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追放されたベッドメイカー、寝床を整えただけでパーティが最強になってしまう  作者: わたぎきぬ
第二章 弱小パーティは駆け上がる
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第12話 ノアのぐっすりベッド(下)

 ギルドの掲示板前。


 依頼書が風に揺れる。

 紙の擦れる音。人の気配。ざわめき。


 いつもと変わらない光景。


 その中で。


「シエラさん」


 静かな声がかかった。


 ミリアだ。


 距離が近い。

 逃がさない位置。


「少し、よろしいでしょうか」


 シエラは振り向く。


「……なに」


 短い。

 機嫌は良くない。


 ミリアは周囲を一瞥する。


 ほんの一瞬。


 だが、その一瞬で、

 “ここで話す内容ではない”と分かる。


「貴族であること。完全ではありませんが、気づかれている可能性があります」


 空気が、わずかに沈む。


 ライガたちは意味までは分からない。

 だが、軽い話ではないと察する。


「ですので」


 一歩、詰める。


「チームの変更を提案します」


 シエラの目が細くなる。


「……は?」


「金羊毛冒険者ギルド。ご存知でしょう」


 その名前だけで十分だった。


 “そちら側”。


「貴族間での調整も可能です。安全性も高い。あなたの立場であれば――」


「嫌よ」


 即答。


 被せる。


 間を与えない。


 ミリアの言葉を切る。


「……理由を伺っても?」


 わずかに強くなる声。


 シエラは一歩前に出る。


「箱入りに戻る気はないの」


 短い。

 だが、芯がある。


「ですが――」


「嫌って言ってるでしょ」


 遮断。


 完全に。


 ミリアはわずかに息を吐く。

 だが、引かない。


 書類を差し出す。


「手続きなら、あとはここにサインをするだけです」


 逃げ道を塞ぐ。

 選択を迫る。


 沈黙。


 数秒。


 シエラはミリアを見る。

 真正面から。


 視線を外さずに。


 そして。


 ――手を伸ばす。


 掲示板へ。


 適当に。


 一枚、剥がす。


 紙が剥がれる音。


 そのまま。


 ミリアの前に叩きつけた。


「これでいいでしょ」


 勢い任せ。

 選んでいない。

 ただの反発。


 ミリアが視線を落とす。


 紙を見る。


 一瞬。


 間。


「……それ、ランクE用の依頼ですよ」


 静かに言う。


 シエラが止まる。


「……え?」


 間の抜けた声。


 背後で。


「え?」


 ライガも同時に固まった。



 現地は開けていた。


 野営には適している。

 少なくとも、普通なら。


 風も通る。

 地面も悪くない。


 “普通なら”。


「よし、この辺でいいだろ!」


 ライガが寝具を放り出す。

 適当に広げる。


 その軽さが、逆に浮いていた。


「……そこ、ダメです」


 少し遅れて、ノアの声。


 低い。


 いつもより、わずかに。


「……は?」


「寝にくいです」


 短い。


 まだ丁寧。


 だが、余裕がない。


「いや別に――」


「ダメです」


 被せる。


 即答。


 空気が、ぴんと張る。


 ライガが言葉を切られる。


 フィナがすぐに間に入る。


「じゃあこっちでいいかな」


 コンロを運び、置く。


「ここなら使いやすいよね」


「そこダメです」


 即答。


 間がない。


「え?」


「……そこ、寝にくい」


 少し崩れる。


 だが、引かない。


「え、でも便利だよ?」


「便利でもダメ」


 言い切る。


 フィナが黙る。


 ロイドが前に出る。


 置き盾を運び、据える。


「こちらに防御を――」


「それ、もう少し奥」


 被せる。


「……は?」


「邪魔」


 短い。


 削るような言い方。


「防御優先であります」


「下がる」


 即答。


 ロイドが眉を寄せる。


「……理由を」


「……眠りにくい」


 もう丁寧語はない。


 ロイドが首を傾げる。


「……関係、あるでありますか」


 ノアが視線を上げる。


 わずかに鋭い。


「ある」


 一拍。


「全部、繋がってる」


 沈黙。


 誰も言い返せない。


 空気が重い。


 そこで。


 シエラが前に出る。


「ちょっと待ちなさい」


 寝具に手を伸ばす。

 整える。


「ダクネスくらい知ってるでしょ」


 淡々と。


「足は西、頭は東」


 配置が整う。


 振り返る。


「ちゃんと頭が東でしょ」


 ノアを見る。


「アタシだってちゃんと知って――」


「はい。正解です」


 即答。


 だが。


「角度が五度ズレてる」


 空気が止まる。


「ちょ、細かすぎない?」


「それに五度傾けたら、このベッドだけズレるでしょ」


 全員が息を呑む。


 ノアが周囲を見る。


 地面。

 風。

 配置。


 そして。


 設営テント。


「……確かに」


 一拍。


「テントがズレてる」


 言い切る。


 迷いがない。


「設営テントからやり直す」


 沈黙。


「はぁ!?」


 ライガが叫ぶ。


「いや今さら!?」


「え、あれ他の人が――」


 ロイドが低く言う。


「……それをやり直すでありますか」


 シエラがノアを見る。


 数秒。


 ほんのわずかに口角が上がる。


「……バカじゃないの」


 だが、否定ではない。


「……でもよ」


 ライガが頭を掻く。


「間違ってる気しねぇんだよな……」


 フィナが頷く。


「うん……なんか、そう」


 ロイドも。


「……合理性はあるであります」


 シエラが肩をすくめる。


「……最初からやりなさいよ」


「じゃあやり直す」


 即答。


 さっきまでの圧が、そのまま残っている。


 誰も止めない。


 全員が動く。



 再設営後。


 空気が違う。


 風が抜ける。

 湿気が溜まらない。

 地面は乾いている。


「……なんだこれ」


 ライガが寝転ぶ。


「めっちゃいい」


 フィナも座る。


「全然違う」


 ロイドが頷く。


「快適であります」


 さっきまでの違和感が、すっと消えている。


 ノアは何も言わない。

 ただ、静かにその様子を見ている。


 シエラが近づく。


「……ねぇ」


 ノアが顔を上げる。


「アンタさ」


 一拍。


「最初からそんな喋り方だった?」


 ノアは少し考えて。


 視線を外す。


「……変わってないけど」


 一瞬。


 間。


 シエラが吹き出す。


「……はぁ?」


「いや変わってるだろ!」


 ライガが笑う。


 フィナも笑う。


「距離近くなったよね」


 ロイドが頷く。


「良い変化であります」


 ノアは何も言わない。


 ただ、少しだけ視線を逸らす。


 その“さっきの硬さ”が、ほんのわずかに抜けていた。


 その空気を。


 シエラが締める。


「ほら見なさい」


 腕を組む。


「アタシはちゃんと依頼書を選んでたってこと!」


 沈黙。


 そして。


 全員が肩をすくめた。


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