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追放されたベッドメイカー、寝床を整えただけでパーティが最強になってしまう  作者: わたぎきぬ
第三章 パーティはギルドを支える存在となる
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第11話 凱旋の炎の列

 中級以下の、ほぼ全員参加。


 終わってみれば、それがどれほど大きな作戦だったのか、嫌でも分かった。


 カルンの町から炭鉱入口まで、点々と拠点が組まれていた。

 ただの往復路ではない。

 荷を運ぶ者、道を繋ぐ者、警戒する者、物資を仕分ける者。

 そのすべてが、一本の長い流れとして繋がっていた。


 宿場すら、中継地点の一つとして組み込まれていた。

 水が置かれ、簡易寝具が運び込まれ、火が絶えないように見張りが立つ。

 炭鉱に向かう道そのものが、ひとつの巨大な作戦盤面になっていたのだ。


 帰り道でも、火は焚かれていた。


 暗くなり始めた道の先々に、橙色の灯りが揺れている。

 ひとつだけではない。

 またひとつ。

 さらにその先にも。


 長い。


 思っていた以上に、長い炎の列だった。


 簡易的な食事が用意されている。

 鍋の湯気。

 硬いパン。

 薄いスープ。

 それでも、今はそれが妙にありがたく見える。


 他のパーティの姿もある。

 見覚えのある顔。ない顔。

 誰もが疲労を滲ませていた。

 肩を落とし、泥をつけ、煤を被り、それでも生きて帰った安堵に包まれていた。


 笑っている者もいた。

 無言で座り込む者もいた。

 食器を持ったまま寝そうになっている者もいる。


 この一本の道全部が、今日一日の戦いの跡だった。


 それを目にして、ようやく実感が湧く。


 自分たちは、とんでもない仕事をしてきたのだと。


 だが。


 暁紅蓮隊の面々の空気は、少し違っていた。


 ライガは、焚き火の前に座ったまま動かない。

 手に持った木の枝で、火を軽く突いている。


 その動きが、やけに遅い。


「……どうしたのよ」


 シエラが声をかける。


 軽くではない。

 違和感を、はっきり感じ取った声だった。


 ライガはすぐには答えない。


 少し間を置いて、ぽつりと呟く。


「なぁ、ハルト」


 名前を呼ばれ、ハルトが顔を上げる。


「……なんだ」


「今日の戦い、どう見た」


 短い問い。

 だが、意図は明確だった。


 ハルトは、少しだけ考える。


 すぐには答えない。

 あの戦闘を、頭の中でなぞる。

 通路。

 巨体。

 崩れた一瞬。

 折れた角。


 そして。


「……勝ったな」


 まず、事実を置く。


「全員生存。証拠品も確保。文句はない」


 そこまで言って、止まる。


 ライガが、火を突く。

 ぱち、と火花が散る。


「……でも?」


 ハルトは、ゆっくりと息を吐く。


「綺麗すぎる」


 その一言で、空気が変わった。


 ロイドが、顔を上げる。

 フィナも、無意識に手を止める。

 シエラの目が細くなる。


「綺麗……でありますか?」


「あぁ」


 ハルトは頷く。


「崩れ方も、流れも、決まりすぎてる」


 言葉を選びながら、続ける。


「まるで――最初からそうなるように動いていたみたいだ」


 その瞬間。


 ライガが、小さく笑った。


「だよな」


 確信を得たように。


「俺もそう思った」


 枝を放り、火から手を離す。


「でさ。思い出したんだよ」


 視線が、少しだけ横に動く。


 ノアの方へ。


 ノアは、少し離れた位置に座っていた。

 静かに。

 何も言わず。

 ただ、そこにいる。


 その背後にも、ずっと先にも、焚き火の列が続いている。

 赤い点が闇の中に連なり、まるでこの作戦そのものがまだ終わっていないと告げているみたいだった。


 その壮大さが、逆にライガの言葉を重くする。


「アルファも、こんな感じだった」


 その言葉に、空気が凍る。


 シエラが、眉を寄せる。


「……それ、どういう意味?」


 ライガは、少しだけ考える。

 だが、すぐに言葉にした。


「いやさ。あいつら、強かっただろ」


「それはそうでしょ」


「でも、なんか……変だった」


 曖昧な表現。

 だが、ハルトが引き取る。


「余裕があった」


「そう、それだ」


 ライガが頷く。


「一手、多いんだよ」


 その言葉に、ロイドが反応する。


「一手……?」


「本来なら、必要ない動きがある」


 ライガは、ゆっくりと説明する。


「守る動きだ」


 フィナの肩が、びくりと揺れる。

 気づいてしまったように。


 ライガは続ける。


「でも、それがあっても勝てる」


「だから強い、って思ってた」


 火が揺れる。

 影が揺れる。


 遠くの焚き火もまた、闇の中で細く揺れていた。

 ここだけじゃない。

 この夜の全部が、今日の戦いの続きみたいだった。


「でも今日、分かった」


 ライガの声が、少しだけ低くなる。


「違う」


 短く、断言する。


「“それでも勝ってた”んじゃない」


 間を置く。


「“それがある状態で戦ってた”んだ」


 静寂。


 誰も、すぐには理解できない。


 だが。


 確実に、何かが刺さっている。


 ハルトが、静かに補足する。


「戦力を削った状態で、成立していた戦い、ということだ」


 ロイドが、息を呑む。


「それは……」


「普通は、成立しない」


 ハルトは言い切る。


「崩れる」


 火の音だけが響く。


「だが、崩れなかった」


「だから、強く見えた」


 シエラが、小さく呟く。


「……じゃあ」


 視線が、ゆっくりとノアに向く。


「今の私たちも……?」


 誰も、すぐには答えない。


 だが。


 全員、同じものを思い浮かべている。


 フィナ。

 狙われた。

 ノア。

 飛び出した。

 ロイド。

 弾かれた。

 ――そして、勝った。


 焚き火の明かりが、各々の顔を赤く照らす。

 その表情の奥に、まだ言葉にならない理解が沈んでいる。


 ライガが、ゆっくりと口を開く。


「正直に言うぞ」


 空気が張り詰める。


「今日、ノアが死んでてもおかしくなかった」


 フィナの顔が、強張る。

 ロイドも、言葉を失う。

 シエラは目を伏せない。


 だが。


 否定する者は、いない。


「運が良かっただけだ」


 ライガは、はっきりと言う。


「もう一回やれって言われたら、同じ結果にはならねぇ」


 火が、ぱち、と弾ける。


 遠くでも、またどこかの火が揺れた。

 この大きな作戦の一端として、自分たちは確かにそこにいた。

 その実感があるからこそ、今日の危うさもごまかせない。


「つまり」


 ハルトが、結論を出す。


「このままでは、続けられない」


 静かに。

 だが、重く。


 その言葉が落ちる。


 全員が、理解する。


 これは。


 戦術の話ではない。


 もっと、根本の話だ。


 誰も、すぐには口を開かない。


 ただ一人。


 ノアだけが。


 少しだけ首を傾げていた。


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