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精霊王転変  作者: 笹野
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第十六章

後半に長々と天災の話が続きますので滅入る人はスルーして下さい。

後書きにこの章のあらすじを書いておきます。



バリスは剣を片手に階段を急ぎ登ったが2人の姿は無かった。

そして聖源室の入り口はちょうど人が一人通れる程度に開いている。

『ちっ』

バリスが気配を殺して中に入るとちょうど右側にソフィアが立っており、あわててこちらを振り向こうとしたところだった。

間髪入れず剣でなぎ払うとソフィアはその勢いのまま円形高圧場へと叩きつけられ高温のシールドから蒸気が噴出した。

「!!!!!!」

悲鳴にならない絶叫が同時に起こる。

10年前の奇跡は起きず、そこには半身シールド内に突き刺さった哀れな女がいるだけだ。

だが、彼女はまだ生きていた。腕だけでエルへとにじり寄って行く。

その唇は何かをしきりに呟いていた。

もし聞き取れる者がいたならばそれが人の名と知るだろう。

「アルフィード・・・」


10年前、懐妊を知ったヴァレリオがソフィアの手を握り「絶対男だ!名前は・・・アルフィード!」と顔面総崩れの笑顔で命名した名前だった。


ソフィアの指先がエルの額に触れるとエルは眠りから覚めたかのように薄く目を開き身じろいだ。

がくがくと震えが起こり横にすべり落ちたソフィアの手をすぐに彼の手が握る。

ソフィアはその手を握りかえした。

エルは・・・アルフィードはもう一度強くソフィアの手を握った。

だが、もうその手が、指が、そしてわが子を見つめるその瞳が動くことはなかった。


ソフィア絶命。


フィールドの外では逃げ回っていたナーノがバリスに追い詰められたところだった。

部屋の隅に逃げ込んでしまったナーノに剣がかざされたその時、聖源室の中の光源が落ち全てが闇に包まれた。

それでもバリスにとってすでに瞬殺する用意は完了していた。

躊躇無く剣先はナーノの心臓に向かっていった。


少し考えれば聖源室で光源が消えたという事が何を意味しているか気がついただろう。

それはエルを閉じ込めていたシールドからの光が消えた・・・つまりシールドが無力化した事を意味していた。

だが、バリスは余りにも暗闇で人を殺めることに慣れていた。

暗いからどうだというのだ。

闇は俺に有利だ。

静かにくたばれ。


だが。


「!!!!!!」

そこにナーノはいなかった。

力を込めた剣の切っ先が柔らかな壁に抵抗無く刺さるとその勢いのまま壁が崩れ落ちた。

こちらを睨んでいた獲物はもちろん、その奥にある壁もその外にあるはずの建材も何もかもが総崩れとなってバリスは身を立て直すことが出来ないまま楕円体の中を落ちていき、やがてその外壁をも突き破った。

そしてそれを合図にユリカゴは大音響と共に爆発をおこしたのだった。



どこまでも青く澄みわたり雲ひとつ無い晴天のこの日。

城は血に濡れ、宮殿内は混乱した。

そしてそこから1km上空で銀色に輝く楕円体、通称“ユリカゴ”

