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精霊王転変  作者: 笹野
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第二十一章 二人の王子

そりゃ見たことあるわけだ。

我らがヴァレリオ王とソフィア王妃の御子。

もっと正確に言うとこの2人の間に出来た御子に乗り移っている精霊王エル。

長いブロンドの髪が月光を受けてほのかに金を反射している。

そのゆるやかなウェーブに見え隠れする額から頬のラインはやわらかく、ソフィアの面影があった。

ナーノも成長すればこうなるのか・・・だがナーノは死んだ。石となって・・・

バスコーは自分の左手をしみじみと眺めた。

肘の関節から前腕の中央までは肉体のままだが、その先は徐々に肌色の大理石になっている。

そして手首の下で砕けてその先からは無い。

断面は赤と白と肌色の小さな結晶がザキザキと突き出ているのだ。

『生活に窮した時には見世物小屋でアルバイトでもいけるレベルだなぁこりゃ。』

どこまでいっても陰鬱とは無縁のバスコーであった。


さて。

目の前で複雑な会話が続く中、時々ナーノという言葉が出てくる。

ちょうど2人の言葉が途切れた時にバスコーは思い切って声をかけてみた。

「ナーノの死体はどうなったんでしょうか?」

2人がこちらを振り向いた

「ナーノの何だと?」

「死体を・・・といっても石化していて石像になっていましたが。」

「それはどこで見た。」

「キリークの宮殿内の謁見の間です。天井に横たわっていたんですがどうやら落下したようです。」

「そうか。」

それから2人の―――他の者を交えずコザガラとエルが話し合いを始めた。


表情には出さないがエルはバスコーからの情報に喜んだ。

エルはずっとナーノを探していたがようやくその居所が今わかったのだ。

キリーク宮殿・謁見の間。

爆発の時にユリカゴから解放された無軌道な精霊達の拠り所。

ようやく解放されたエルとしてはキリークの宮殿を中心にルーパスを詳しく調べる気にはならず放置していた。

爆発により街が破壊されその後の精霊達の暴走後、エネルギーを使いすぎた精霊は消滅・衰弱した。

そんな精霊達の声がエルまで届くことはなかった。


自分が知らない強力な精霊達がどうやら宮殿にいるらしい。

***** 


トクッ・・・トクッ・・・トクッ・・・トクッ・・・トクッ・・・

心臓の音が妙に耳に付く。

生きている音・・・

トクッ・・・トクッ・・・

さあ・・・逃げなくちゃ・・・

あれ?

目が・・・開かない?

ナーノは床に倒れたまま思考を巡らせた。


ノサッポの地を離れて当てもなくさまよい、何度も夢に現れるソフィアの死にざまに飛び起き、結局自分はただの孤児なんだと自棄になりかけた時、無性にソフィアの痕跡を見たくなった。

アルシュ王国のエズバラン卿に手紙を出し国王にお伺いを立ててもらったが王宮深くに立てられたソフィア専用の館に一平民を入れさせてもらえる筈もない。

そこでキリークの宮殿の中を見ようと思い立った。

ソフィアが居た痕跡があるかどうかさえ考えず藁にもすがる思いで首都ルーパスまできたのだ。

そして最初に訪れたのが謁見の間。

ところが入って玉座に近づいた途端、突然床が波立った。

逃げようとしたが鉄と銀で出来た扉は開かず、地から足を離さなくてはと玉座に上りかけたところ下からの疾風で天井に叩きつけられ・・・・・・・・・


今、床にうつぶせで倒れている。


部屋いっぱいに満ちていた精霊の気配がいっさい消えてしまっている。

身体が重いのは何メートルもある天井から落ちてきたせいだろうか?

しかしどこにも痛さはない・・・腕や足はもちろん瞼さえ動かす事が出来ないだけだ。

これじゃ床に縫い付けられた標本じゃないか!

いくら頑張っても身じろぎひとつ出来ないナーノはやけになりふてくされた。


床にうつぶせ状態のナーノは自分の身体が石化している事に気が付かない。

そして自分のうなじに小さな電極が付けられ規則正しいパルスを発している事を。

その材料は王座に残されたコミュエルの一部。

今までばらばらにうごめいていた宮殿内の大精霊達が今や一つとなり、ナーノを自分達の王に・・・精霊王にすべくその体に干渉した。


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