弾ことごとく泡と消え、命ことごとく火と消える
清朝末期の義和団拳法。
帝政ドイツ領東アフリカのマジ。
北米インディアンのゴーストシャツ。
これら三つの共通点は弾に当たっても死なないという教義だ。
そして、三つとも銃弾による凄惨な虐殺を経て、あっという間に消えていった。
大陸単位で距離があるにも関わらず、銃弾に対する無敵を訴える点が共通しているのは興味深い。
共通点があるとすれば、この三つの集団はみな、社会的、経済的にかなり追いつめられていた。
ただ、追いつめられても、その手のカルトが流行らなかった例もある。
太平洋戦争時の日本はむしろ弾にされて、飛行機ごと突っ込んだ。
三国同盟戦争時のパラグアイは国民の半分、そして男の80%以上が死亡する事態になったが、カルトは起こらなかった。
この二国の場合は既に戦争状態にあってから追い込まれた話なので、銃弾に当たったら死ぬことをさんざん思い知らされ、都合のいい無敵カルトに自分の運命を託せなかった。
逆に追いつめられたカルトがそのまま勝利して定着するという珍しいケースもある。
ハイチのブードゥーがそれで1750年代から1800年代まで奴隷たちはアフリカから持ち出し、キリスト教の一部も混ぜ込んだブードゥー教を頼りに結束し、主人のフランス人たちを追い出して、独立を果たしている。
ただ、ハイチ独立は奴隷制度の最も悲しい出来事のひとつで、世界史で唯一の成功した奴隷反乱にも関わらず、ハイチは世界最貧国のひとつであり、治安は最悪で、ハイチ人に幸福はいまだに訪れていない。反乱の末に幸福が約束されないなら、奴隷たちは何を希望に生きたらいいのか。そこにカルトが再登場し、自分たちの力ではどうにもならない事態を、ブードゥーの呪術や願掛けで解決しようとしている。
様々なカルトがあるが、おすすめは積荷信仰だ。
これは南の島で流行ったカルトで、白人が自分たちのために文明の利器を作り、それを積荷箱に入れて持ってくるというもので、19世紀の白人の登場で様々な道具に直面した島民たちは感激し、進んでキリスト教に改宗し、便利な品物を入れた箱を崇め、その到来を待ち続けた。
このカルトのうまいところは発生確率の高い奇跡を予言として残したことで、太平洋戦争で予言が実現する。島を占領しに来たアメリカ軍が島民を味方につけるためにラジオやチョコレートなど様々な物品を配った。
彼らははやいうちにキリスト教に改宗したため、白人の禍を受けずに済んだし、それに高価な木材や鉱石といった貴重な資源もなかったので商業的な搾取も食らわずに済んだ。
彼らは今も、南の海の向こうで積荷箱がやってくるのを待っている。
彼らを笑うことなかれ。
生存権だって、見る人が見ればカルトになるのだ。