それが何の前触れも無く吹き飛んだ。

中央塔はグニャリとひしゃげ、その衝撃音はキリークの領地全体まで鳴り轟いた。


空は一転にわかに掻き曇り、黒い雲が何処からとも無く湧いては空を覆ってゆく。

最初はぽつぽつと降った雨がすぐに豪雨と変わった。

そよりとも風が無かった街にヒュッと突風が吹きぬけ、それを合図に激しい風が地表を駆け回る。

勢いを増す黒雲から雷鳴が轟くと共に雹が降り地上を白く塗りつぶした。

首都の路地はすでに川となり白い雹を浮かべて暴風にさざなみを立たせている。

そんな中、中央塔の上空、ユリカゴだった物の上だけはポッカリと青空がのぞいていた。

その中心に小さな小さな人影が2つ。


妖精王は今や中天にあり、地上を表情もなく見下ろしていた。

そして、その右手に少年がすがりつく。

「エル!やめて!!」

「・・・」

「みんな死んじゃう・・・やめて!!」

「我に止める力は無い・・・精霊王として我精霊達を守る力は・・・もう・・・我はこの100年で千年分も歳老いてしまった。」

「エル」

「我分身にして我敵よ。」

エルはナーノを見た。

「おまえだってわかるだろう。我に王の力は有らず・・・もうこの地上の精霊たちを止める事は出来ない。」

「うそだ!あなたは人を憎んでいるんだ。いいように使われてきたから・・・」

「我が人を憎んだのではない。人が我を憎んだのだ。」

そう言うとエルの姿は風の中に掻き消えた。


一人残されたナーノは天地に入り乱れる精霊達の狂宴を見た。

そして地には右往左往している人の群れ。

眼下の惨劇を見たくないと目をつぶればその眼ははるか彼方まで全てを見通した。

逃げ惑う人々、口々に呪いの言葉を吐き、助けを求め、とにかく目の前の災厄から逃れようとする者達。

今まさに風に叩きつけられ大地に吸い込まれ海に飲まれ火に焼かれ絶叫する人間の姿。

そして天に向かい投げかけられる人々の祈りと怨嗟の声に耳をふさぐ事も出来ず、ナーノはぐらりと空から落ちた。




「ありがとう!!」

「助かった~!コザガラ様によろしく!」

地上のとある建物の上ではバスコーとハリーが空に向かって手を振っていた。

その先には風に嬲られながら飛んでゆく2羽の鷹。


ユリカゴが爆発すると共に空中に投げ出された2人を待っていたのは強い上昇気流だった。

落ちては行くがゆっくりで気圧差からも守られているらしく耳鳴りひとつしなかった。

2人は口にこそ出さないが“これは童話で読んだアレだろ!”と確信していた。

やがて地表が近くなると大きく立派な鳥が近づいてくるのが見えた。

そしてついにハリーが一言

「うわぁぁやっぱりコザガラ様だ!」とつぶやいたのだった。

童話どおりにその羽ばたきに合わせて手を伸ばすと大きな鷲がしっかとその腕をつかみ2人を地上に運んでくれた。


階段を降りて建物から出てみると、道路の水が川となって低い土地へと流れていくのが見えた。ここは山手、首都ルーパスの中でも洗練された中流階級が住む街だ。

「おい!あれ!!」

バスコーが目ざとく何かをみつけ指差す。

その向こうに空から一直線に地上に落下していく黒い物体を見た。

「行こう!」

2人とも躊躇することなく走り出した。


「ナーノ!」

ナーノは誰かが自分を呼んでいる声に気がついて目を開けた。

バスコーとハリーが心配げに顔を覗きこんでいる。

宮殿から1kmも離れていない芝生の庭園にナーノは倒れていた。

あちこちに地割れがおき、芝の緑に黒々とした亀裂がいくつも横切っている。

柵の側を流れる小川は今や濁流となり音を立てて土を削る。

「ナーノ?起きれるか?山手の方に行こう。ここは地割れがひどい。」

「もうだめ・・・もうこの地上のどこにも逃げるところは無いんだ。」

「なに弱気なことを言ってるんだ。さあ!」

ハリーがゆっくりナーノの身を起こし怪我がないかどうか確かめつつ身体をさすった。

「どこに行くというの?この天災のあとに何が来るか知っているの?寒波と干ばつがやってくるんだ。木は枯れ砂漠が広がっていくんだ…」

「もしそうだとしてもなぁナーノ。」

「そ、あんたはまだ生きてる!」

「・・・」

「ほら、バスコーにおぶされ。手を離すなよ。いくぞ!!」

3つの影がひとつになってぐずぐずに崩れていく地表を駆けていった。


精霊王は解放された。


キリーク王国は一夜にして崩壊した。いや、キリークだけではない。

キリークで発生した異常気象はたちまち周辺諸国を襲い、全世界が荒れた。

ナーノはノサッポへと戻ってきたが、ひどい日照りが20日も続き地に緑はなかった。

「ディー様を村から出したのが間違いだったなぁ・・・」

村長は何かにつけそうつぶやく。

村の中には土地に見切りをつけ出てゆく若者が出てきた。手入れされない田畑は荒れ、害虫が発生していった。

それは何もノサッポだけではない。人は飢えに追われるように地上を徘徊し、どこかに留まり、どこかへと流れた。












あらすじ:

バリスはソフィアの後を追い聖源室でついに彼女を討った

しかしソフィアはエルまでたどり着き、ついに精霊王はシールドから自由になった。

精霊王エルは解放されたがこの100年の間に衰弱し、精霊達は道理を失して暴走し、その結果もたらされた天災はキリーク王国に留まらず全世界を蹂躙した。


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