表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放されたベッドメイカー、寝床を整えただけでパーティが最強になってしまう  作者: わたぎきぬ
第一章 ノア、弱小パーティに拾われる
7/128

第6話 同じランクの冒険者たち

 カルンの町を出て、南北へと伸びる馬車道。

 大動脈とも呼ばれるその道。

 ルガイア王国の主要な交通路として踏み固められた道。

 遠くまで真っ直ぐに続いている。

 その先は別のエリアへと続く。

 左右には森が広がり、風が抜けるたびに枝葉が揺れる。

 北の先にあるのが、マルシェリア。

 金羊毛と呼ばれる、精鋭の集まる街だ。

 そこへ繋がる道に、異変が起きていた。



 掲示板の前は、いつも通り人で溢れていた。

 依頼札の前には自然と人だかりができ、視線が集まる。


「おっと」


 同時に手を伸ばし、軽くぶつかる。


 向かい合ったのは五人。


 先頭に立つ男は、短く整えた黒髪に細い目。

 感情の起伏が見えないまま、視線だけで状況を測っていた。


 その隣。

 肩幅の広い男が、足元の小石を無意識に蹴り出す。

 乱暴ではなく、冷静。常に足の置き場を気にしている。

 どの角度でも受けられるカタチ。見るだけで分かるタンク役。


 少し後ろ。

 一人が、気づけば位置を変えている。

 視界の端に入ったと思えば、もうそこにはいない。


 さらに後方。

 細身の少女が、杖をわずかに傾けた。

 敵ではなく、味方との距離を見ている。


 そしてもう一人。

 小柄な少女が、静かに全体を見ていた。

 誰かが動く前に、わずかに間を整える。


 ギルドの中だが分かる。


 ――彼らの連携に迷いはない。


「……そこ、俺たちが先だ」

「は?」

「青葉の剣だ。見れば分かるだろ」


 短く言ったのは、チーム『青葉の剣』

 リーダーのハルトだった。


「それ、Dだ」

「お前らEだろ」

「いや、お前もEだろ」


 視線がぶつかる。

 周囲の空気が、わずかに張る。


「……先に手ぇ伸ばしたのは、そっちか」

「悪いな。そういうルールだ」


 ライガが舌打ち一つ。


「仕方ねぇ、こっち行くぞ」

「あれ?似たような依頼だ」

「Dランク、西側」


 ハルトが振り返る。


「お前な。新聞読んでいないのか」

「新聞って?」

「聞いた俺が馬鹿だった。まぁ、そういうことだ」


 一瞬軽蔑の目。

 そして青葉の剣が去っていく。


 無駄がない。

 振り返りも、歩き方も、会話すら短い。


「よっしゃあ!」


 ライガが笑う。


「DだぞD!今度こそ正真正銘のD!」


 言葉がおかしくなるモード。


「……本当に大丈夫か」


 ロイドが低く呟く。


「いけるって!最近調子いいし!」

「その理屈が一番信用できないのよ」


 シエラがため息をつく。

 少し後ろ。藁束を背負ったまま、ノアが口を開く。


「マルシェリアへの道。最近、空気が悪いし」

「お、目ざといな。さては新聞を読んでいるな?」

「今回の依頼、ちゃんとやれば上も見えます」

「気が早ぇな」

「でも、前も上手く行ったし」


 フィナも幼馴染のライガに賛同した。


「……悪くないわね」


 シエラが小さく言う。


「そういえば、ノアはどうして冒険者に」

「笑われるから……また今度」



 馬車道は整備されていて、視界が一気に開ける。

 踏み固められた地面は広く、わずかな起伏が足裏に伝わる。

 森の気配は少し濃い。同時に逃げ場も多い。


「東と西、両方から出るって話だったな」


 ロイドが言う。


「分かりやすくていいじゃん!」

「どっちか潰せばいいんでしょ!」

「東側よ」

「西側は青葉の剣が担当だったよね」


 東側に陣を取る。


 少し離れた西側。

 焚き火の準備をする影が見える。


 無駄な動きが一つもない。

 誰も指示を出していないのに、位置が自然と決まっていく。


