表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放されたベッドメイカー、寝床を整えただけでパーティが最強になってしまう  作者: わたぎきぬ
第二章 弱小パーティは駆け上がる
22/84

第9話 キュプロス砦の番人⑨

 白く裂けた夜が、ゆっくりと元に戻っていく。


 だが、空気は変わっていた。


 魔物の動きが鈍る。

 光に怯み、わずかに足を止める。


「おーい! 無事か!」


 ライガの声が響く。


 その背後で、ロイドが前へ出る。


「自分が前を押さえます! 退路、確保します!」


 大盾を構え、地面を踏み込む。

 重い音。

 魔物の進路を、強引にずらす。


 横から、シエラ。

 杖が振られる。


「ファイアアロー」


 短い詠唱。

 火が走る。

 直線的に。正確に。

 影を焼き払う。


 フィナが続く。


「ラウンドヒール!」


 淡い光が広がる。

 後方支援。

 全体を底上げする。


 動きが整う。


 暁紅蓮隊。

 迷いがない。


 その中心で。


「ノア!」


 ライガが手を振る。


「こっち来い!」


 だが。


「え?」


 ノアは首を傾げる。


「なんでですか?」


「なんでって!」


 思わず声が荒くなる。


「危ねぇだろうが!」


「いや」


 ノアはあっさり返す。


「ここ、良くないですよ」


 同じことを、もう一度。

 まるで当然みたいに。


 ライガが一瞬、言葉を失う。


 その横で。


「ノア!」


 ロイドが声を張る。


「いいから来てください! 今はそっちじゃない!」


 さらに。


「……いいから、来なさい」


 シエラが低く言う。

 その声音は、普段より少しだけ硬い。


 ノアは、そこでようやく動いた。


「……あ、はい」


 軽く頷く。

 素直に、こちらへ向かう。


 だが、その動きはやはり妙だった。

 一歩、ずれる。

 ほんの少し位置を変える。

 また一歩、ずれる。


 それを繰り返しながら、近づいてくる。


 その間にも、魔物は動く。

 数が増えている。

 囲い込むように。


 だが。


 ロイドが押さえる。

 シエラが焼く。

 ライガが切り込む。

 フィナが支える。


 連携は崩れない。


 ただ。


 その後方で。


「……」


 シャルルは動かなかった。


 状況を見ている。


 紅蓮隊。

 連携がいい。

 想定以上に。


 そして。


 ノア。


 あれは。


 ただの偶然ではない。


 視線が、わずかに細まる。


 その時。


「……で」


 ロイドが短く言った。

 シエラへ。


「聞き込みの件、どう思います?」


 戦闘中とは思えない、落ち着いた声だった。


「……まだ確定じゃない」


 シエラが返す。

 火を放ちながら。


「でも」


 一拍。


「消えてる数が合わない」


「……やっぱり、そうですか」


 ロイドの目が細くなる。

 前を押さえながら。


「ガイルの話とも一致します」


 その名に。


 シャルルの視線が、わずかに動く。


 ほんの一瞬。

 だが、確かに反応した。


 それを。


 シエラは見逃さなかった。


「……やっぱり」


 小さく呟く。


 そして。


「ノア」


 呼ぶ。


「え?」


「来なさい。今すぐ」


 今度は、迷いのない命令。


 ノアは素直に動いた。

 ロイドの後ろへ滑り込む。


 その瞬間。


 空気が一段、変わる。


 圧が、抜ける。

 張りついていた何かが、わずかにずれる。


「……なるほど」


 ロイドが低く呟いた。


「位置、ですか」


「……えぇ」


 シエラが短く答える。


 理解しきってはいない。

 だが、無視もできない。


 それが、今の結論だった。


 その間にも、魔物はまだいる。

 だが、押し返している。

 均衡が、こちらへ傾く。


 その時。


 シャルルが動いた。


 ほんの僅かな隙。

 視線が外れた、その瞬間。


「……なるほどね」


 小さく呟く。


 口元が、わずかに上がる。

 笑っている。

 だが、そこに温度はない。


 理解した。

 見切った。

 そして、切り替えた。


 次の瞬間には、もう決めている。


 すっと後ろへ下がる。

 音もなく。

 気配を消しながら。


 戦わない。

 この場は、捨てる。


 判断は早い。


 その早さだけが、むしろ薄気味悪かった。


 次の瞬間には、もう姿がない。


「……!」


 ロイドが振り返る。

 だが、遅い。


「逃げた……!」


 ライガが舌打ちする。


 その時。


 別方向から、気配。


 ヴァネッサだった。


 派手な装い。

 だが、その動きは静かだ。

 夜に馴染みすぎている。


 視線が流れる。

 シエラへ。


「……アナタ」


 一瞥。


 ほんの一瞬。

 だが、値踏みするような目。


「ふぅん」


 それだけ。


 意味深な響きだけを残して、踵を返す。

 そのまま、闇へ溶けるように消える。


 続いて。


 バルガス。


 葉巻を咥えたまま、ゆっくりと歩いてくる。

 戦う気配はない。


 ただ。


 ノアを見る。

 じっと。


 数秒。


 その視線だけが重い。


 そして。


「ノア」


 低い声。


「顔、覚えたからな」


 それだけ言う。


 脅しとしては曖昧だった。

 だが、妙に引っかかる。

 忘れないと告げる声だった。


 そして、そのまま背を向ける。

 森の奥へ。

 消える。


「……なんなんだ、あいつら」


 ライガが吐き捨てる。


 だが。


 誰も答えない。


 代わりに。


 シエラが、静かに言った。


「……アイアンループでしょ」

「アイアンループ……」


 その言葉の意味はさて置き。

 もっと理解不能なもの


 それは


「ノアは何をやったの……。何が見えているっていうの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