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追放されたベッドメイカー、寝床を整えただけでパーティが最強になってしまう  作者: わたぎきぬ
第三章 パーティはギルドを支える存在となる
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第8話 ダンジョン攻略ミッション⑧

 拠点の空気は、昨日とは違っていた。


 静かだが、緩んではいない。

 全員が起きている。整っている。


 だが、余裕はない。


 ほんのわずかに、緊張の質が変わっていた。

 昨日は「分からないもの」への警戒。

 今日は「分かってしまったもの」への備え。



 ハルトが地図を広げた。

 擦り切れた布切れ。その上に指を置く。


「やることは単純だ」


 短く言う。


「正面からは通らない」

「だから、形を作る」


 視線が集まる。


「ライガと自分で、足を削る」

「動きを落とす」


 ライガが頷く。


「了解」


「ロイドは後衛の護衛」

「崩させるな」


「任せるであります」

 ロイドが即答する。


「フィナは回復を回す」

「止めるな」


「うん」

 フィナが頷く。わずかに呼吸が浅い。


「ルナは上を取れ」

「頭を下げさせる」


「了解」

 ルナが目を細める。


「ミナは流れの維持」

「崩れたら終わる」


「任せて」

 静かに返す。


 そこで、ルナが口を開いた。


「……一つ」


 全員の視線が向く。


「昨日の個体」

「単体じゃない」


 短く。


「奥に、もう一体見えた」


 空気が、止まる。


「同じ……いや、小型」

「でも、角持ち」


「一角か?」

 ハルトが問う。


 ルナはわずかに首を振る。


「断定はできない」

「でも、似ている」

「動きは遅い」

「……待っていた」


 ミナが静かに言う。


「控えてる個体がいるってこと?」


「可能性は高い」


 短い沈黙。


 ケインが低く吐き出す。


「最悪だな」


「連戦になる可能性」

 ルナが続ける。


「もしくは、途中介入」


 ハルトは一度だけ目を閉じ、すぐに開いた。


「なら尚更だ」


 地図を叩く。


「短期で削る」

「長引かせない」


 ライガが笑う。


「いや、それ無理だろ」


「だから言っている」

 ハルトは淡々と返す。


 それで終わりだった。



 主坑道を進む。


 空気が重い。


 昨日と同じ。

 だが違う。


 全員が、それを理解している。


 戻れる場所がある。

 整えられる場所がある。


 それでも――

 奥にあるものの質が違う。


 見えた。


 一角ホブゴブリン。


 その巨体が、こちらを捉える。


 そして。


 奥。

 さらに暗い影の中。


 一瞬だけ、何かが動いた。


 低い輪郭。

 もう一つの“角”。


 消える。


 だが、見えた。


「……いるな」

 ケインが低く呟く。


「来るぞ!」

 ハルトが叫ぶ。



 ロイドが前に出る。

 後衛を守る位置。盾を構える。


 ライガとハルトが踏み込む。


 狙いは下。

 足。


 斬る。

 削る。


 浅い。


 だが、確実に当てる。


 肉ではない。

 硬い。

 筋肉の上に、さらに何かが重なっているような手応え。


 反撃。


 踏み込み。


 重い。


 空気が押し潰される。


「下がる!」


 すぐに引く。

 無理はしない。


 繰り返す。


 ルナの魔法が走る。


 上。

 顔。


 爆ぜる。


 火が散り、光が張り付く。


 ホブゴブリンの視線が上がる。

 頭が動く。


「今!」


 ライガが踏み込む。

 ハルトが合わせる。


 斬る。


 わずかに、体勢が崩れる。


 だが、すぐ戻る。


「止まらない!」

 ケインが叫ぶ。


 その通りだった。


 止まらない。

 崩れない。

 押してくる。


 フィナの回復が走る。

 間に合う。


 だが、余裕はない。


 ロイドの盾が軋む。


「まだであります!」


 金属が悲鳴を上げる。

 腕が沈む。

 膝がわずかに揺れる。


 魔法。

 斬撃。

 防御。

 回復。


 回る。

 流れる。


 形は保たれている。


 だが。


 重い。


 確実に削られていく。


 体力ではない。


 集中。

 判断。

 呼吸。


 呼吸が浅くなる。


 わずかな遅れ。


「……っ!」


 ライガが息を吐く。

 ハルトの動きも、わずかに遅れる。

 ルナの詠唱が、半拍遅れる。

 フィナの回復が、一瞬遅れる。



 その瞬間。


 視線が走る。


 選ばれる。


「……来る!」


 ケインが叫ぶ。


 狙いが、変わる。


 フィナ。


 わずかな綻び。

 そこを、逃さない。


 踏み込む。


 一直線。


 圧が、迫る。


 背後。

 さらに奥。


 小さな影が、わずかに動いた。


 まだ来ない。

 だが、いる。


 逃げ場が削られる感覚。


 ノアが、気づく。


「……フィナ」


 次の瞬間、動いていた。


「ノア!動くな!」


 ライガの声が、裂けるように響く。


「俺たちはアルファとは違うんだ!」


 踏み込もうとしたノアの足が、わずかに止まる。


 その一瞬。


 影が落ちる。

 爪が振り下ろされる。


 避けられない。


 ロイドが割り込む。


「通さないであります!」


 激突。


 だが、止まらない。


「ぐっ……!」


 弾かれる。

 体が宙を浮く。

 叩きつけられる。


 空いた。


 爪が迫る。


 ノアの目の前。


 防げない。


 ――ザクッ。


 藁束が裂けた。


 衝撃で、ノアの体が転がる。

 背中の感触が消えている。


 藁が散る。


 一瞬の、空白。


 視線が、まだノアに向いている。


「――今だ!」


 ハルトが踏み込む。


「行くぞ!」

 ライガが続く。


 横。

 死角。


 刃が走る。


 肉を裂く音。

 初めて、確かな手応え。


 巨体が、わずかに揺れた。


 奥。


 もう一つの影が、ゆっくりと頭を上げる。


 戦況が、動いた。


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