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ラビット・アイ (1)

 ――もし、死者に逢えるのだとしたら。


 ――もし、あの時のことを償えるとしたら。


 ――もし、やり直せるとしたら。


 ――貴方は逢いたい、償いたい、やり直したい、と思いますか?





「……さーて、キミが新しいお客さんかい?」


 そう言いながら、少女はパタンと読んでいた本を閉じる。


 年は一三ぐらいだろうか。背は小さく、ぶかぶかの駅長の服で身を包んでいた。袖は彼女の小さな手を隠しており、結構だらしがない格好となってしまっている。


 肩口で切りそろえられた黒髪。深い深い緑色の瞳は少しつりあがっており、年相応な可愛らしい顔立ちを更に可愛く見せていた。


 そんな少女は真っ白な指先にてピッ、と目の前に居る少年を指す。


「このボクが聞いているにも関わらず無言とはいい度胸だねぇ新客さん?」


 それを聞き、少年はただ首を傾げるだけ。


 年は一五。茶色の髪に黒い瞳、ガクランで細身というどこにでも居る格好の少年だ。少し異色といえば、男子にも関わらずファンシーなウサギのマスコットをバックにぶら下げている事ぐらいだ。


 少年――千崎勇人センサキハヤトは首を傾げつつ、少女に向かってこう返す。


「……それ以前にここは何処だよ?」


「分かっているくせにとぼけるんじゃないさ。それは他人をムカつかせる所業だ」少女は軽くため息を漏らして「……さてさて、もう一度だけチャンスをやろうじゃないか。さぁ、何か言ってみるがいいさ」


「……だから、ここは何処だよ?」


「同じ質問しか出てこないとはキミは実に語い力が富んでいないと見た。……ふう、こんなのが次のお客とは先が思いやられるね」


 それを聞き、勇人は少しだけむっとする。そして「そっちこそ何なんだよ!! 名乗りもしねぇのか!?」


「おっとっと、名乗っていなかったっけ? ……まぁ、名乗っていなかったならば今名乗るまでさ。ボクの名前は桃天トウテン 夜美ヨミ。果実の『桃』に天照の『天』、美しい夜さ。実に面白い字体だろう? さぁ、ボクは名乗った。だから次はキミの番さ」


「…………」彼は腑に落ちないという表情をしながらそっぽを向き「……千崎勇人」と不満げに漏らす。


「ふむ……センサキハヤト、ねぇ……」


 そういうと、少女は目の前にある木製の古びた机の上にあった書類を手に取りパラパラと眺め始めた。


「さ、し、す、せ……センサキ、センサキ………おや、どうやらリストには載っていないみたいだ」


「……それって何だ?」


「ん、コレかい? コレは死者に逢いたいという想いを持っている者たちのリストさ。大抵このリストに載っている者がここに来るんだけど……どうやら、キミは死者に望まれたクチらしい」


 そう言いながら夜美はひらひらとリストを振る。その光景を見て少年は眉をひそめて「……それ以前に、ここは何処なんだよ?」


「おや、ここまで言ってまだ分からないとはキミは馬鹿だけでなく阿呆でもあるらしい」


 少女はそう呟くとトン、と軽い音と共に椅子から地面へと降り立った。タンタン、と革靴を鳴らして外へと赴く。その後に、少し躊躇っていた勇人も続く。


 そして外へ出た瞬間――ぶわっと暖かな風が彼の体を包み込む。


(何だ?)顔を上げると、桜の花びらが彼の髪に乗っかる。


 摘まんで花びらを軽く眺めた。それを見てふっと淡く儚く笑う。


 花びらを手中に入れながら彼は夜美の元へと歩いていった。彼女は桜が舞う所で呆れたため息を漏らす。


「早く来ないかい。女子を待たせるとはキミは男として最低最悪だ」


「そっちが何の説明も無く行っちまったからだろうが!!」


「全く、折角このボクが直々にキミにここが何処か教えようとしていたのに……この恩知らず……」


「おい、今小声で何言いやがった?」


「まぁ恩知らず!! はおいておいて、だ」


「お前大声で何言ってやがんだよ本当に!!」


「そんな小さな事は気にせず、見てみたまえ」ピッと先ほどまでいた建物を指して「ここが、その正体さ」


 そう言われ、彼はゆっくりと振り返る。建物は古い駅の様な形をしていた。


 木造建築で駅名が書かれる筈のプレイトは真っ白なままだ。古びた感じを纏っており、何時でも壊れてしまいそうなレトロな雰囲気を持っている。


 勇人はもう一度じっと眺めてから「…………いや、やっぱ分かんねーんだけど……」


「何だって? キミはやっぱり馬鹿で阿呆で無知童貞野郎なのかい?」


「お前はアレか、俺を怒らせてぇのか? 誰が馬鹿で阿呆で無知だって!?」


「童貞は否定しないのかい?」


「…………」


「ふむ、ボクは血も涙も無い訳じゃないからね。深追いはしないでおこう。まぁ、ここの説明だが……簡単に教えるのは実につまらない。そうだ、ヒントを出すから答えてくれ」


 少女は腕を上げる。ダボついた駅長の服から真っ白な細い指を五本伸ばした。そしてグーを作り上げてから人差し指だけを伸ばす。


「ここはただの駅じゃぁない」


「そりゃそうだろ。さっきからレールはあるっぽいのに電車全く走ってねーし。つーかお前が駅長って時点で可笑しいから……」


「五点」


「手ひどい答え来た!?」


「一〇〇点満点だから頑張りたまえ。頼むからボクを失望させないでおくれよ? さて、次のヒントだ」中指も伸ばし「駅と駅を繋ぐ場所じゃなく、ある世界と繋ぐ場所だ」


「……ある世界って何だよ? 死者の世界とか?」


「ふむ。二三点。若干惜しい所へ来ているが……」


「……死者の世界が惜しい?」勇人は何時の間にかマジメに考え始め「……まさか……天国とか、地獄とか?」


「五〇点」


「え、じゃあここは俺が生きてる世界と天国とか地獄とかを――」


「ふむふむ、まぁ九〇点くら――」


「繋げて俺の生きてる世界で死んじまった奴の魂を天国と地獄へ葬送する場所なのか!?」


「マイナス一〇〇点」


「マイナスってあり!?」


「行き過ぎだ。途中までいい線を行っていたにも関わらず、キミは実に悲しい少年だよ」ふぅ……、と夜美は重いため息を漏らす。


 このやり取りを続けても終わりが見えないと思ったのか彼女は手を下ろし「答えを教えるさ」と呆れた声で呟いた。


「ここは二度と出会えないはずだった、生者と死者を繋げる駅。生者が死者に逢いたいと望めば。死者が生者に逢いたいと望めば。ボク達がその願いを叶える場所さ」


 さて、と呟くと少女は妖艶に笑う。年不相応な、怪しく美しい微笑を湛えて彼を射抜いて、小さくそれでもはっきりと囁いた。



「――キミに逢いたい、と願っている人にキミは逢いたいと想うかい?」




初めまして、高戸 優と申します。


駄文すいません…グダグダ展開すいません…。


少しずつでも更新していこうと想うので、どうか温かく見守ってください。


次回は話も進むと想うので…。


では、また逢えましたら♪


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