第十八章 コミュ☆エル
さて。
そんな中、画期的なおもちゃが発売された。
「精霊と会話しちゃおう/コミュ☆エル」
一見小さな拡声器である。会話したいものに専用のピタッとシールを付けその先にあるイヤホンを自分の耳に。そして特製拡声器を向けて話しかけるのだ。
すると、石でも草でも話をしてくれるという。
最初に買ったのは・・・大人たちだった。
子供時代に沢山のおもちゃに取り囲まれ、高度な文明の中で育った大人たち。
面白いものには無意識に飛びつくという習慣がまだ失われていなかったのだろう。
そして、このおもちゃが非常に性能が良かったため爆発的に売れた。
例えば、拾ってきた小石におもちゃを試してみたら、自分はこの土地の出じゃなく隣の県の◎×山から来ましたと答えたという。そして、エル開放の時には自分も怖かったと。
でも今はみんな落ち着いてきているから心配するなと励まされたとか。
また庭の草に話しかけてみたら、明日からしばらく雷雨が続くと天気を予言したという。
用事があるなら今日中にやれとまで言われ、その通りにしたおかげで小事が大事に至らなかったとか。
会話の中で出てくる天気の予言は特に的中率が高かったので、それも相まってヒット商品となったのだ。
「社長。お茶をどうぞ」
「ああ」
社長室で事務机に座りながらお茶を飲む男が一人・・・ハリーだ。
社長室といっても8㎡ほどの殺風景な部屋。
社長の机の前に応接間セットという名の丸テーブルと簡易椅子が置いている。
爆発的売れ行きのコミュ☆エルであるが社屋は貧相のまま、ただ工場だけが設備改善・投資されていった。そして今、自主発電装置を敷地にぶち立て安定した電圧で100%まかなっている。
そのシステムの基礎となっているのはアルシュ王国の古い文献にある天然ガス利用方を基にしたものだ。
かつて”ユリカゴ”ではエルから流れ出てくる雷による放電を自在に操り、安定した電気エネルギーを全世界に供給していた。その莫大なエネルギーから見るとほんのスズメの涙ではあるが今の設備には十分なものだった。
机の上の電話が鳴った。外線から直接つながったようだ。
「おう!バスコー!そっちはどうだ?」
ハリー社長はでかい声で話す。
今、バスコーは”自然に学ぼう”ツアー企画のためかつてのキリーク王国に来ていた。そこにはぐんにゃりとひん曲がった中央塔の姿。
将来への警告のためとか何とかで、撤去されないまま歪んだ姿を晒している。
つまりは撤去作業の費用も技術も無いのだ。
「あー。とっても良い保存状態だよ。今、王宮の入り口だけどひどい有様だ。」
「ぇ?掃除とかしてないの?」
「埃や塵はさすがに無いけど建物のヒビはそのままだ。」
「それを残しておくことに意義あんのかね?」
「まぁ・・・台風が10回も来れば確実に崩れるね。」
「結局あの大爆発でも王宮は吹き飛ばなかったんだもんなぁ・・・」
感慨深げなハリーの声が受話器から漏れた。
「エルの思し召しかね。」
「んにゃ。とにかく早くそこから遠ざかりたかったんだろ。」
「そりゃそうだ・・・で、ツアーにここを組み込むのは無理だ。来るまでの道がつらい。」
バスコーにしては珍しく嘆くような声。
「つらい?デコボコすぎて乗り物酔いしそうなのか?」
「違う。あまりに文明臭が残りすぎて。爆発前を知らない奴なら何も感じないかもしれないけどね・・・つらくて見てられないよ・・・あの壮麗で華やかだった王宮通りが人っ子一人いない廃墟だ。」
「そうか…ま、我々もドSじゃないから、そういう事なら首都めぐりのルートは却下ね。早くこっちに戻ってきな。今日、浜の漁師さんからアマイカ2ハイもらったんだ。」
「なんっ・・・!そっちに帰る頃には無くなってるだろ!それ!」
「予定は・・・あっ10日後だったね。とっとく?」
「いらんわ!」
「で、コミュエルの結果はどうだったんだ?」
ハリーの声がシリアスになる。
ツアー企画下見は二の次で本来の目的は、エルが閉じ込められていた塔と王宮でその場にある自然のものに宿る精霊と会話する為だった。
「言葉として拾うのがかなりむずかしい。泣き声ばかりだよ・・・見捨てられたと言っている。」
「・・・わかった。」
その後は、霊山と聖地の話に移り、無事に帰るようにとお決まりの文句で電話が切れた。
久々にコザガラ探しに出掛けたあの日。
彼らはコザガラに会うことはついには出来なかった。
だが、帰宅途中であることに気がついたのだ。
『俺たち2人ともあの巨大な岩に出会ったじゃないか!』と。
2人は後日装備を整えて再び巨大岩に会いに行った。そして、会話とも言えないが意思の疎通ぐらいは出来ると確信したのだ。
それとは別に気象○チガイの友人から天候に関する膨大な資料をもらい、異常気象後の天候変動予測システムをインプットした簡単なチップセットを作り出した。
それらを組み合わせて出来たのがコミュ☆エルである。