないんかなぁ……。けど異常事態って幾つか聞いたことあっから、どれかに当てはまると思うんだけど……」


 言いながら、手に持っていた資料をしまい隣の深緑色の背表紙に手を伸ばす。背後ではサンドラが本をぺらっと捲りながら


「…………だが、死神が見える健常者、という事例は幾らか聞いた事がある。から、ちょっとは希望がある……やもしれない」


「あぁ、それは同じく。いやー、シルビアが慌てた顔で帰って来た時は見物だったかんなー」


 サンドラの数少ない理解者である少女の名を上げながらくつくつと笑うソウ。対し真面目に探せ、と返す同僚兼親友。それに対し、更にへいへーい、と軽く返すというやりとりを繰り返す。


 そんな事を続けながら、本を手に取っては読み、めぼしい資料がなければ本棚に返し隣の本へ……という終わりない作業を続けていた。


 どれくらい時間が経っただろうか。すでに会話すらなくなっていた空間に、ソウが何気ない調子で「なぁ」と声を掛ける。


「…………どうした」


「俺さ、その子見に行ってもいい?」


 唐突な申し出に、思わず後ろを振り向く。と、その行動を予測していたのか。すでに振り返って来ていたソウと視線が合致した。不敵に笑み、トントン、と本の背表紙で肩を叩きながら


「その子の様子、見に行ってもいいか?」


 問いかけてくる。驚きから目を見開いているサンドラに対し、言い訳じみた声で


「いや、その。だって俺その子知らねーからさ。俺事務作業むかねーし、それならいっそのこと、ってな。それに百聞は一見にしかず、っつーじゃん。だから、自分で見に行くべきかなーって」


 だからな、と言って言葉を切った。それでも未だに茫然としている彼を不思議に思い、一歩近づくと


「どした? まずいトコでもあんのか?」


「…………いや、別にないが……」


「だよな!」パンッ、と力強く両手で本を叩き「よーっし、んじゃ俺今から行ってくるわ!」


 本を投げ出し、一足飛びに扉へ向かった。やはり黒く重たい金属製の扉に全身を押し付け、押しあけながらサンドラに手を振って見せる。


 茫然とした表情で片手を上げてきた彼に対し爽やかに笑んだソウは、死神一人がようやく通れる程の隙間があくと同時に外へと飛び出して行った。





 飛び出し、人間界の上空を浮かんでいるソウは悩んでいた。


 空中で器用にあぐらをかき、腕も組んで悩ましげに唸る。背中では漆黒の翼がバサバサと絶え間なく動いていた。


 そんな彼は「うーん……」と低く唸って頭をフル回転し始める。


 飛び出してきたのは良かった。事務的作業が大嫌いな為、どうにかして違う事で手掛かりを探そうとして選んだ理由も最高だった。何俺天才? とか内心思っちゃう程度には。


 それなのに、何故。


(……肝心の特徴聞きそびれてるんだよ俺ぇええええええええええええええ!!!!)


 髪型はおろか、性別すらままならない。何せサンドラは説明の中で『あいつ』と称していたのだ。身体的特徴は一切触れず、説明を続けていたのだ。


(そりゃ、何にもわからねーわ……!)


 思い、頭を抱える。一頻り絶望の声音を吐き出すと


「……調子乗ってすいやせんでした、やっぱ俺は馬鹿でしたー!」


 やけくそ気味に空へ向かって叫んだ。その声に波長してか否かカラスが上空を飛びまわる。それを見、彼等が落とした羽を一枚掴みながら


「はぁあああああ……」


 と、深くため息を漏らす。


 どうしたもんかな、と思いながら彼が更に絶望しかけたその時。


 何となしに地面を見下げる。視界に移ったのは大きな病院。


 そこへ入って行こうとする、水色の花。


 ゆっくりと空を見上げた。今日は快晴で、傘の出番など無いだろう。


 日傘にしては些か大きすぎるその花をぼんやりと眺めている最中、ふっと思い出したのはサンドラの言葉だった。


『…………一日中空色の傘をさしていたな。雨の日は勿論、晴れだろうと強風だろうと』


 思い出し、目を見開く。水色あるいは空色の傘。


(……もしかしたら)


 ドクン、と心臓が跳ねる音が耳元まで届く。フードを被り、目元が隠れるまで引っ張ると


(……あいつ、なのかもしんねぇ)


 疑念を抱き、急降下を開始した。


 地面にゆっくりと降り立ち、翼をしまう。姿を消した状態のまま、自動ドアをすり抜けて院内へ入って行った少女の後をつけ始めた。


 背後から視認できるのは長い黒髪をポニーテールに結っている事と、白を基調としたセーラー服に身を包んでいる事。


 白い世界を、艶やかな黒髪の少女が堂々と進んで行く。


 白を基調とした廊下を通り抜け。車いすに乗った子どもの横を通り抜け。ベンチに座って祈る様に手を組んでいる女性の前を、看護師に笑みを向けている男性患者の横を、通り抜け、通り抜けて行く。


 暫く歩き、幾度か階段を上り。少女はその先にあった『301』という号室に足を踏み入れていった。それについていく形で同じ様に足を踏み入れるソウ。


 迷うことなく窓際のベットの方へ歩いていく少女を追いかけて行く。


 そこで、初めて足を止めた。スピードを落とすタイミングを逃したソウは、背中に衝突しそうになってしまうが慌てて回避する。


 横に転ぶように進路を逸らした彼は地面へ突っ込む。頭をさすり、片目を閉じた状態のまま少女を見上げた。


 視線の先、真っ白な世界の少女は目を閉じてカーテンをぎゅっと握っていた。


 手が震えている。視線を落とした足元も小さく震えていた。


 その震えは、入院している存在の死がいつ来るか分からない恐怖か、それとも――。


 ソウが考えている中、少女の目がゆっくりと開かれる。大きな垂れ目がちの黒い瞳が、純白のカーテンを睨みつけた。


 何かを決心したかの様に見えた瞬間、カーテンにかけていた手を動かした。


 同時にシャッ、と開け放たれたカーテン。その先に広がっていたのは。


 一人の老人と、一人の少年が喋っている光景だった。


 老人の視線が少女に向く。温かな声音がマナ、と言った。


 それを聞いた少女は、目つきを柔らかくして、口元も緩めて微笑を浮かべ。


 さながら、天使の様な柔和な笑みを浮かべ。


「――気分はどーう? おじいちゃん♪」


 死神の前で、老人の前で、少年の前で。少女は『演技』を開始したのだった。


……ひっさしぶりの更新ですね、ええ……!!


本当に久しぶりになりすぎて申し訳ありません……!


もうそろそろ勉強が忙しくなってくるんだ……というか現在進行形で難しいんだ……


なので、ペースは遅くなってしまうかもしれませんが、連載は続けて行こうと思うのでこれからもよろしくお願いします!


と言う訳で、今回は何故かソウ君が主人公みたいでした!←


シルビアちゃんはおいおい……きっと何時か出てくるさ……←遠い目


少年に関しては……勘がいい人は分かりそうですねー……! 次回あたり、ヒントを幾つかバラまいていくと思います!!


また、最近小説を書いていなかったので、文体が低下していそうで本当申し訳ないです……もっとあげて行かないとなぁー……


感想もお待ちしております! 本当嬉しくて、貰う度に幸せになっているので、ご指摘でも純粋な感想でも疑問でもどうぞ!


次回の話は……出来たら、今週中にしたいなぁー……


ここまで読んで下さりありがとうございました!


では、次回会えます事を!

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