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精霊王転変  作者: 笹野
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プロローグ1

学生の頃ノートの端に連載(?)していた落書きを読みやすいように書き直して投稿してみました。



キリーク王国。

初代王ヴァーウェンはエルという精霊王を塔に閉じ込める事に成功し、エルから流れ出る膨大なエネルギーを背景に機械文明を発展させた。

エル捕縛から100年。

第4代キリーク王ヴァレリオ王と隣国アルシュ王国の第一王女ソフィアの結婚式が首都ルーパスで盛大に行われ、それから1年目にして彼女は待望の第一子を身篭った。

全てが満たされた日々が続く…だが或る日。

空がどこまでも青く澄みわたり雲ひとつ無い晴天の日、王妃ソフィアはなぜか中央塔が気になってしかたがない・・・


*****


「貴方に不自由をさせる事は無いと思う。何か欲しい物があれば遠慮なく言いなさい。

手続きさえ踏めばこの国の何所に行くのも自由だ。

ただ・・・中央塔にだけは近づいてはいけないよ。」


結婚の儀式が全て済んだ時に王から言われた言葉。

王妃ソフィアは結婚してからその言葉を忠実に守ってきた。


やさしい夫、広大な宮殿、礼節と秩序の満ちた国。

そして高度なテクノロジーと行き届いたユーティリティ。

例えば衣装部屋にある小さな洗面台。

そんな所でさえ蛇口をひねれば無色透明な温水が流れ出す。

これは宮殿だけでなく庶民の家でも使われている設備だ。

生まれ故郷のアルシュ王国はキリークからの恩恵を受け、産業も発展しインフラ整備も整ってきている。

が、常時温水が使えるような設備を設置する余裕はまだない。


窓の外を見あげると中央塔が青い空に向かってそびえ立つ。

そしてその先には銀色に輝く美しい楕円体の建造物。

通称”ユリカゴ”

それは4本の鉄塔に支えられ地上から1km上空に在る。

今日はなぜかその塔から目が離せない・・・


いったいあそこに何が?

皆のうわさではあそこには初代ヴァーウェン王が手に入れた、この世を制覇できるほど強力な精霊が封印されているとか。

精霊?それは私の故郷でさえ童話の中や昔ながらの精神世界で語られるだけになってしまった存在。

この国には科学があり技術がある。それなのに精霊ですって?

でも100年前まではこの国もアルシュ王国と同じ・・・いいえ、それ以下のただの集落だったのに何故?

あの塔には100年でこんなに国を変えてしまう何かがある。


知りたい・・・


ソフィアの脳裏にフッとヴァレリオの冷厳な顔が浮かんだ。

『だめ・・・あそこに入ってはいけない・・・!』

だが、それも一瞬の事。

青を背に銀に輝く巨大建造物の壮大さがソフィアの固執に熱を加える。


でも私は王妃じゃない?あと3ヶ月もすれば子供も生まれるわ。

私はもうこの王室とひとつなのに。

その私が何も知らされない。


そうよ。


王が知っているものをなぜ私は知らされないの?

国内外の情勢や話題、王は何でもわたくしに教えてくれるというのに、自分の頭上にあるものの中身を知らないなんて・・・


それは・・・おかしい!


*****


王妃は王に塔へ入らせてくれとせまるが王は相手にせず、王妃付きの近衛兵に「王妃を”塔への廊下”に入らせるな」と、”ユリカゴ”への通路に踏み込ませないよう命じた。

それでも尚、王妃は「なぜなの?」と問い、王は「昔からの決まりだ。王以外入る事は許さん。知る必要もない!」と、不毛な会話のループが続く。

ついに王はそのしつこさに激昂し、王妃を塔の見えない北の居室に閉じ込めた。


*****


空は澄み、新月がくっきりと闇の中で細いカーブを描いている。

夜更けにもかかわらず王妃は窓辺から離れずにいた。

やがて・・・新月が中天にさしかかろうという頃、王妃は静かに廊下への扉へと歩き出した。

廊下は真昼のごとく明るく、王妃は扉が開くと一瞬目を伏せた。

3人の近衛兵が立っている。

2人は扉を背に。

1人は扉に向かって。

だが、彼らはピクリとも動かない。

王妃は風のように軽やかに彼等の間を通り抜けて廊下に出るとやがて宮殿の奥へと消えていった。


宮殿の廊下は一部は昔のままのランプだが主要部は全て電化され、煌々と照明に照らされている。

その中を一人、ナイトドレスの上に羽織った絹のガウンをなびかせながら歩き続ける王妃。

だが、誰も王妃を止める者はいなかった。

それどころか、すれちがっても会釈さえしない。

まるでそこに王妃が居ないかのように…

北の居室からしばらく入り組んだ宮殿の中を歩き、南の渡り廊下から王の寝室に辿り着いたソフィア。

そこに立つ屈強な近衛兵の横をすんなり抜けて扉を開けた。

中は全ての明かりが消えて闇一色。

その中を王妃は音もなく歩いてゆく。

ベッドで眠る王に気を使う様子も無く、寝室のまだ向こう側にある小部屋に吸いこまれるように入っていった。

壁に組み込まれた暖炉の横に、なにやらボタンが規則正しく並んで美しい幾何学模様を描いていた。

王妃は慣れた手つきで4つの文字を同時に押した。


カチリッ

壁の一部がスッと左右に開く。

そこにあった封筒とキーを手に取ると、王妃は静かに王の部屋をあとにした。


再び南の渡り廊下を宮殿へと戻ってゆく。

王妃は、スフの花が咲き乱れる中庭を横切り、塔への廊下に至る警護者用予備通路に入った。

突き当たりの扉には、やはり幾何学模様の中に組み込まれたボタンがあったが、王妃は難なく7つのボタンを押して扉を開けた。

塔への廊下は、曲線が入り組んだ美しい柱が24本、左右に対となり天井を支えている。

天井にはやはり照明が組み込まれ、淡く白い光を放ちエレベーターに続く赤い絨毯を照らしていた。

王妃ソフィアの白い影が赤い絨毯の上をゆっくりと歩いてゆく。

その絨毯が導く先には”ユリカゴ”へ向かうエレベーターがあった。

そしてその入り口には守護天使の石像が2体で立ちふさがっている。

ソフィアは王の部屋から持ってきた封筒から2つのカードを取り出し石像の顔に向かってかざした。

キュキュ・・・キュ・・・キュキュ・・・金属のこすれる音が床下から響く。

そして守護天使が静かに扉を開けた。


誰もが安らかな眠りにつき警護の者だけが目を光らせていた、いつもと変わらぬこの日。

地上から一つのカプセルが静かに、そしてゆっくりと上空へと昇っていった。


プロローグが一つに収まりきれませんでした~長々しくてすいません。

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