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追放されたベッドメイカー、寝床を整えただけでパーティが最強になってしまう  作者: わたぎきぬ
第三章 パーティはギルドを支える存在となる
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第4話 ダンジョン攻略ミッション④

 目指すは中央部。


 炭鉱時代に使われていた、休憩施設付きの大空洞。

 そこを第二拠点とする。


 ――そのはずだった。


 通路は整っていた。


 削られた壁面は滑らかで、足場も平らに均されている。

 天井には支柱が入り、崩落の気配も薄い。


 本来なら、歩きやすい道だ。


 だが。


「……音、消えないな」


 ハルトが呟いた。


 足音が残る。

 装備の擦れる音が残る。

 呼吸が、耳にまとわりつく。


 反響ではない。


 “残っている”。


 重なって、消えない。


「気持ち悪いわね」

 ルナが短く言う。


「詠唱が通りにくい」


「魔力の流れも鈍い気がする」

 シエラも眉を寄せる。


 空間そのものが、静まらない。

 落ち着く隙がない。


「止まるな」

 ハルトが言う。


「進む」


 短く。


 全員が頷く。


 その時。


「ノアは?」


 ライガが後ろを振り返った。


「まだ来てないであります!」

 ロイドが即答する。


「荷の後ろで確認済み!」


「分かった、いい。進むぞ!」


 ライガはそれ以上振り返らない。


 前を見る。


 進むしかない。



 最初に来たのは、コウモリだった。


 暗闇の奥から、音もなく湧く。


 群れ。


 羽音だけが先に来る。


 視界に入る前に、空気が揺れる。


「来る!」


 ケインが横に流れる。

 側面へ。


 同時にドルトが前へ出る。

 足を踏み込み、地面を押さえる。


「下がるな!」


 低い声。


 隊列を崩さない。


 ルナの詠唱が走る。


「――火矢」


 火が散る。


 狭い通路に光が広がる。

 コウモリの群れが焼け、落ちる。


 焼け焦げた匂いが一瞬で満ちる。


 だが。


「多いな!」


 ライガが剣を振るう。


「切っても切っても来る!」


 ロイドが盾で弾く。


 叩く。

 弾く。

 押し返す。


 数は多い。


 だが、強くはない。


 押し切れる。


 押し切れるが――


「……終わりが見えないな」


 シエラが低く言う。


 落ちたはずの羽音が、消えない。

 次の群れの音と混ざる。


 “終わった感触”が来ない。


 その時。


「ノア、来てるか!?」


 ライガが叫んだ。


「――まだであります!」


 ロイドが振り向きながら答える。


「視認できず!」


「チッ……」


 舌打ち。


 だが、止まらない。


「抜けるぞ!」


 ハルトが判断する。


 殲滅ではない。


 突破。


 隊列を維持したまま、前へ。


 コウモリの群れを押し抜ける。


 振り切る。


 だが。


 羽音は、しばらく後ろで鳴り続けていた。



 臭いが変わる。


 湿った鉄の匂い。

 腐敗の混じった空気。


「……来るな」


 ドルトが低く言う。


 影が滑る。


 低い姿勢。

 速い。


「ウルフ!」


 ケインが横へ回る。


 牙が光る。

 腐った毛皮。

 目が、光らない。


 リッチデッドウルフ。


「前、来るぞ!」


 ドルトが踏み込む。


 衝突。


 重い。


 骨の奥まで響くような衝撃。


 コウモリとは違う。


 一撃が、重い。


 数は少ない。


 だが。


「……しつこいな」


 ライガが歯噛みする。


 斬る。


 裂く。


 それでも、止まらない。


 倒れても、すぐには動きが止まらない。


 鈍く、粘る。


 ルナが詠唱を変える。


「足止める」


 氷が走る。


 地面が凍る。


 ウルフの脚が滑る。


「今!」


 ケインが側面から入る。


 斬る。


 崩れる。


 砕ける。


 だが。


 次が来る。


 音が、消えない。


 倒したはずの気配が、残っている。


「間がねぇな……!」


 ロイドが唸る。


 攻撃の合間がない。


 息を整える隙がない。


 構え直す前に、次が来る。


 思考が、わずかに遅れる。


 ほんの一瞬。


 それだけで、削られる。


 その時。


「――来た!」


 ライガが叫んだ。


 振り向く。


 通路の奥。


 灯りの向こう。


 ノアの姿が見えた。


 藁束を背負ったまま。


 いつも通りの歩幅で。


 何も変わらない速度で。


 この中を、歩いてくる。


「ロイド! ノアを頼む!」


「了解であります!」


 ロイドが一歩下がる。


 盾を構え直す。


 ノアの進路を確保する。


 前はライガが押さえる。


 役割が一瞬で切り替わる。


「そのまま来い!」


 ライガが叫ぶ。


 ノアは頷く。


「分かってるよ」


 短く。


 そのまま進む。


 止まらない。


 迷わない。


 この空気の中で。



 行軍は続く。


 敵は強くない。


 一体一体なら問題ない。


 だが。


 途切れない。


 終わらない。


 常に何かがいる。


 倒しても。

 払っても。


 “消えない”。


「……なんか重くないか」


 ケインが呟いた。


 誰も否定しない。


 足が鈍る。

 判断が遅れる。

 集中が削られる。


 大きな崩れではない。


 だが。


 確実に削られている。


 気づかないうちに。


 静かに。



 それでも進む。


 止まらない。

 止まれない。


 前へ。

 前へ。


 そして。


 通路が、開けた。


「……来たな」


 ハルトが言った。


 視界が広がる。


 大空洞。


 高い天井。

 残された柱。


 そして。


 奥に、建物。


 炭鉱時代の休憩施設。


「……あれか」


 ライガが息を吐いた。


「第二拠点」

 フィナが言う。


 辿り着いた。


 だが。


「……思ったより来てるな」


 ケインが肩を回す。


 腕が重い。


 呼吸が浅い。


 まだ戦える。


 だが、“整っていない”。


「少し休みたい」


 ミナが静かに言った。


 その時。


「もう準備できてる」


 ノアが言った。


 振り向く。


 すぐ後ろにいる。


 いつの間にか。


 この削れる空間を、通り抜けて。


「こっち」


 そう言って、歩き出した。

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