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第8話 重なる戦線

 通路の奥で、爆ぜる音が重なっていた。

 乾いた破裂音ではない。

 空気ごと押し潰すような衝撃が、連続して壁に叩きつけられている。


 火花が散る。

 魔法の光が、狭い通路の岩肌を不規則に照らす。

 明滅する影が揺れ、奥行きの感覚を狂わせる。


 足元に伝わる振動は、単発では終わらない。

 踏み鳴らす音。

 ぶつかる音。

 削れる音。


 複数の戦闘が、同時に進行している音だった。


「……こっちだ」


 ライガが低く言う。


 そのまま踏み込む。

 振り抜いた剣が、ゴブリンの身体を弾き飛ばす。

 叩きつける衝撃で、骨ごと砕く。


「分かってる!」


 シエラが即座に応じる。

 貴族出身で単身カルンに来た彼女は伊達じゃない。

 短い詠唱で火が走る。


 横の岩陰から顔を出しかけたメイジジャッカルの詠唱が、そこで潰れる。


「ロイド!」


「前、維持します!」


 一つのパーティから見捨てられ、ここまで這い上がった男。

 効率第一らしい彼の盾が鳴る。

 牙がぶつかり、金属を軋ませる。

 筋肉を鍛え上げたロイドは踏み止まる。

 だがそれでも、押し返しきれない。


 敵の数が多いのだ。

 一体を処理しても、その隙間を埋めるように別の個体が前に出る。


 流れが止まらない。

 圧が途切れない。


「……減らねぇな」


 ライガが舌打ちする。


「減ってるわよ。こっちの体力が」


 シエラが吐き捨てる。


 否定はできない。

 呼吸が荒い。肩が上下する。

 足の運びが、ほんのわずかに重くなっている。


「俺たちゃ暁紅蓮隊!こういう時は根性だよっ!」


 ライガが声を張る。

 だが、語尾に余裕はない。


 力で押している。

 勢いで繋いでいる。

 それだけで維持している戦線だった。


 そのとき。


 ドッンン‼


 横の通路から、別の衝撃音が重なった。


 爆ぜる音と弾く音が繰り返される。

 こちらとは違う種類。

 そこにはリズムがあった。

 崩れない間隔。

 整った詠唱。

 防護の光が一定の位置で張られている。


「……青葉だな」


 ライガが、ふっと笑う。

 それだけで、ほんの少しだけ肩の力が抜ける。


「分かるの?」


 フィナが問いかける。


「分かるだろ。俺達のライバルだぜ」


 ずっと比べられていた。アレまでもこれまでも。

 あの整い方は、あいつらしかいない。


 ライガは、そのまま踏み込む。


「ロイド、このまま強引に行くぞ」


「了解」


 ロイドが一歩だけ下がる。

 受ける位置をずらす。

 正面で受け止めるのではなく、流す角度を作る。


 その瞬間、魔物の流れがわずかに横へ逸れた。


「シエラ、右詠唱」


「もうやってる!」


 火が走る。

 だが、押し切れない。


 戦線がじわりと横へ滑る。


 押されたわけではない。

 最初からそこへ寄せていくように、少しずつ位置をずらしている。


「私も支える!」


 フィナが回復を飛ばす。

 前線の負担を薄くする。


 流れを切らさない。


 そして――


 視界が、開けた。


 そこにあったのは、防護の光。

 無駄のない陣形。

 崩れないライン。


「ハルト!」


「暁のか」


 短い応答で問題ない。


「ドルト、前維持。受ける」


「了解」


 ドルトの盾がわずかに角度を変える。

 受けるのではなく、受け流す位置へ。


「ルナ、右詠唱来ます」


「見えてる」


 防護が重なる。


「ケイン、左牽制」


「任せろ」


 矢が走る。

 魔物の足が止まる。


「ミナ、前寄り回復」


「了解」


 違うチームでも短い指示。

 余計な言葉はない。


 それだけで全てが回る。


 ライガが、そのまま隣に並ぶ。


「――前、出るぞ!」


「来る」


 ハルトがラインを合わせ、ドルトが踏み込む。

 盾で受けて、手の空いた者がアタッカーとなる。

 すると、魔物の重心が崩れる。


 その隙間に、ライガが入り込む。


 衝突。


 紅蓮が押し出す。

 青葉が受ける。


 紅蓮が崩す。

 青葉も入り込む。


 流れが、噛み合う。


 無理がない。

 合わせようとしている感じがない。


 何度も同じ線上に、戦場にいた。

 だから最初からそうだったみたいに、自然に繋がる。


「右、詠唱来ます」


 ルナが告げる。


「潰す!」


 ちゃんとシエラが応じる。


 さっきよりも精度の高い火矢が走る。


「防護、維持します」


 その後、ルナが重ねる。


 魔法と防護が交差する。

 メイジジャッカルを翻弄する。


 更にその位置へ、ライガが踏み込む。


「……やりやすいな」


 ライガが笑う。


「えぇ」


 シエラも短く返す。


 押し引きが合う。

 前が崩れない。

 後ろが詰まらない。


 流れが途切れない。

 処理が、速い。


 明らかに違う。

 これがカルンの冒険者の精鋭。

 青葉も勢いを増して、さっきまでの戦いとは別物となる。


「前、少し上げる」


 ハルトが言う。


「乗る!」


 ライガが応じる。


「ドルト、半歩前」


「了解」


 盾が前に出る。


「ケイン、左奥」


「見えてる」


 矢が飛ぶ。


「ミナ、回復維持」


「維持中」


 ラインが揃う。


 崩れない。

 止まらない。


 一体。

 また一体。

 魔物が消えていく。

 圧が消えていく。


 押される感覚が消える。

 足が軽くなる。

 呼吸が整う。


「……凄い」


 フィナが、小さく言う。


 誰に向けた言葉かは分からない。


 青葉か。

 この形か。

 それとも、自分たちがそこに入れていることか。


 ハルトは答えない。


 ただ。


「前だけ見ろ」


 それだけを言う。


 ライガが笑う。


「言われなくても」


 並ぶ。


 それで十分だった。


 戦線が安定する。


 押されない。

 崩れない。

 流れが切れない。


 シエラが、ぽつりと呟く。


「……なんか、安心するわね」


「油断するな」


 ロイドが返す。


「してないわよ」


 笑いながら、魔法で回す。


 フィナも回復を絶やさない。

 ライガも、踏み込みを緩めない。


 ——これで整っている。


「このスタイルが俺達かも」

「寝ぼけたことを言うな。この先もライバルだ」


 この遺跡が求めているもの。

 それは、単独の強さではないのかもしれない。


 一つで完成する形ではないのかもしれない。


 重なって、初めて成立する構造。


「いいじゃん!どっちもランクAを目指そうよ」


 戦いは、軽くなる。

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