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追放されたベッドメイカー、寝床を整えただけでパーティが最強になってしまう  作者: わたぎきぬ
第三章 パーティはギルドを支える存在となる
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第5話 ダンジョン攻略ミッション⑤

 大空洞は、想像よりも広かった。


 天井は高い。


 支柱が等間隔に残され、空間を支えている。

 削り出された岩肌がそのまま露出し、人工の跡がはっきりと残っている。


 崩れていない。


 維持されている。


 その不自然さが、逆に際立っていた。


 奥には建物がある。


 石と木で組まれた簡易施設。

 炭鉱時代の休憩所。


 壁は残り、屋根も落ちていない。

 入口も開いたまま。


 ――そのまま使える。


「……使えるな」


 ハルトが短く言った。


「そのまま拠点にできる」


「助かったな……」


 ライガが息を吐く。


 ここまでで、確実に削られている。


 大きくではない。


 だが、確実に。


 集中。

 判断。

 体力。


 すべてが、薄く削れている。


「ノア、あっち」


 ライガが施設を指さす。


「中、見てくれ」


「分かった」


 ノアは頷き、迷いなく建物へ向かった。


 躊躇がない。


 戦場のど真ん中でも、やることは変わらない。



 中は、まだ使えた。


 机。

 簡易ベッド。

 布。


 埃は被っている。

 だが、壊れてはいない。


「……悪くない」


 ノアが小さく呟く。


 床を踏む。


 軋みを確かめる。


 視線を上げる。


 隙間。

 風の流れ。

 湿気の偏り。


 全部を見る。


 手が動く。


 布を払い、位置を変える。

 藁を取り出す。

 床に敷く。


 考える前に整える。


 少しでも良くする。


 それが当たり前だった。


 外の状況は、頭に入っていない。


 “ここを整える”ことが、すべて。



 その間に。


 外。


 空洞の端。


 影が動いた。


 低く。

 音もなく。


 支柱の陰を滑る。


 施設の裏へ回り込む。


 気配は薄い。


 だが、消えてはいない。


「……待て」


 ケインが言った。


 視線をずらす。


 施設の裏。


 暗がり。


「動いた」


 短く。


 ドルトが反応する。


「裏か」


「行く」


 ケインが回る。


 速い。


 だが。


 間に合わない。


 その瞬間。


 影が跳ねた。


 リッチデッドウルフ。


 一直線。


 迷いがない。


 狙いは――建物の中。


「ノア!」


 ライガが叫ぶ。


 踏み込む。


 だが、距離がある。


 削られた分の“わずかな遅れ”。


 それが致命的になる距離。


 ウルフが入口を抜ける。


 ノアは気づかない。


 手は動いている。


 布を整える。

 位置を直す。


 より良く。


 その背後に。


 牙。


 迫る。


 横から衝撃。


 鈍い音。


 盾が叩き込まれる。


 ウルフが横に弾かれる。


「間に合ったであります!」


 ロイドだった。


 そのまま踏み込み、押し潰す。


 体重を乗せる。


 骨が軋む。


 動きを止める。


 ライガが追撃する。


 一閃。


 首が落ちる。


 一瞬で終わる。


 だが、その一瞬が。


 遅れていたら、終わっていた。


「……ノア」


 ライガが低く言った。


 ノアが振り向く。


「なに?」


「……周り見ろ」


 短く。

 強く。


 ノアは止まる。


 視線を巡らせる。


 倒れたウルフ。

 荒れた入口。

 息の荒いロイド。


 状況が、遅れて入ってくる。


「……気づかなかった」


 小さく言った。


「ごめん」


 それだけ。


 言い訳もない。


 すぐに手を動かそうとする。


「いい、続けろ」


 ライガが言った。


 だが、その声は少しだけ硬い。


 今のは、明確な穴だ。


 だが。


 それ以上に。


 ノアの“役割”は別にある。



 設営は進む。


 藁が敷かれる。

 布が整えられる。


 空気が、変わる。


 ほんの少し。


 だが確実に。


「……なんだこれ」


 ケインが呟く。


 腰を下ろす。


「軽い」


 ドルトも言う。


 肩を回す。


 さっきまでの重さが、ない。


 ルナが目を細める。


「魔力、通る」


「詠唱が戻る」


「は?」


 シエラが眉を寄せる。


 だが、自分でも分かっている。


 違う。


 明らかに。


 思考が止まらない。


 判断が滑る。


 ノイズが消えている。


 ロイドが座り込む。


「これは……回復が早いでありますな」


「回復ってレベルじゃないよね」


 フィナが苦笑する。


「普通に、別物」


 ライガは壁に寄りかかる。


 目を閉じる。


 呼吸を整える。


 ――分かる。


 これは。


 明確に違う。


 静寂。


 初めてだった。


 ここに来てから。


 “落ち着く”という感覚。



 ライガがゆっくり息を吐く。


 そして言う。


「……ノアの拠点作りを優先するぞ」


「は?」


 シエラが顔を上げる。


「この状態、使う」


 ライガは続ける。


「中途半端に動くより、ここを整え切った方がいい」


 ハルトが一瞬だけ考える。


 視線を巡らせる。


 隊の状態。

 空気の変化。


 そして、頷いた。


「合理的だね」


 ルナも言う。


「回復効率が違う」


「戦闘継続時間が伸びる」


 ミナが静かにまとめる。


「流れを整える方が、結果的に速い」


 シエラが舌打ちする。


「……分かってるわよ」


「でも、戦場でそれ言う?」


 ライガが肩をすくめる。


「だから言ってんだろ」


「普通じゃねぇって」


 視線が、ノアに向く。


 当の本人は、何も気にせず手を動かしている。



 ハルトが言った。


「……確か」


「アルファが、大ボスの角を圧し折ったら」


「魔窟から魔物が消えたって報告があった」


 短く。


 そして視線を向ける。


「ノア、実際どうだった」


 ノアは少し考えてから答えた。


「……消えたよ」


「全部じゃないけど」


「奥からは来なくなった」


 沈黙。


「原因は分かるか」


「分からない」


 ノアは首を振る。


「でも、角折った後だった」


「……なるほどな」


 ハルトが言う。



「……ひとついい」


 ルナが口を開いた。


 全員の視線が向く。


「さっきの分岐で」


「奥、見えた気がする」


「何がだ」


「……大きい個体」


「一角ホブゴブリン」


 空気が変わる。


「断定はしない」


 ルナは続ける。


「でも、サイズがおかしい」


「通常個体じゃない」


 ケインが息を吐く。


「マジかよ……」


 ハルトが地図を叩く。


「位置は」


「この先」


 ルナが指す。


 主坑道の奥。


「通路、抑えられてるな」


 ライガが笑う。


「シンプルで助かる」


 誰も否定しない。


 やることは一つだった。


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