第一章
ソフィア王妃がエルにより聖源室まで辿り着きシールド内に入ってから全てのエネルギー供給が止まった。
国内はもちろん電力供給していた近隣諸国も騒然となったものの、結局5分もしないうちに予備電力が働き1時間内に50%の地域が復旧した。
ユリカゴ内はエルからのエネルギーを使用しない構造になっているのでシールド消失も免れ予備電力への切り替えもスムーズに行われたのだ。
エルはシールドまで王妃を呼び寄せたものの、結局彼女の中の御子に閉じ込められ逃げることはできなかった。
円形高圧場の一部:彼女が入り込んだ場所に脆弱性を発見した研究員はさっそくそこを改良し、3重構造にすることで外からのみの接触を可能にし、王妃に食事を差し入れる事に成功した。
シールド内で生きていくだけの最低限度の用意を・・・とはいえ。
そもそも、なぜ普通より60気圧も高いシールド内で王妃が生きていられるのか。シールドの境目から15cm中までは高温蒸気で包まれているのになぜ無傷でそこを通り抜けられたのか・・・
謎には答えを。
シールド研究と平行して人体研究のチームが加わったがそれも長くは続かなかった。
予定より3週間も早い御子誕生とともに彼女は出産時にショック状態に陥りそのまま亡くなってしまう。
シールドの中の王妃の遺体は3日もしないうちにミイラ化してしまった。
そしてその横には・・・
出産の時に同時に出てきた胎盤がしだいにその血脈を広げ、そのあいまに皮膚状の膜を形成し、まるでチューリップの花のような柔らかい曲線のドームが形造られた。
その膜のむこうに安らかに眠る嬰児の姿が見える。
エルだ。
検査の結果、出産時にひどく乱れたエネルギー放出量も3日後には安定し、シールド内は一ヵ月間の測定結果が出たところで非常事態体勢を解いた。
さて、彼女の死体はその間に縮み続け最終的には50cm程の丸太炭のようになってしまった。
国王は出来るならば王妃を土に埋めたいと思い、研究員はシールド内に異物がある事に不満を持っていたので、彼女の死体を絶対安全に取り出すプロジェクトは難なく立ち上げられ、試行とシミュレーションを繰り返し1年後ついに王妃は地上に戻ったのだった。
だが、王妃の為に特殊素材をコーティングされた石棺が地中に納まり祈りが捧げられたその時、王をはじめ全ての参列者が地中から霞の立ち上るのを見た。
何も知らない者はただの錯覚か朝霧の名残かと思うほどのわずかな白い霞。
だが、聖源室を知っているヴァレリオ王にはそれで十分だった。
帯刀していた名刀“エルドリス”を抜くと一刀両断にその霞を切り裂いた。
だがそれはまるでその行為をあざ笑うかのように一瞬刀にまとわりつきそのまま四散した。
これはエルの残滓に違いないと国王は全世界にその跡を追うべく調査団を送り出す。