「……あっ。あれは青葉の剣だな。本当にあっち側にも魔物が出るんだ」

「ライガ、新聞読んでないでしょ」

「読んでねぇって!」


 ハルトの姿が、遠目にも分かる。


「ってか、見える距離だな」

「気にする必要ある?」

「そりゃあるだろ。青葉の剣はなんていうか、みんなから信用されてるんだ」


 朝の件で根に持ったか、新聞に反応したか。

 ライガが青葉を睨む。

 すると、フィナが言う。


「ライガと違って、ハルトさんは小さな依頼もちゃんと受けてるからだよ」

「あー。フィナはハルトの味方すんのかよ」

「二人とも痴話喧嘩は止しなさい」



 低い唸り声が森の奥から広がる。

 次の瞬間、影が一斉に道へと溢れ出した。


「来た!」


 ライガが剣を抜く。


「数は多いな」


 ロイドが前に出る。

 同時に、西側でも戦闘が始まる。

 火球の光と叫び声が風に乗って届く。


「集中しろ!」

「分かってる!」


 東側。


 ロイドが受ける。

 ライガが斬る。

 シエラが撃つ。

 フィナが繋ぐ。


 流れが崩れない。


 森から魔法が飛んでくる。

 だが、当たらない。


 わずかにズレる。


 立ち位置。踏み込み。間合い。

 そのすべてが自然に噛み合っている。


 その後ろで、ノアがぽつりと口を開く。


「こういうことを言うのは良くないけど」

「は?」

「昨晩のあの宿のベッドはちょっと」

「宿の話かよ!」

「戦ってる途中よ!」


 総ツッコミ。


「いつ言おうかと迷ってたので」

「絶対に今じゃねぇ!」


 その一瞬。

 ライガの踏み込みが、わずかに遅れた。

 靴底がズレる。


「って、なんでここに藁が」

「今日のベッドの位置です」

「ノア、そういうのは先に言ってく──」


 同時。石弾が着弾する。


「ライガ、下がれ。前のめり過ぎだ」



 西側。


 灰牙ウルフの群れが跳ぶ。


「前」


 ハルトの一言。


 ドルトが受ける。

 ルナが読む。

 ケインが崩す。


 一閃。


 流れは、整っている。


 だが。


 噛みつきが、重い。


 踏み込みが、沈む。

 詠唱が、わずかに遅れる。


「一瞬遅れてる」

「誤差だろ」


 積み重なる。

 半拍のズレ。

 ミナが苦笑する。


「まぁ、こんなもんでしょ」


 誰も否定しない。


 ハルトが最後を断つ。


「終わりだ」


 戦いは、問題なく終わる。


 だが。


 確実に、少しだけ削られる。



 夜。


 焚き火が揺れる。


 西側は荒い。

 東側は静かだ。


「よし、寝るか!」

「今日は流石に疲れたわ」


 ノアが藁を広げる。


「ロイドさん。ここで」


 地面を確かめ、形を整える。


「風、こっちから来ます」

「えっと見張りは」

「私が最初」


 フィナが答える。


「そか。よろし……」


 ライガはそのまま倒れ込んだ。



 三日目、朝。

 西側。


「だるいな……」


 肩を回すハルト。


 東側。


「……軽い」


 ロイドが呟く。


「むしろ状態は良好だ」


 視線が交差する。


「……おい」


 ハルトが言う。


「なんだよ」


 違和感。


「同じ条件だったよな」


 沈黙。


「……なんでお前ら、そんなに動ける」


「はぁ?」


 ライガが眉をひそめる。


「寧ろ、あたしたちの方が連携良かったわよ?」

「うん。私もそう思う!」


 再び沈黙。


「……多分、睡眠の差ね」

「睡眠だと?」


 シエラが肩をすくめる。


「──寝る子は育つって」

「いや関係ないだろ!」

「関係あるだろ!」


 少し離れた場所。

 ノアは藁をまとめながら、地面を見ていた。


「これ、もう少し改良できますね」


 同じ条件。


 それなのに、結果が違う。


 とはいえ。


 まだ。


 誤差の範囲。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