第6話 同じランクの冒険者たち
カルンの町を出て、南北へと伸びる馬車道。
大動脈とも呼ばれるその道。
ルガイア王国の主要な交通路として踏み固められた道。
遠くまで真っ直ぐに続いている。
その先は別のエリアへと続く。
左右には森が広がり、風が抜けるたびに枝葉が揺れる。
北の先にあるのが、マルシェリア。
金羊毛と呼ばれる、精鋭の集まる街だ。
そこへ繋がる道に、異変が起きていた。
◇
掲示板の前は、いつも通り人で溢れていた。
依頼札の前には自然と人だかりができ、視線が集まる。
「おっと」
同時に手を伸ばし、軽くぶつかる。
向かい合ったのは五人。
先頭に立つ男は、短く整えた黒髪に細い目。
感情の起伏が見えないまま、視線だけで状況を測っていた。
その隣。
肩幅の広い男が、足元の小石を無意識に蹴り出す。
乱暴ではなく、冷静。常に足の置き場を気にしている。
どの角度でも受けられるカタチ。見るだけで分かるタンク役。
少し後ろ。
一人が、気づけば位置を変えている。
視界の端に入ったと思えば、もうそこにはいない。
さらに後方。
細身の少女が、杖をわずかに傾けた。
敵ではなく、味方との距離を見ている。
そしてもう一人。
小柄な少女が、静かに全体を見ていた。
誰かが動く前に、わずかに間を整える。
ギルドの中だが分かる。
――彼らの連携に迷いはない。
「……そこ、俺たちが先だ」
「は?」
「青葉の剣だ。見れば分かるだろ」
短く言ったのは、チーム『青葉の剣』
リーダーのハルトだった。
「それ、Dだ」
「お前らEだろ」
「いや、お前もEだろ」
視線がぶつかる。
周囲の空気が、わずかに張る。
「……先に手ぇ伸ばしたのは、そっちか」
「悪いな。そういうルールだ」
ライガが舌打ち一つ。
「仕方ねぇ、こっち行くぞ」
「あれ?似たような依頼だ」
「Dランク、西側」
ハルトが振り返る。
「お前な。新聞読んでいないのか」
「新聞って?」
「聞いた俺が馬鹿だった。まぁ、そういうことだ」
一瞬軽蔑の目。
そして青葉の剣が去っていく。
無駄がない。
振り返りも、歩き方も、会話すら短い。
「よっしゃあ!」
ライガが笑う。
「DだぞD!今度こそ正真正銘のD!」
言葉がおかしくなるモード。
「……本当に大丈夫か」
ロイドが低く呟く。
「いけるって!最近調子いいし!」
「その理屈が一番信用できないのよ」
シエラがため息をつく。
少し後ろ。藁束を背負ったまま、ノアが口を開く。
「マルシェリアへの道。最近、空気が悪いし」
「お、目ざといな。さては新聞を読んでいるな?」
「今回の依頼、ちゃんとやれば上も見えます」
「気が早ぇな」
「でも、前も上手く行ったし」
フィナも幼馴染のライガに賛同した。
「……悪くないわね」
シエラが小さく言う。
「そういえば、ノアはどうして冒険者に」
「笑われるから……また今度」
◇
馬車道は整備されていて、視界が一気に開ける。
踏み固められた地面は広く、わずかな起伏が足裏に伝わる。
森の気配は少し濃い。同時に逃げ場も多い。
「東と西、両方から出るって話だったな」
ロイドが言う。
「分かりやすくていいじゃん!」
「どっちか潰せばいいんでしょ!」
「東側よ」
「西側は青葉の剣が担当だったよね」
東側に陣を取る。
少し離れた西側。
焚き火の準備をする影が見える。
無駄な動きが一つもない。
誰も指示を出していないのに、位置が自然と決まっていく。
