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精霊王転変  作者: 笹野
32/45

第三十章 キリーク宮殿2

流血+グロ表現続きます。

室内の目が一斉に正面の3人に注がれている時、まったく逆の方向で何かが動いた。


パタン


その小さな音に気がついた者はいない。

だが次の瞬間全ての者がいっせいに入り口の扉に顔を向けた。

「おまちなさい!」

凛とした声にフェルーン王をはじめ全ての者が呆然としてその女性を見つめた。


王妃ソフィア!

ユリカゴ爆発の原因、精霊王喪失の元凶、キリーク王国を崩壊させた隣国からの雌狐・・・!


純白のドレスに白絹のショールで全身を包んだソフィアが、スッ・・・スッ・・・と玉座に向かい歩いて行く。

だが誰も手出しはしない。

近衛兵も警備兵も動けずただ王を見た。予想を超えた存在の出現に命令がない限り動けない。

それを知ってか知らずか、ソフィアはフェルーン王の前に立ち淑女の礼で軽く膝を折り居住まいを正すと真正面からフェルーンを見据えた。

「アルシュ国王陛下。お久しゅうございます。よくキリーク王国にお越しいただきました。キリーク王妃として歓迎いたします。」

「・・・」

フェルーンは微笑んだままソフィアを凝視した。

ソフィアではない。あれはユリカゴ爆発と共にこの世から消えた。

だが。

顔も声も姿も所作も全てがソフィアだ。以前もこうやって唐突に俺の目の前に現れたな。


ソフィアは・・・こいつは不死身なのか?


「死んだと報告を受けた・・・」

「ご覧のとおり生きております。」

フェルーンは玉座から降りてソフィアを間近で見る。

本物だ。間違い無い・・・このどうしようもなく使えない我妹・・・何故今ここにいる!

「近衛兵!こいつは偽者だ!ひっ捕らえろ!!」

待機していた近衛兵はすぐに行動を起こした。

同時に警備に入り込んでいた公安も客席に居る貴族達が反抗しないよう立ち位置を変え剣を手にした。

そんな周りなど気にする様子も無くソフィアは手を広げた。

「ナーノ!おいでなさい・・・」

ナーノはあれほど追い求めた母の出現に全てを忘れ駆け出した。

「かあさん!」

母と子が抱き合おうとしたとき近衛兵の一人が2人の間に入りソフィアを掴まえようとした。


ザザザザァァァッ・・・・

雨が石畳を打つようなそんな音がした。


2人の間にはもう誰も立ってはいない。ただ肉と血と近衛兵の制服が床に長く擂りこまれている。

ナーノはそれをやすやすと踏み越え母の胸元に飛び込んだ。

「かあさん!かあさん・・・!」

「ナーノ。会いたかったわ・・・」

ナーノの背中の発光が全て赤になりアラートが鳴る。だが、そんな事はもうどうでもいい!会えた。生きてた!あのユリカゴで見た残酷な光景は幻・・・悪い夢だったんだ!・・・ああ・・・この温かさ、心臓の音、生きていたんだ・・・かあさん!


間近に居た王はもちろん、近衛兵達もこの瞬時の惨殺を見てひるんだ。

精霊の仕業。

それ以外になにがある?

