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追放されたベッドメイカー、寝床を整えただけでパーティが最強になってしまう  作者: わたぎきぬ
第一章 ノア、弱小パーティに拾われる
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第2話 弱小パーティは伸びしろの塊

 森の中は、前に苦戦した時よりも静かに感じられた。


「次は負けねぇ。いけるぞ!」


 ライガが踏み込む。

 速い。

 ――いや、少しだけ無理をしている。


 ゴブリンの爪が、頬をかすめた。


「ロイド、左!」

「任せろ!」


 盾が前に出る。

 受ける。鈍い音が返る。


「……重いな」

「いいから押せ!」


 ライガが笑う。

 余裕がある笑いではない。


 シエラが杖を向ける。


「ファイア」


 炎が走る。


「……少し遅い」

「十分でしょ」


 フィナが息を整える。


「回復、いきます!」


 詠唱は途切れない。

 だが、余裕もない。


 連携は繋がっている。

 形にもなっている。


「いける、いける!」


 ただ、ほんのわずかに噛み合っていない。


 それでも、ゴブリンは崩れる。


 その横を、ノアは歩いていた。

 一歩。半歩。軸足を入れ替える。

 倒れたゴブリンが、ちょうどその場所へ転がり込む。


「ノア! 動くなよ!」


 上からライガが飛び込む。

 剣が振り下ろされ、ゴブリンは絶命した。


 ノアの目の前で、戦闘が終わる。


「……はぁ」


 ロイドが息を吐く。


「ギリだな」

「いやいや、いけてただろ!」


 ライガが笑う。


「今の見ただろ!」

「見えてないだけで危なかったわよ」

 シエラが言う。


「……でも」

 フィナが小さく続けた。

「昨日より、動きやすい……気がします」


「だろ?」

「いや、慣れだ」

 ロイドが首を振る。

「同じ相手だ。対処が分かってきただけだろ」


「それそれ!」

 ライガが大きく頷く。

「経験値ってやつだな!」


 ノアは、くん、と鼻を鳴らした。

 だが、口には出さない。


 鈍色の瞳だけが、わずかに動く。


「……次、行きましょう」


 シエラが溜め息を吐いた。


「おう!」

 ライガが笑う。

「このまま一気にランク上げるぞ!」


 ノアは一瞬だけ視線を落とした。


「ノア君?」

「あ……俺の仕事、してないなって」


 赤いマフラーが跳ねた。


「いや、始まったばっかだぞ」

「アタシは賛成ね」


「はぁ? シエラまで何を言って――」

「スカウトしたのはライガよ」

 シエラが肩をすくめる。

「彼の仕事、奪うつもり?」


 ノアは軽く息を吐いた。



 森の奥。

 少し開けた場所だった。


「……ここ、昨日より奥だな」

「いいじゃん、いいじゃん!」


 ライガが笑う。


「強いの来いって!」

「来たら死ぬわよ」


「フィナ、余裕は?」

「……まだ、あります」

「一戦だけだな」

 ロイドが頷く。


 ノアは視線を上げた。

 茂みが揺れる。


「来たぞ!」


 ゴブリンが飛び出した。

 数が多い。


「多いな!」

「崩すぞ!」


 ロイドが前に出る。

 受ける。押す。


 押し切れない。


「……っ!」

「いけるか!?」

「やるしかねぇだろ!」


 ライガが踏み込む。

 剣が走る。


 浅い。


「くそ、数が――」


 炎が走る。


「ファイア!」


 焼く。止める。


 フィナの声が続く。


「回復、いきます!」


 詠唱は繋がる。

 だが。


 崩れない。

 押し切れない。


 その時だった。


 ノアが、ほんのわずかに位置を変えた。


 それだけだった。

 たった一歩。


 けれど、その一歩で。


 ゴブリンの動きが、少しだけずれる。


「……っ!」


 ロイドの盾に、わずかな余裕が生まれた。


「押せる!」

「任せろ!」


 ライガが踏み込む。

 今度は入る。


 崩れる。

 連鎖する。


 ゴブリンが、順に倒れていく。


 静寂。


「……はぁ」

 ロイドが息を吐く。

「ギリギリだな」


「でも勝った!」

 ライガが笑う。

「いけるって!」


「……たまたまでしょ」

 シエラが言う。


 ノアは何も言わない。

 藁束を持ち直す。


「いや今それやる?」

「……趣味なので」

「は?」

「戦闘中だぞ」

「問題ないです」


 変わらない顔だった。



 夕方。

 小さな農園。


「本当に助かりました……!」


 農園の主人が何度も頭を下げる。


「いやいや!」

 ライガが胸を張る。

「困った時はお互い様ってやつですよ!」


「いや、お前は見ず知らずだろ」

「細けぇこと気にすんな!」


 主人は苦笑しながら、小さな袋を差し出した。


「約束の報酬です」


 ライガが受け取る。

 袋は軽かった。


 期待していたほどではない。

 だが、不満を口にするほどでもない。


「よし、分けるぞ!」


 そこで手が止まる。


「……均等でいいか?」

「契約」

 シエラが即座に言った。

「半分はギルド」


「……あ」

「忘れるとか信じらんない」

「ぐぬぬ……」


 ライガは渋々、数え直す。

 それから順に配っていく。


「ロイド」

「シエラ」

「フィナ」


 最後に。


「ノア」


 差し出された銀貨を、ノアは受け取った。


「……ありがとうございます」

「当然だろ!」

 ライガが笑う。

「今回は全員、ちゃんと働いたからな!」


「……今回は、ね」

「“今回は”ってなんだよ」

「別に」


 ロイドが銀貨を指で弾く。


「……ギリギリだったな」

「でも勝った!」

「勝ったけどな」


 フィナが少し考えてから言った。


「……なんか、昨日より疲れてないです」

「だろ?」

「だから慣れだって」

「経験値!」


 誰も疑わない。

 ノアも疑わない。


 ただ、足元を見た。

 踏み固められた地面を、ほんの少しだけ足でならす。

 誰にも気づかれないように。


「……どうした?」

「いえ」

「少しだけ、気になったので」


「……何がだよ」

「なんでもないです」


「戻りましょうか」

「おう!」

「今日は飯だな!」

「まずギルド寄るのよ」

「うっ……」


 笑い声が広がる。


 夕焼けの中。

 五人は街へ戻っていく。


 足取りは軽い。


 だが。


 ほんの少しだけ、

 何かが変わっていることに。


 まだ、誰も気づいていなかった。


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