第九章 アルシュ王国4
リスターは馬に乗り、急ぎ我家へと跳ばした。
とてもいやな胸騒ぎがする。
サマーサが会っているという女は何者だ?
使者が言うにはやたらと居丈高だったとか・・・何か脅されてでもいるのだろうか。
そんな事に臆するようなサマーサではないと思うがあれでも女性である。
今行くから待ってろ!
そんな意気込みで2階に駆け上がり件の客室の扉をバタン!と開けた。
「!!」
「!・・・あなた。早くお閉めになって。」
妻に促されてリスターは後ろ手で扉を閉じた。
信じられない。
だが、事実だ。
しかし内部報告ではキリークで発狂死したはず。
「リスター。久しく会わずにいました。わたくしをお忘れでしょうか?」
ああ。この声は間違いない!
リスターはすぐに片膝を付き騎士の礼をとった。
「我アルシュ王国の高潔なる血の一族にして全精霊の祝福を受けしソフィア・エール・モザレヌ様・・・よくご無事であらせられました。」
型どおりの挨拶と共に右手にキスをする。
そう。型どおりの挨拶ではあるが、今のソフィアの真実をまさに突いていた。
全精霊の祝福を受けしソフィアは柔らかく微笑んでリスターを見つめた。
生きていると言われていた人間が実は亡くなっていた。
死んだと言われていた人間が実はまだ生存していた。
そんな事はよくある事だ。
驚くほどの事でもない。
リスターは外部からの報告書がまったくのでたらめ――キリーク王国が何らかの意図を持って流してきた誤報なのではと疑った。
それほど目の前の女性は記憶の中の王女とそっくりだったからだ。
だが・・・確証が欲しい。
「只今朝食の用意をさせます。少々お待ちいただけますか。」
そうことわりを入れて、リスターは妻を促し2人は客室から出て隣の部屋に入った。
「なんですの?」
「おまえ・・・あの方は間違いなくソフィア様だと思うか?」
「ええ。もちろんよ。」
「何故?」
「あの方が幼少の頃に使っていた秘密の言葉を知っていたからだわ。」
「間違いないのか?」
「疑っているの?」
「とても重要な事なんだよ。とてもね・・・」
「・・・・・・・・・わかったわ。それではあの方に湯浴みをしていただきましょう。」
「?」
「んふっ・・・ずっっと気になっていたのよ。あの貧相なドレス!早くお脱ぎになっていただきたいわ。私が直接湯浴みをしてあの方が本物かどうか確かめて差し上げましょう。」
「ああ。そうしてくれ・・・」
ドレスがどうこうはさて置いて、乳母だったサマーサがその身体を見れば正体がわかるに違いない。
ソフィアが湯浴みをしている間、館内は朝食の仕度・客室の再清掃・使用人の再編成でおおわらわになった。
そしてリスターは信頼できる者を2人、早馬を使って呼び寄せた。




