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追放されたベッドメイカー、寝床を整えただけでパーティが最強になってしまう  作者: わたぎきぬ
第三章 パーティはギルドを支える存在となる
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第2話 ダンジョン攻略ミッション②

 正門の外には、すでに馬車が並んでいた。


 板を厚く張り、側面を補強した長距離用の荷馬車。

 車輪は一回り大きく、軋みを抑えるためか金具も多い。

 見慣れた造りではある。だが、その規模が違った。


 多い。

 明らかに、いつもより多い。


「……多くねぇか」


 ライガが言った。


 前方に二台の大型馬車。

 人員輸送用。


 その後ろに続く列は長い。

 木箱や水袋を積んだ荷車が何台も連なっている。

 縄で固定された資材は隙間なく詰め込まれ、動くたびに鈍く軋んだ。


「前が戦闘班ね」

 シエラが一瞥する。


「後ろが補給と兵站」

 フィナが続けた。


 量が違う。

 持っていくというより、持たせるための準備だ。


「長丁場前提だな」

 ライガが肩を回す。


 ロイドが頷く。


「途中で引き返す想定ではないであります」


 つまり、中で持たせるつもりだ。

 誰も軽くは見ていない。


「本気だな」


「当たり前でしょ」

 シエラが言う。


「緊急ミッションよ」


 その時。


「また一緒か」


 声がかかった。


 振り向くと、もう一台の馬車の前に数人の男たちが立っている。

 見覚えのある顔。


「青葉の剣」


 ライガが口の端を上げた。


 前に出てきた男が軽く手を上げる。


「ハルトだ。今回もか」


「ライガだ。まぁ、そうなるよな」


「最近よく当たるな」


「D帯詰まってるからな」


「だろうな」


 軽く笑いが混じる。

 気安い。

 だが、緩くはない。


 距離を分かっているやり取りだった。


「この前の馬車道、そっち東だったよな」

 ハルトが言う。


「そうそう。そっちは西か」


「妙に数多かったやつ」


「そっちもかよ」


「そっちもだよ」


 互いに苦笑する。

 状況の悪さは共有されている。


「で、今回は炭鉱か」


「嫌なとこ引いたな」


「お前ら、ああいうの得意じゃないだろ」


「そっちこそな」


 間髪入れず返す。

 少しだけ目が合う。


 笑っているが、譲らない。


 その流れで、ハルトの視線が横に流れた。

 ノアで止まる。


「……で、それも一緒か」


「あぁ」

 ライガが軽く頷く。


「例の寝るやつ」


「雑な言い方すんなよ」


「合ってるだろ」


 ハルトが笑う。


「噂にはなってるぞ」


「マジか」


「妙に調子いいパーティがいる、ってな」


 軽い言い方。

 だが、観察はしている。


 ノアはあっさり言った。


「普通だよ」


「普通じゃないだろ」

 ハルトが即返す。


「寝てるだけで変わるなら苦労しねぇ」


「寝方の問題だよ」


 言い切る。


 一瞬だけ、間が空いた。


 ハルトは小さく息を吐いた。


「……まぁいい」


「今回で分かるだろ」

 ライガが言う。


「炭鉱だしな」


「一番差が出る場所だな」


「それな」


 軽く笑う。

 だが、その奥は張っている。


 互いに試す気だ。


「負けんなよ」


「そっちこそ」


 短い。

 それで十分だった。


「じゃ、乗るか」


「だな」


 それぞれの馬車へ向かう。



 馬車はゆっくりと動き出した。


 石畳を抜け、街の外へ出る。

 しばらくはなだらかな道が続いたが、やがて木々が増え、道は森へと入っていく。


 日差しが遮られる。

 影が濃くなる。

 風が、少しだけ湿る。


「暗くなるな」

 ライガが呟いた。


「森だしね」

 フィナが窓の外を見る。


 枝が頭上で絡み合い、空を細く切り取っている。

 差し込む光は薄く、揺れるたびに明暗が入れ替わった。


 視界が、安定しない。


 ロイドが腕を組む。


「音も変わるでありますな」


「……あぁ」

 ライガが頷く。


 車輪の音が吸われる。

 代わりに、枝の擦れる音や葉の揺れる音が増える。

 一定ではない。

 細かく、散る。


 シエラが短く言った。


「嫌な感じね」


「まだ森だろ」


「だからよ」


 言葉は短い。

 だが、意味は分かる。


 ここはまだ外だ。

 それでも、この感覚。

 なら、中はどうなる。


 誰も口にはしない。


 ノアは窓の外を見ていた。


 揺れ。

 光。

 音。


 全部を確かめるように。


「……これ、残るな」


 ぽつりと言う。


「何が?」

 ライガが聞き返す。


「音」


「音?」


「消えない」


 言われて、耳を澄ます。


 確かに、音はある。

 だが、途切れ方が違う。

 どこかに、残る。


「……森だからじゃない?」

 フィナが言う。


「反響とか」


「かもね」

 シエラも短く同意する。


 ノアは少しだけ首を傾げた。


「そうかな」


 それ以上は言わない。

 ただ、視線は外のままだった。


 馬車は森を進む。

 同じような景色が続く。


 だが、妙に長く感じた。

 時間の感覚が、少しずつずれていく。


 揺れに慣れた頃には、森の暗さだけが濃く残っていた。


 やがて。


 光が開けた。


「抜けたな」

 ライガが言う。


 視界が一気に広がる。


 森の縁。

 そして、その先。


 岩山があった。


 むき出しの岩肌。

 木は少ない。

 削られたような斜面が続き、その一角に黒い口が開いている。


 炭鉱。


 遠目でも分かる。


 だが。


「……近くないか?」

 フィナが言った。


 本来なら、もう少し距離があるはずだ。

 だが、感覚よりも早く見えている。


 ライガも眉をひそめた。


「こんなにすぐだったか?」


「地図と照らし合わせる必要があるわね」

 シエラが言う。


 ロイドも低く唸った。


「……妙でありますな」


 ノアは何も言わない。


 ただ、岩山を見ていた。


 その奥。

 黒い口。

 光を飲み込む場所。


 そこから。


 何かが続いているような気がした。


 音が。


 途切れずに。


 こちらまで、伸びているように。


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