プロローグ2
新月は中天より傾き、東の空はほんのり明るい。
塔のエレベーターは徐々に高さを増してゆき王妃はその窓から遠くの地平線を静かに眺めていた。
やがて、エレベーターが止まり、ついた先はエネルギー源隔離施設”ユリカゴ”
エレベーターから一歩踏み出すと、ゆるいカーブを描いた廊下に出た。
廊下に沿って入り口に何かの装置がついたドアが並び、そのドアの小窓から機械類が立ち並んでいるのが見える。
全て自動制御されているのか人っ子一人いない。
廊下をぐるりと周ると、鋼鉄の扉がいきなり目の前をふさいだ。
手の中にある鍵をおもむろにその扉の横の穴に指し軽く回すと、カコンという小気味良い音がして扉が開いた。
そこは広いフロアにやはり制御装置なのか、おびただしい数のボタンとスライドバーと液晶画面が連なっている。
そしてフロア奥に見える幅広い螺旋階段。
ガランとして誰もいないフロアをソフィアは足早に突き進み螺旋階段を上へと登って行った。
そしてついに辿り着いた黒と黄の扉に手をかけると思い切り左右に開けて中へと入っていった。
部屋の中は10㎡ほど。四方の壁・床・そして天井も特殊な石が使われているようで、押せば少しくぼみ、離すとゆっくり元に戻る。
そんな部屋の中央部に直径5mほどの円形の台があった。
その縁から上部にかけて霧のようなものが絶え間なく放出されている。
『きれい・・・』
なぜか王妃は懐かしささえ感じた。
薄暗い部屋の中、そこはまるで海を切り取ったように青い光がゆらめいている。
そしてその中央。
そこには空中にうかぶ、こぶし大の黒い石。
それを上下でおさえつけているような直径15cm程の皿状の何かがあった。
これが封印されている精霊?
こんな石ころが?
王ったらこんなものを私から隠していたの・・・?
王妃は円形のシールドをひとまわりして、ある場所から静かに円形の台の上に乗った。
何も起こらない。
ちょっとにじり寄って中央の皿に近づく。
ゆっくり観察してみると、石はただ黒いだけではないようだ。
シールドの光なのか自ら発光しているのか、黒い石の表面がキラリと青を放つ。
きれい・・・
王妃は手を差し伸べ
バリバリバリバリバリ
突然の放電が王女を襲った
暗い・・・
照明が切れたの?・・・
ああ、何だか身体がだるい・・・・
ユリカゴの中心部に”聖源室”と呼ばれている場所がある。
その入り口は厚い扉が二重に重なり黒と黄のまだら模様をつくりあげ、ある場所を押さえないと開かない構造になっていた。
それを知る者は少なく、ましてやこの部屋に入る権限を持つ者は尚少ない。
そして今、4人の男達がその部屋の中で話し込んでいる。
研a「誰も気が付かなかったのです。」
研b「ええ。我々はあのフロアでずっと仕事をしていたので気づかないはずがないのですが・・・」
王 「エルの力が漏れていたのか?」
研a「そうとしか考えられません。」
医 「気が付かれました。」
医者の声に振り向いた王はシールドぎりぎりまで近づいて、中で横すわりのまま俯いている王妃を心配そうに見た。
王 「大丈夫か?」
この声はヴァレリオ?・・・ああ・・・
王妃「ごめんなさい。」
王 「・・・」
王妃「私…どうかしていたんです・・・もう2度とこんな事しません。許して・・・くだ・・・さい」
儚げに体を崩し泣く王妃を見かねて王が研究所員に詰め寄る。
王 「おい。彼女の中に本当にエルが入ってしまったのか?」
研a「ええ。間違いありません。残念ですが御子はすでにエルに乗り移られております。」
なんという・・・!
もうすぐ我手に抱けると信じていたわが子に?
手で撫でればそこに命があると判るほど成長していたわが子・・・・・・!!
王 「ソフィア…君をそこから出すわけにはいかなくなったようだ。」
王妃「ああ・・・王・・・どうすればその怒りを静められるのでしょうか?」
王 「出産したら出られるさ。」
研a「王、それは難しいです。」
ヴァレリオ王は憂いの顔に怒りをたたえ研究員を睨んだ。
王 「何故だ!?」
相手が王と言えども科学的事実にのみ忠実な研究員はひるまない。
研a「エルに触れればその影響は絶対です。お妃様はエルと胎盤で繋がった存在です。
たとえ出産して御子と離れたとしてもここから王妃だけを出す訳にはまいりません。同時にエルも脱出する可能性は大きいです。」
わかっている・・・精霊王エル喪失。それだけは絶対に許されない。
王 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ソフィア。残念だ。」
王妃「王!!助けて!私をここから出して下さい!王―――!」
絶句し苦悩の表情を浮かべ王妃を見つめ続けるヴァレリオだったが政道を見失う事はなかった。
妻と子を飲み込んだシールドにきびすを返し、王はその場を立ち去った。
長いプロローグ終わりました~




