第3話 今が書き入れ時
あれから、似たような依頼をいくつもこなしている。
護衛。駆除。簡単な討伐。
どれも大きな金にはならない。
だが――少しずつ。
確実に、形になっていた。
ライガの剣から、刃こぼれが消えている。
研ぎ直され、光を取り戻した刃。
ロイドの盾には、新しい金具が打たれていた。
受けた時の響きが、前とは違う。
シエラの杖。
先端に、小さな青銅の輪が増えている。
いっぱしの冒険者にとっては、わずかな変化。
だが――暁紅蓮隊にとっては、大きい。
「……装備、まともになってきたな」
ロイドが低く言う。
「でしょ?」
ライガが笑う。
「俺の剣、今日めっちゃ調子いいんだよな!」
「気のせいでしょ」
「いや絶対違うって!」
「フィナも思わない?」
「えっと……」
フィナは鞄を持ち直す。
「薬、変えました」
「変えた?」
「はい。昨日、ギルドで少しだけ良いのが買えたので」
鞄の口から、わずかに匂いが漏れる。
新しい。少しだけ強い。
「……あぁ」
ロイドが頷く。
「それでか」
「でしょ?」
「ほら!」
ライガが得意げに笑う。
「俺、分かってきた」
「だから何がよ」
「これが伸びしろってやつ」
「雑過ぎよ」
シエラがため息をつく。
その少し後ろ。
ノアは藁束を背負っていた。
新しい藁。
色が違う。乾き方も違う。
軽く、均一で、柔らかい。
「……それも、変えたの?」
フィナが振り返る。
「はい。少しだけ、質のいいものに」
「分かるの?」
「分かる」
「何が違うのよ」
「寝れば分かる」
「分からないでしょ普通」
「分かる人もいる」
「誰よそれ」
「僕」
「……そう」
シエラはそれ以上、追及しなかった。
「いいじゃんいいじゃん!」
ライガが笑う。
「ノアも俺たちも皆、全部!」
「語彙がなさすぎね」
「調子いいんだし!」
「うん!調子いいよね!」
「完全に来てるって!」
でも、これはよくある話。
「俺たち、成長期!」
何かをキッカケに強くなる。
低ランク帯なら尚更。
「それ、何回目?」
誰も止めない。
止める必要もない。
実際、皆調子は良い。
◇
森の中。
「……今日で五件目か」
ロイドが周囲を警戒しながら言う。
「問題ない」
「まだ動けるよ」
「いやいやいや!」
ライガが笑う。
「むしろ絶好調だろ!」
「……まぁ、それは否定しないけど」
シエラが腕を組む。
「魔力も残ってるし」
「回復も余裕あります」
フィナが頷く。
本来なら、そろそろ足が重くなってもいい。
だが――軽い。
「でしょ!?」
ライガが満面の笑みを浮かべる。
「やっぱ俺たち、脂乗ってる!」
「信じられない」
「その言い方はやめなさい」
シエラは半眼。
フィナは半笑い。
「え、なんで!?褒めてるじゃん!」
「褒め方がおかしいのよ」
「お笹馴染みがすみません。ライガが語彙力なくてすみません」
「……確かに脂がのる、は」
ロイドが小さく言う。
ノアは視線を下げ、
ただ、足元を見る。
踏みしめられた地面。
わずかな傾き。
ほんの少しだけ、位置を変える。
それから視線を上げた。それだけ。
「来るぞ」
ロイドが言う。
茂みが揺れる。
またゴブリンが飛び出す。
「数は少ない!」
「押し切るぞ!」
盾が前に出る。
受ける。
「……軽い、が」
「なんだこれは」
「いいから行け!」
ライガが踏み込む。
剣が走る。
「うお、当たる!」
迷いがない。
「ファイア」
炎が走る。
「……いつもより一拍早い?そんなわけ、気のせいでしょ」
「回復残量、問題ありません!」
フィナが続く。
四人が繋がる。
ズレがない。
本当に短い戦闘だった。
あっさりと終わる。
「……またか」
ロイドが息を吐く。
「早すぎるな」
「いいじゃん!」
ライガが笑う。
「勝ててるんだから!」
「ロイドは前のパーティ、引き摺ってるんでしょ」
「あ、悪ぃ!」
「でも……なんか、楽すぎない?」
フィナも戸惑う。
「こんなに続くこと、あります?」
一瞬、空気が止まる。
「……慣れだろ」
ロイドが言う。
「同じ相手だから、対処が分かってきた」
「それそれ!」
ライガが頷く。
「そもそも、アレよ。強いパーティはここで詰まらないし」
「シエラ、良い事言う!」
「え、えと。私たちもつまり……」
「完全に経験値!レベル上がってるってやつだな!」
「ゲームじゃないんだけど」
「でも実際そうじゃん!」
シエラは肩をすくめるが、悪い顔ではない。
また、ノアは何も言わない。
ただ歩く。
背負った藁束が崩れないように。
そして。
その藁を、静かに重ねた。
「そうだったわね。ライガ。彼にも仕事を」
「おうよ!」
◇
帰り道。
「なぁ」
ライガが言う。
「やっぱさ」
最近泊まっている宿屋。
ノアが働いていた宿屋。
「あの宿のベッド、良くなかった?」
「は?」
「昨日も、めっちゃ寝れたんだよな」
ぐっすりと
「それで調子いいとか?」
「ありえるでしょ!」
勿論、ノアが整えた
「寝る子は育つってやつ!」
「意味違うでしょ」
「でも実際、体軽いし」
「……まぁ、それはあるか」
「だろ!?」
まだ違和感はない。
「完全に来てるって!」
都会に行った憧れのアルファも、
セカンドという次に強いパーティも
こんなところで詰まらない。
「俺たち、超成長期!」
「それ、何回目?」
笑い声が森に響く。
今日も足取りは軽い。
この状況を誰も疑わない。
この調子の良さの理由を。
ただ一人を除いて。
ノアは藁束を見下ろし、
ほんのわずかに、口元を緩めた。




