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精霊王転変  作者: 笹野
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番外 第16章-精霊王解放後 6

文章堅いし、流血シーンや残酷表現満載。


第22章の会話

「この肉体から解放されるべく考えうる事をやってみたが、結局無駄に終わった・・・」という話です。

飛行船で火口付近をホバリングしながら火口の様子を伺うと、溶岩がちらりと見えた。

まだ小さく爆発を起していてこぶし大ぐらいの火山弾が煙と共に飛んでいる。

この活火山は400年ほど噴火していなかったが、こんな横っ腹から噴火するとは・・・

問題は、突発的に出来た火山だと言う事だ。

中の溶岩は少量で、地殻とはすでに切れ供給もなさそうだとういうこと。

つまり溶岩が近いうちに冷えてしまう可能性がある。


もしそうなればアルフィードは生身の身体のまま岩の中で生きなくてはならない・・・考えただけでもおぞましい。

ただ、溶岩は水と違って人体がそうそう中に沈まない。

エル様が潜ろうとさえしなければ表面に浮いているはずだ。

サーモグラフで見てみると、ぽつりと温度の低い場所がある。

これだろうか?


熱に強い高純度鉄とセラミックの籠を用意してはいる。

・・・が、どうやって彼に近づく?

そして、もしエル様に出る気がなければもう一度噴火するかもしれない。


・・・どうする?

正攻法だけでなく・・・何か・・・


*****


ううううう・・・・・・・っっっっっっっっ・・・・・ああぅぅぅぅぅ・・・・

身体なんてもう無いはずなのに

もうとっくに炭になっているはずなのに

生まれる

肌が

髪が

骨が

そして痛みが!

生まれて死んで生まれて死んでそしてまた生まれる・・・


新しく出来たばかりの火口奥に溶岩が滾っている。

その上には黄金で出来た美しい少年の彫刻像が横たわっていた。

それは奇妙な輝きを放ち、こげ茶につつまれてはそこから白い肌が現れ、と思えば一瞬で金色の火を噴いてまたこげ茶につつまれそこから・・・と、目まぐるしい色の狂乱に包まれている。

アルフィードである。


苦痛の極限でうめいているアルフィードにはもちろん見えてはいなかったが、ぼっかり開いた火口に何かが動いた。

と、そこから何かが落ちてきた。

丁度アルフィードから1mほど頭の上。

それが何かは判らないが、それのせいで溶岩が少し波立ち、頭上は新たに火をふいた。


ぐぁぁ・・・!


そして今度は1mほど足の下。

それもまた波を作り足裏に黄金が踊る。


あぁぁ・・・!


そして

その次にアルフィードの身体の上にそれが落ちてきた。

それが目の前にせまった時に突然右腕が上げられパシリッとそれが受け取られた。

その目は緑にひかり、手に受けたものを凝視する。

手の中では何かが炎を吹き、焼け崩れてゆく・・・なんだ?これは。

意識を浮上させたエルはその手の中で燃え上がる炎を見つめ続けた。


!!


思い当たっるものがようやく明確になりエルはそれを握りつぶす。

手の中で青い火が強くゆらめき握った指の間から黄色い炎を吐き出した。


くくく・・・


燃えあがるスペクトラムにエルは笑う。

それは初めてエルが感情というものを露にした瞬間でもあった。

そして、頭上からゆっくりと何かが下ろされてくるのを感じ、溶岩の上に立ち上がった。



アルフィードを回収したビオルブは、彼の身体の熱が冷めるまで山麓に広がった火山灰の荒野に彼を横たえた。

見た目はすでに普通の肌だが、布をかければ発火するほど熱い。

最初は雪をかけて冷やしてやろうとしたが、ひどく痛がるのを見て止めた。


「アルフィード・・・話をするのは苦痛か?」

「いいえ。ビオルブ様。」


横たわるアルフィードの顔を覗きこむように話しかけたビオルブだったが、引き上げた時から感じていた違和感の原因にようやく気がついた。


「おまえ、成長したな。」

「?」

「ああ、いや。本人は判らないか・・・肉体が5歳くらい成長しているぞ。見た目は少年じゃなく青年だ。」

「そうですか。」


本人にとってはどうでも良い事だろう。

だが、これで仮説は立てられる。

これを何度も何度も繰り返せば肉体は新陳代謝の末、老化しやがて死に到る。

だが、そこまでたどり着くのにどれだけの苦痛を背負わねばならないのか・・・そもそも肉体が死んだとしてそれは肉体が滅びた事になるのだろうか?

肉が土になったところで、今度はその土にエル様は閉じ込められ出られないのでは・・・?


「まだ熱いか?痛みは?」

「いいえ・・・何もありません。冷んやりしてとても爽やかな気分です。」

溶岩の上からここに来ればそうだろう。

だがここの灰はまだ熱を内包しているのだ。耐熱装備のビオルブは苦笑した。

「1日くらいかけてゆっくり冷やしていこう。もう大丈夫だからな。しばらく眠りなさい。」

「はい・・・・・・」

アルフィードは目を閉じ深い眠りについた。

ここに在ることを無上の幸福と思いながら・・・


だが。


「ビオルブ。」

その声が変わる。

「はっ、エル様。」


アルフィードを優しい眼差しで見ていたビオルブの顔はすぐに引き締まり、エルに対してひれ伏した。


「お前が差し入れてくれたものは何ぞ?」

「はっ、チルチ火山山麓にあります特殊な土壌です。」

「2億年前の遺産か?お前が残したのか?」

「いえ。」

「ならば誰があれを残した。」

「・・・わかりません。少なくても人の手により造られたものではありません。この星誕生の時にはすでにあったものが地層の隆起により地表に出てきたものだと思われます。」

「そうか。」


エルはビオルブの言い分を聞くだけ聞いて沈黙した。

そして・・・チルチ火山のまわりをさぐり見つめてみた。

自分が見たあの青に黄が混じる炎・・・あれは確かにこの星が生まれ始めた頃に見たような気がする。

まだ全てが混沌の中で精霊も生まれたそばから死んでゆく・・・そんな時期だ。

あれもまたこの地を形成している要素であり力を我に与えているもの・・・でありながら、我を縛る縄である。

エルの手が軽やかにひらりと舞った。

するとチルチ火山の一帯に大きな地震が起こり、その山麓の大地が大きく陥没した。

そこに山からの土砂が流れ込んで辺り一帯を覆いつくす。

火口からは噴煙が上がりその上から火山灰を撒いて白い廃墟へと変貌させた。


これでいい・・・だがこの“人間”という生命体、それこそチルチ山麓の土より強固で厄介な縄だ。


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