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精霊王転変  作者: 笹野
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第五章 シャール渓谷2

バスコーとハリーはナーノが何者なのか訊いたが要領を得ず、結局名前とノサッポが故郷と言う事だけ聞き出し満足することにした。

どうせ里に降りれば警察に渡してさよならする間柄だ。

ナーノに煮込みの残りをあげて、自分たちはこの森に住むコザガラを探していると話し出した。


「コザガラ?」

「そう。コザガラ」

「あれは伝説じゃないんだよ」

「そうそう。実はいるのさこの山のどこかに。」

もくもくと食べるナーノ。

「疑っているね。どうせ俺たちは変人さ。」

「あの・・・・・・コザガラって何?」

「へ?」

「は?」

「知らないの?」

「知らない。」

2人はナーノに向かいにっこり笑った。その笑みはもう少しで高笑いに変わる寸前、なんとか押さえているようなひきつりにも似たものだった。



「コザガラは聖骸霊録という本に載っている逸話に出てくる仙人なんだ。童話に『とんがり山の仙人』というのがあるだろう?それに出てくるコザ爺さんというのはコザガラの事なんだよ?」

「ふーん」

知らないと言うとまた話が脱線するので相槌を打つナーノ。

「コザガラは1000m先の話を聞き、暗闇を飛ぶ蝙蝠のはばたきを数え、霧に姿を変え山を駆け下り、風となって天に上昇すると言われているんだ。」

「その姿は百を超える老人だと伝えられている」

「コザガラは一種の自然生命体だろうね。この星自体を一つの意思を持つ超自然生命体と考える説は知っているかい?」

「ううん」

知るわけがない。

「この星の営みのすべては偶然や法則なんかの出来事ではなくある意思によって行われている。雨も風も雲も大地の恵みも何もかも」

「そして、この石ころ一つ一つにも意思が宿っている。」

バスコーが手元の小さな石を拾ってかかげる。

そしてまるで宝石を扱うがごとく静かに胸に抱くのを見て、ナーノはもはや話しについていけなくなった。


「コザガラは仙人と言われているが精霊だろう。この山に宿る精霊に違いないと思うんだ」

「精霊?」

「山というのは、いろいろな生命体の結晶なのさ。土も石も木もそこにすむ動物たちもね。それら全ての総合生命体というところかな。」

「精霊・・・王」

「おや、精霊王を知っているのか?」

「精霊王に関してはタブーが多くてね。もちろんキリークではその言葉を口にしただけで警察が飛んでくる」

「そうさ。精霊まではOK。それに王とか、いわんやエルとかきた日にぁあ・・・」

「あぶねぇ!あぶねえぞバスコー。今君は何と言った!?」

「は!精霊と王とエルであります。」

「続けて言ってみろ!」

「それは・・・ごかんべんを~」

「言え!」

「はっ!精霊王エルであります!」

「よく言った!おまえに10年の服役を言いわた―――す!」

「ってなもんさ」

おちゃらけていた2人はナーノの変化に気がつかない。

「精霊王エル・・・」

「だから言っちゃだめだって」

ナーノの顔色は蒼白。ゆるりと立ち上がり天に向かい叫んだ。

「精霊王エル!」


その時地面がゆれた。

「うわっ地震だ!」

「川がやばい!」

「地割れか!?」

すぐさま荷物を手に持ち川べりから離れようとする2人。

ナーノは未だ焚き火のそばに立ち川を分断する地割れに向かい大きな声で呼んだ。

「コザガーラン!!」


地割れに川の水が怒涛のように流れ込みぶつかり合いしぶきを飛ばし、霧を生んだ。

やがてその霧は一つの形を作り出してゆく。


「コザガラだ!」

「写真取れ!早くバスコー!」

「わーってる!」

2人がわたわた荷物を解いている間にその像は老人の形となりナーノのそばに歩み寄る。

「王・・・よくおいでくださいました。」

ナーノは霧の老人を見つめた。その目は深い闇に覆われ底がない。

そこにいるのは精霊王エルの意思を伝えるただの中継道具。

「全ては変わる。だがそれは螺旋を描く」

「上にでしょうか?」

「そうだ。だから希望を持つのだ」

「王よ・・・」

「この子を助けよ」

「この人間の子を?・・・では」

「この子の運命は我に到る。そしてもう一人・・・たのむ・・・」

「わかりました。」



一陣の風が通り抜けた。

老人の姿は一瞬にしてくずれ霧が晴れてゆく。

バスコーとハリーはシャッターが下りないカメラを必死にいじくりまわしていたが被写体がいなくなりケンカをはじめた。

ナーノはただ一人取り残され、川を見つめている。

川を裂いた地割れはぴたりと閉ざされ、まるで何も無かったように鳥がさえずる。

鳥?いや猿か?

その声のする方に目を移すと、そこには人影があった。

長い髪を腰まで落とし静かに近づくシルエットは女性のもの。

木陰から陽が漏れてその女性の顔がはっきり見えたその時、ナーノは何の疑問も無くつぶやいた。

「母さん」


女性はキリーク王国の隣国アルシュ王国から嫁ぎ、非業の死を遂げたソフィア王妃その人だった。


超常現象は何のてらいもなく受け入れ食いつくハリーとバスコーだが、あまりに現実と近すぎるせいかその女性がソフィアだとすぐに信じることが出来なかった。

キリークでは王女ソフィアとヴァレリオ王との結婚は大々的に雑誌や街頭テレビに取り上げられ、その顔は誰もが知っている。

であるゆえにこの女性が王妃にそっくりなのは2人とも認めるところだし、そもそもその所作は上流貴族のもの。


・・・とはいえ、疑問も残る。

病死と発表されたソフィアは、実はユリカゴ進入後に異常出産をして死亡した?

しかもその子供はユリカゴの中でエルと共にまだ生きていると??

で、その子に一目会いたくて王妃は生き返った???

それに加えて、ナーノが実はエルの力により生まれた第二王子だと言われても・・・


しかし、目の前でナーノとコザガラが話をしていたのは事実。

ナーノと精霊王が強力に結びついているのはコザガラがナーノに頭を垂れただけでも判る。

そうとなれば2人としては、ナーノと離れるつもりも無い。

彼が母さんと呼ぶこの女性に付いて行くというのなら自分達も同行しようじゃないか。

2人は彼女の―――ソフィアの望みどおり、車でアルシュ王国に出かける事にした。


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