第2話 ダンジョン攻略ミッション②
正門の外には、すでに馬車が並んでいた。
板を厚く張り、側面を補強した長距離用の荷馬車。
車輪は一回り大きく、軋みを抑えるためか金具も多い。
見慣れた造りではある。だが、その規模が違った。
多い。
明らかに、いつもより多い。
「……多くねぇか」
ライガが言った。
前方に二台の大型馬車。
人員輸送用。
その後ろに続く列は長い。
木箱や水袋を積んだ荷車が何台も連なっている。
縄で固定された資材は隙間なく詰め込まれ、動くたびに鈍く軋んだ。
「前が戦闘班ね」
シエラが一瞥する。
「後ろが補給と兵站」
フィナが続けた。
量が違う。
持っていくというより、持たせるための準備だ。
「長丁場前提だな」
ライガが肩を回す。
ロイドが頷く。
「途中で引き返す想定ではないであります」
つまり、中で持たせるつもりだ。
誰も軽くは見ていない。
「本気だな」
「当たり前でしょ」
シエラが言う。
「緊急ミッションよ」
その時。
「また一緒か」
声がかかった。
振り向くと、もう一台の馬車の前に数人の男たちが立っている。
見覚えのある顔。
「青葉の剣」
ライガが口の端を上げた。
前に出てきた男が軽く手を上げる。
「ハルトだ。今回もか」
「ライガだ。まぁ、そうなるよな」
「最近よく当たるな」
「D帯詰まってるからな」
「だろうな」
軽く笑いが混じる。
気安い。
だが、緩くはない。
距離を分かっているやり取りだった。
「この前の馬車道、そっち東だったよな」
ハルトが言う。
「そうそう。そっちは西か」
「妙に数多かったやつ」
「そっちもかよ」
「そっちもだよ」
互いに苦笑する。
状況の悪さは共有されている。
「で、今回は炭鉱か」
「嫌なとこ引いたな」
「お前ら、ああいうの得意じゃないだろ」
「そっちこそな」
間髪入れず返す。
少しだけ目が合う。
笑っているが、譲らない。
その流れで、ハルトの視線が横に流れた。
ノアで止まる。
「……で、それも一緒か」
「あぁ」
ライガが軽く頷く。
「例の寝るやつ」
「雑な言い方すんなよ」
「合ってるだろ」
ハルトが笑う。
「噂にはなってるぞ」
「マジか」
「妙に調子いいパーティがいる、ってな」
軽い言い方。
だが、観察はしている。
ノアはあっさり言った。
「普通だよ」
「普通じゃないだろ」
ハルトが即返す。
「寝てるだけで変わるなら苦労しねぇ」
「寝方の問題だよ」
言い切る。
一瞬だけ、間が空いた。
ハルトは小さく息を吐いた。
「……まぁいい」
「今回で分かるだろ」
ライガが言う。
「炭鉱だしな」
「一番差が出る場所だな」
「それな」
軽く笑う。
だが、その奥は張っている。
互いに試す気だ。
「負けんなよ」
「そっちこそ」
短い。
それで十分だった。
「じゃ、乗るか」
「だな」
それぞれの馬車へ向かう。
◇
馬車はゆっくりと動き出した。
石畳を抜け、街の外へ出る。
しばらくはなだらかな道が続いたが、やがて木々が増え、道は森へと入っていく。
日差しが遮られる。
影が濃くなる。
風が、少しだけ湿る。
「暗くなるな」
ライガが呟いた。
「森だしね」
フィナが窓の外を見る。
枝が頭上で絡み合い、空を細く切り取っている。
差し込む光は薄く、揺れるたびに明暗が入れ替わった。
視界が、安定しない。
ロイドが腕を組む。
「音も変わるでありますな」
「……あぁ」
ライガが頷く。
車輪の音が吸われる。
代わりに、枝の擦れる音や葉の揺れる音が増える。
一定ではない。
細かく、散る。
シエラが短く言った。
「嫌な感じね」
「まだ森だろ」
「だからよ」
言葉は短い。
だが、意味は分かる。
ここはまだ外だ。
それでも、この感覚。
なら、中はどうなる。
誰も口にはしない。
ノアは窓の外を見ていた。
揺れ。
光。
音。
全部を確かめるように。
「……これ、残るな」
ぽつりと言う。
「何が?」
ライガが聞き返す。
「音」
「音?」
「消えない」
言われて、耳を澄ます。
確かに、音はある。
だが、途切れ方が違う。
どこかに、残る。
「……森だからじゃない?」
フィナが言う。
「反響とか」
「かもね」
シエラも短く同意する。
ノアは少しだけ首を傾げた。
「そうかな」
それ以上は言わない。
ただ、視線は外のままだった。
馬車は森を進む。
同じような景色が続く。
だが、妙に長く感じた。
時間の感覚が、少しずつずれていく。
揺れに慣れた頃には、森の暗さだけが濃く残っていた。
やがて。
光が開けた。
「抜けたな」
ライガが言う。
視界が一気に広がる。
森の縁。
そして、その先。
岩山があった。
むき出しの岩肌。
木は少ない。
削られたような斜面が続き、その一角に黒い口が開いている。
炭鉱。
遠目でも分かる。
だが。
「……近くないか?」
フィナが言った。
本来なら、もう少し距離があるはずだ。
だが、感覚よりも早く見えている。
ライガも眉をひそめた。
「こんなにすぐだったか?」
「地図と照らし合わせる必要があるわね」
シエラが言う。
ロイドも低く唸った。
「……妙でありますな」
ノアは何も言わない。
ただ、岩山を見ていた。
その奥。
黒い口。
光を飲み込む場所。
そこから。
何かが続いているような気がした。
音が。
途切れずに。
こちらまで、伸びているように。




