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追放されたベッドメイカー、寝床を整えただけでパーティが最強になってしまう  作者: わたぎきぬ
第一章 ノア、弱小パーティに拾われる
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第7話 ロイドの真面目な確信

 最近、魔物の出現が多い。

 そんな噂も、もう聞き飽きた。


 暁紅蓮隊、ランクD依頼三日目の夜。

 焚き火が、ぱちりと音を立てる。

 燃え残った薪が崩れ、火の粉が小さく舞い上がった。


 戦いの疲労は、確かにある。

 だが、それがそのまま残っている感覚ではない。

 どこか噛み合ったまま、抜けきらない奇妙な軽さがあった。


「……肩が張ったな」


 ロイドが腕を回す。


「昨日、少し受けすぎたか」


 一度、動きを止める。

 自分の腕を見る。

 軽く握り込み、力の入り方を確かめた。


「……ん?」

「……自分、いつのまにこんなに筋肉が」


「元々、筋肉だけが取り柄でしょ」

 シエラが即座に切り捨てる。


「違う」


 ロイドは真顔で返した。


「これは……違う」

「良いですか。筋肉というのは一度傷つき、そして――」


「あー、もういい」


 シエラが手を振る。


「筋肉のつけ方に興味ないってば。ね、フィナ」

「えぇ、はい……。今のお洋服が着れなくなっちゃうし」


「……重要な話なんだが」


 ロイドの言葉は、そのまま流された。


 ライガは、すでに地面に座り込んでいる。


「さっさと寝ようぜ」


 あっけらかんと言う。


 その横で、ノアは藁を整えていた。

 地面を見る。

 指先で押さえる。

 束の向きを揃える。

 少し持ち上げて、空気の通りを確かめる。

 指先で均し、わずかな歪みを直す。

 最後に、ほんの少しだけ位置を動かす。


 そこで、手を止めた。

 全体を見て、ほんのわずかに頷く。


 それだけだった。


 シエラがしゃがみ込む。

 藁に触れる。

 指で押す。


「……これ」

「藁って、こう敷くものじゃないのよ」

「普通はもっと雑に、厚くするだけだ」

 ロイドが視線を落とす。

「……違うのか」


「えぇ。これは――」


 言葉を切る。

 藁を少し持ち上げる。


「……整えすぎ」

「空気を通してる」

「湿気を逃がしているな」

 ロイドが静かに言う。

「……意図的か」


「宮殿でも似たようなことはするけど」

 シエラがぼそりと続ける。

「ここまでじゃない」


 視線が、わずかに動く。

 ノアへ。


 だが――


「さっさと寝ようぜ」


 ライガが、そのまま倒れ込んだ。

 会話が途切れる。


「……は?」


 ライガが固まる。


「ほら、ここ。なんかすげぇぞ」


 体を預けたまま言う。


「あれ?」

「めっちゃ寝やすい!」

「フィナも寝てみろよ!」


「アンタねぇ」

 シエラが顔を上げる。

「気軽にレディに寝てみろって言わないの」


「いいじゃん。仲間なんだし」


「え、でも……ちょっとだけ……」


 フィナがそっと横になる。


「……あ」


 小さく声が漏れる。


「……すごい、これ」


 目を閉じる。


「いい匂い……」


 ロイドが顔を上げる。


「……匂い?」


 空気を吸い込む。

 土でも藁でもない。

 柔らかく、落ち着く香り。


「……混ぜているな」


 低く呟く。


 シエラもわずかに目を細める。


「……何か」


 だが、それ以上は言わない。



 少し離れた場所で。


「……おかしい」


 ロイドが腕を組む。


「何がですか?」

 ノアが顔を上げる。


「筋肉だ」


 腕に力を込める。


「昨日の損傷は、もう少し残るはずだ」

「だが、ほぼ回復している」


「へぇ……」


 ノアの目がわずかに輝く。


「どういう仕組みなんですか?」


「超回復だ」


「超回復!」


 声が弾む。


「カッコいいですね」


「そうだな」

「筋肉は一度壊れ、修復で強くなる」

「だが今回は速すぎる」


「なるほど……」


 二人は同時に頷いた。



 その夜。


 眠りは深かった。


 焚き火が消え、風だけが残る。

 誰一人、寝返りを打たない。


 ロイドの呼吸は、一定だった。

 普段より深い。


 フィナの指先から、力が抜けている。

 緊張が残っていない。


 シエラの眉間から、僅かな皺が消えていた。


 ライガは、口を開けたまま眠っている。


 その全てが、自然だった。

 だが、どこか整いすぎている。


 ノアだけが、少し遅れて横になる。


 藁の上に体を預ける。


 沈まない。

 だが、浮かない。


 呼吸が、自然と深くなる。


「……いい」


 小さく呟く。


 そのまま、目を閉じた。



 朝。


 誰も、疲れていなかった。


「……軽いな」


 ロイドが腕を回す。


「昨日の分、全部抜けてる」


「でしょ!?」

 ライガが笑う。

「言っただろ!ゾーンだって!」


「だからその言い方やめなさいって」


「でも確かに……」

 フィナが首を傾げる。

「すごく、楽です」


「魔力も戻りが早いわね」

 シエラが短く言う。


 ロイドが小さく頷く。


「……条件が揃いすぎている」


「何が?」


「負荷と回復だ」

「両方が噛み合っている」


「それってつまり――」


「理想的だ」


 ロイドは断言した。


「効率が良すぎる」


 その言葉に、誰も深くは踏み込まない。


「まぁいいじゃん!」

 ライガが笑う。

「強くなってるんだし!」


「結果が全てよ」

 シエラも肩をすくめる。


 ノアは何も言わない。


 藁束を、静かにまとめていた。


 焦げた部分を分け、

 均等に束ねる。


「……ノア君?」

 フィナが覗き込む。


「それ、使うの?」


「使います」


「焦げてるけど」


「だからです」


「……?」


「いい変化なので」


 それだけ言って、また手を動かす。


 誰も、その意味を聞かなかった。


 ただ。


 その日もまた、調子は良かった。

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