第十二章 アルシュ王国7
ソフィアはリスターが語る最近のアルシュ情勢に静かに耳を傾けていた。
そして全て聞き終わると、ちょっと困ったような顔をして一言つぶやいた。
「お兄様ったら・・・お変わりにならないわね。」
その表情を見てリスターは思い切ってソフィアに尋ねた。
「ソフィア様ならあのお方を変えることが出来るでしょうか?」
「わたくしにそのような力はないですわ。」
「でも」
「エズバラン卿。フェルーン兄様がなぜそこまでやってしまうか判りますか?」
「いえ。わたしには想像がつかないのですが・・・」
「自分に自信がないからです。」
「・・・」
「内に自信が無いならば外の規則を・・・今までのシステムに縋るしかないでしょう?でも自分を信じるに足るものがないから周りの者の言動に揺らされてしまうのですわ。」
「ではどうすれば良いのです。あの方に善く国を統べていただくには・・・」
ソフィアはぬるくなったお茶に口をつけ一口飲んだ。
「あなたは、アルシュ王国に何故500年もの歴史があるのか軽く考えているのではなくて?」
「そのような事は決してありません!」
何故そのような事をおっしゃるのか!心外だ!
「今ある規則はこの500年もの間、数え切れぬほどの国民が練り上げて来たものの一つの形です。そして暴君の時も賢君の時も王貴武農工商に変わりはありません。ならば。」
「ならば?」
「この国の規則の歴史には血が通っています。窮する者を救う術が必ずあみ出されている。それも500年に及ぶ英知と共に。調べなさい。徹底的に。国を、国民を、そして吾身を守る知恵が歴史のそこここに埋まっています。これを見つけ利用出来るのは同じ国にいる者だけです。」
「・・・はい。ソフィア様」
エズバラン卿はソフィアに頼ろうとした自分に赤面した。
安易な道などない。ただ我々には500年の歴史がある。
それを掘り出し今に蘇らせ国政に揺さぶられる国民を救うのは、同じ国にいる自分達にしか出来ないのだと・・・
ソフィアは、リスターの様子にニッコリ笑い言葉を続けた。
「どんな事があろうと生き抜く事です。私がこの家を頼った事で貴方が窮地に陥り投獄されるとすれば、今のうちに逃げ道を作っておきなさい。」
「!」
「ですが、今一番シンプルでお互いの利にかなう方法は・・・あなたが私を拘束してフェルーン王の元に差し出す事です。」
「ソフィア様!我忠心を疑うのですか!?」
「いいえ。」
ソフィアは立ち上がり、エズバラン卿に向かい膝を折った。
唖然とするエズバラン卿に相対しソフィアは静かに願いを告げた。
「私を捕らえて王に直接お引き渡し下さいませ。エズバラン卿。」