それ以上にひるんだのは実は公安局から来た警備兵である。

彼らは14年前のキリーク宮殿攻略の内情を知っており、精霊がどのように動きその攻略方法が無い事も知っている。

静かにさりげなく彼らは謁見の間から出て行こうとした・・・が、すでに遅い。


床がゆらゆらと波を打った。

すでにドア近くにいた公安の一人はいきなり上へと突き上げられた。

床から勢いよく突き出た水晶が彼の身体を貫いて声を立てる間もなく瞬殺した。

それにひるんだ同僚も驚いた表情のままその場で串刺しにされた。

次々と突き出る水晶の針・・・

裏出口のまわりはすぐに水晶に閉ざされ、その上からは絶える事無く赤い雫が滴っている。

後ろの扉に向かった者はもっと悲惨で、扉にたどり着く前に見えない空圧でその場に潰され、何人分なのかわからない血溜りのカーペットになっていた。


ソフィアはひざまずき、ナーノの身体を抱きしめた。

ちょうど目線が同じになる。

「ナーノ。わたくしのいう事をよく聞いてね?」

「かあさん。」

「母はこれから遠いところに行きます。もう会えないわ。」

「かあさん!」

ナーノはソフィアの首に強くしがみついた。

嫌だ!またこうして会えたのに!!どこにも行かせない。どこにも!!

「行かないで!!」

「あなたはわたくしとヴァレリオとエルの子・・・強くおなりなさい。こんな事にならないように。」

ソフィアはナーノの身体をさすってあげた。

その指に背中の突起がゴツゴツと当たる。

ナーノは感情が高ぶりすぎてそれに答える事も出来ない。

「さあ・・・全部取りましょうね。」

ソフィアは、ナーノに抱きつかれたままその白い手を静かに背の黒い突起物に添え、力いっぱい引き抜いた。

ナーノの背の皮がそれに引きずられ、ちぎれて血が噴出す。いや、それさえも人工のものだった。骨も血も筋肉も肌も脳さえも全て人の手が入っている・・・それが今のナーノだ。

激しい痛みがナーノを襲う。人工神経がひりつく。

痛みに震え強く抱きついてくるわが子の悲鳴を聞きながらソフィアはナーノの身体から次々と機械部品を引きずり出した。

ソフィアもまた泣いている。

運命に翻弄され続けた母と子はお互いの涙に濡れながら、機械と配線の束縛を解いていった。



ナーノの身体から部品が取り除かれるたびにそのアラートは消えていった。

技術者達はそれが何を意味するか判っている。

多分、地下で勤務している同僚達は炉の暴走を止めようとあらゆる手段を講じているに違いない。何とか止めなければ!・・・だが、目の前の近衛兵の死に様がどうしても視界に入って踏み出せない。

そこに場違いにも王女に近づいて臣下の礼をした男がいた。

「ソフィア様、始めてお目にかかります。リック・ニイバーと申します。忠心から一言申し上げたいのですが・・・」

「何でしょう?」

「それを外しますと地下の炉が爆発するかと思われますが・・・」

ソフィアはニッコリと笑った。

「ありがとう。その他には?」

「炉の中に居るエネルギー体は外に出れば暴れるだけですが中にいれば我々の良きパートナーです。あの精霊達をどうかあの場所から追い出さないで下さい。」

「それは承知できかねますわ。」

ソフィアはリックの目の前で最後に残ったうなじの突起を引き抜いた。


ナーノの身体が痙攣する。

リックは次に起こる衝撃に身を構えた。

ソフィアはナーノを強く抱きしめ、それでも容赦なくずるずると線を引き出す。


爆発は起きなかった。

炉をどっしりと支えていた床がぐらりと傾き炉がわずかに・・・本当にわずかにその巨大な鋼が捻じれ、圧力の均衡が崩れた。

そして炉の外側から電撃と空圧がその不均衡を突き一体鋼板の炉を2つに割った。

だが何も起きない。

中から外を見上げる異端の精霊達と外から覗きこむ精霊達。

力は拮抗し炉の割れ目を境にお互いが睨みあっている。


ナーノは気が遠くなりながらも母を呼んだ。

「か・あ・・さん・・・」

「ナーノ。全精霊と共にお前を見守っていますよ。いつでもお前のそばにいますからね。」

ソフィアは自分がかけていた白絹のショールをナーノの身体にかけてやりぎゅっと抱きしめた。

そして身を離すと我子の顔を見つめ・・・やさしくその髪をなでて唇にキスをした。

ナーノは急に目の前が暗くなり何かが自分から消えてゆくのを感じた。

身体がひどく・・・重い・・・。


ナーノは気絶するように眠りに落ちた。


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