「……あっ。あれは青葉の剣だな。本当にあっち側にも魔物が出るんだ」
「ライガ、新聞読んでないでしょ」
「読んでねぇって!」
ハルトの姿が、遠目にも分かる。
「ってか、見える距離だな」
「気にする必要ある?」
「そりゃあるだろ。青葉の剣はなんていうか、みんなから信用されてるんだ」
朝の件で根に持ったか、新聞に反応したか。
ライガが青葉を睨む。
すると、フィナが言う。
「ライガと違って、ハルトさんは小さな依頼もちゃんと受けてるからだよ」
「あー。フィナはハルトの味方すんのかよ」
「二人とも痴話喧嘩は止しなさい」
◇
低い唸り声が森の奥から広がる。
次の瞬間、影が一斉に道へと溢れ出した。
「来た!」
ライガが剣を抜く。
「数は多いな」
ロイドが前に出る。
同時に、西側でも戦闘が始まる。
火球の光と叫び声が風に乗って届く。
「集中しろ!」
「分かってる!」
東側。
ロイドが受ける。
ライガが斬る。
シエラが撃つ。
フィナが繋ぐ。
流れが崩れない。
森から魔法が飛んでくる。
だが、当たらない。
わずかにズレる。
立ち位置。踏み込み。間合い。
そのすべてが自然に噛み合っている。
その後ろで、ノアがぽつりと口を開く。
「こういうことを言うのは良くないけど」
「は?」
「昨晩のあの宿のベッドはちょっと」
「宿の話かよ!」
「戦ってる途中よ!」
総ツッコミ。
「いつ言おうかと迷ってたので」
「絶対に今じゃねぇ!」
その一瞬。
ライガの踏み込みが、わずかに遅れた。
靴底がズレる。
「って、なんでここに藁が」
「今日のベッドの位置です」
「ノア、そういうのは先に言ってく──」
同時。石弾が着弾する。
「ライガ、下がれ。前のめり過ぎだ」
◇
西側。
灰牙ウルフの群れが跳ぶ。
「前」
ハルトの一言。
ドルトが受ける。
ルナが読む。
ケインが崩す。
一閃。
流れは、整っている。
だが。
噛みつきが、重い。
踏み込みが、沈む。
詠唱が、わずかに遅れる。
「一瞬遅れてる」
「誤差だろ」
積み重なる。
半拍のズレ。
ミナが苦笑する。
「まぁ、こんなもんでしょ」
誰も否定しない。
ハルトが最後を断つ。
「終わりだ」
戦いは、問題なく終わる。
だが。
確実に、少しだけ削られる。
◇
夜。
焚き火が揺れる。
西側は荒い。
東側は静かだ。
「よし、寝るか!」
「今日は流石に疲れたわ」
ノアが藁を広げる。
「ロイドさん。ここで」
地面を確かめ、形を整える。
「風、こっちから来ます」
「えっと見張りは」
「私が最初」
フィナが答える。
「そか。よろし……」
ライガはそのまま倒れ込んだ。
◇
三日目、朝。
西側。
「だるいな……」
肩を回すハルト。
東側。
「……軽い」
ロイドが呟く。
「むしろ状態は良好だ」
視線が交差する。
「……おい」
ハルトが言う。
「なんだよ」
違和感。
「同じ条件だったよな」
沈黙。
「……なんでお前ら、そんなに動ける」
「はぁ?」
ライガが眉をひそめる。
「寧ろ、あたしたちの方が連携良かったわよ?」
「うん。私もそう思う!」
再び沈黙。
「……多分、睡眠の差ね」
「睡眠だと?」
シエラが肩をすくめる。
「──寝る子は育つって」
「いや関係ないだろ!」
「関係あるだろ!」
少し離れた場所。
ノアは藁をまとめながら、地面を見ていた。
「これ、もう少し改良できますね」
同じ条件。
それなのに、結果が違う。
とはいえ。
まだ。
誤差の範囲。




