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追放されたベッドメイカー、寝床を整えただけでパーティが最強になってしまう  作者: わたぎきぬ
第一章 ノア、弱小パーティに拾われる
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第4話 低ランクのギルドだから

 ギルドの朝は、いつもより少し騒がしかった。


 扉の外には荷馬車が並び、装備が積み込まれていく。

 笑い声。見送りの声。手を振る者。誇らしげに胸を張る者。


 このギルドで“セカンド”と呼ばれていたパーティたちが、次々と旅立っていく。


「いいなぁ……」

 誰かが呟く。


「上に行ったやつは、みんな出てくな」

「そりゃそうだろ。稼ぎが違う」

「アルファもだろ?」

「あぁ。もう向こうで活躍してるらしいぞ」


 その言葉が、ほんの少しだけ空気を変えた。


「へぇ……」

「まぁ、あいつらは別格だったしな」


 軽い調子。

 だが、どこか含みがある。


 その視線が、ふとノアの方へ向く。


「なぁ」

「お前、あそこにいたんだろ?」

「……はい」

「もったいねぇな」


 笑いながら言う。


「まぁでも、サポーターじゃ仕方ねぇか」

「サポーターでしょ?」

「サポーターじゃないです。寝床担当です」

「なにそれ、また下ネタ?」

「違います」

「じゃーなくて、俺の調べじゃ身の回りの世話してたらしいぜ」

「この会話、何回目ですか」

「違います。寝床です」

「だから何が違うんだよ」

「その言い方、紛らわしいからやめてくれる?」


 笑いが起きる。


 悪意は薄い。

 だが、軽くもない。


「俺も行ってみてぇな、マルシェリア」


 ノアは顔を上げた。


「マルシェリア? アルファと同じ?」

「ん? あぁ、セカンドはマルシェリアじゃねぇぞ。って、お前も冒険者なんだろ。サポーターじゃなくて、さ」

「えっと……」

「マルシェリアじゃ低ランクの仕事がない。あるけど、ない」

「はぁ……」

「地方でランクを上げて、別の都市のギルドでまた上を目指す。それが基本だ。複数ギルド制度もあるしな」


 ほんの一瞬。

 ノアの表情が揺れる。


「でもアルファのはもっと上だ」

「地方でランクを一気に上げて、そのままマルシェリアに乗り込む。英雄コースってやつ」


 今度は、はっきりと息が漏れた。


 その空気を、ライガが割る。


「大丈夫だって」

「え?」

「俺たちもすぐだよ」


 軽く笑う。


「な?」

「……はい」


 ノアは頷いた。


 だが、その視線はまだ荷馬車の方へ残っていた。



 掲示板の前。

 依頼は、いつも通り並んでいた。


 森周辺の魔物討伐。

 農地の護衛。

 小規模な群れの排除。


 似たような内容が続く。


「最近、この手の依頼多くない?」

「そりゃそうだろ」

「アルファが抜けたしな」

「あぁ」

「セカンドもいなくなった」

「この辺、空いたんだよ」

「だからE帯で回してるってわけか」

「今が稼ぎどきだな」

「そんな楽観してていいのか? ダクネス現象って噂もあるぞ」


 同じランク帯の冒険者たち。

 冒険者の王道か、英雄の王道か。

 そんなものを信じている若者たち。


「ノア。行くぞ」


 その会話を横目に、暁紅蓮隊は森へ向かった。



 戦闘は、短かった。


 踏み込み。

 連携。

 仕留める。


 それだけで終わる。


「……見たか?」


 少し離れた場所で、別のパーティが小声で言う。


「同じEランクだろ?」

「……おかしくないか?」

「まぁまぁ。勢い乗ってると、一気に上がるからな」

「ただ運がいいだけだろ」

「魔物にも個体差あるし」

「……そういうもんか?」


 視線だけが残る。


 暁紅蓮隊は気づかない。



「よし、次行くぞ!」


 ライガが笑う。


「……今日は掛け持ち二件か」

 ロイドが言う。

「問題ない」

「まだ動ける」


「いやいやいや!」


 ライガは立ち上がり、ぽんぽんと藁を払った。


「むしろ絶好調だろ!」


「……まぁ、それは否定しないけど」

 シエラが腕を組む。

「魔力も残ってるし」

「回復も余裕あります」

 フィナが頷く。


 本来なら、そろそろ消耗が見えてもおかしくない。


 だが、軽い。


「でしょ!?」

「やっぱ俺たち、脂乗ってる!」


「信じられない」

「脂乗ってるとか女子に言わないで」

「え、なんで!?」

「褒めてるじゃん!」

「褒め方がおかしいのよ」

「……今のは、確かにおかしいな」

「えぇ!?」


「でも調子いいのは、いいことですよね」

「だろ!?」

「完全に来てるって!」

「俺たち、成長期!」

「それ何回目?」


 シエラがため息をつく。


「いやでもさ」

 ライガが続ける。

「これ、完全にゾーンだろ」

「また格好つけて」

「でも実際そうじゃん!」

「……否定はできないな」

 ロイドが低く言う。

「動きは良くなってる」

「でしょ!?」

「俺たち今、脂乗ってる、ゾーンに入ってる、レベル上がってる!」

「だからその言い方やめなさいって言ってるのよ」



 ノアが言った。


「少し固いですね」

「は? 何の話だよ」

「地面です」

「寝床に使うと、回復が落ちます」

「今その話!?」

「戦ってる途中だぞ!」

「はい」

「後にしろって言ってんだよ!」

「でも、今の方が分かりやすいです」

「分かりやすいとかじゃねぇし!」

「……次の寝床、少し変えます」


 一拍、間が空く。


「その会話、今必要か?」

「必要です」

「いや今じゃねぇだろ!」

「え? 寝床、必要ないんですか?」

「必要だけどタイミングがあんだよ!」

「……そうなんですか」



 二件目の依頼も、あっさりと終わった。


 木陰に腰を下ろす。

 葉の擦れる音が、ゆっくりと揺れる。


 ノアは背中を預け、少しだけ目を閉じた。

 藁の感触を確かめるみたいに、指先が地面をなぞる。


「……この感じ」


 小さく呟く。


 乾きすぎず、湿りすぎず。

 柔らかいけれど、沈まない。


 昔、同じような場所で寝たことがある。

 祖父の後ろについて回り、

 畑の端で転がっていたときの――


「ノアくん?」

「おい、ノア!」


 高い声が降ってくる。

 はっとして、目を開ける。


「寝てないです」

「寝てたでしょ、今」

「うとうとしてただけです」

「それを寝てるって言うんだよ」


 ロイドが呆れたように息を吐く。


「戦った直後だぞ」

「はい」

「気が抜けすぎだろ」


 そのやり取りを横で見ていたシエラが、ふと口を開く。


「……ねぇ」

「ノアって、宮廷勤めとかしてた?」

「きゅ、宮廷?」


 ノアが勢いよく顔を上げる。


「僕は生粋の農家の生まれ……あれ? お爺ちゃんは商売人だっけ」

「そうなの?」

「そうです!」


 妙に力の入った否定に、シエラは少しだけ首を傾げた。


「でも、なんか……」


 白い手の甲が、麦束を撫でる。


「動きとか、無駄ないし」

「仕事ですから」

「そう?」

「あ……趣味かも」


 そのまま、また少しだけ視線を落とす。


 風が、もう一度抜けた。


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