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追放されたベッドメイカー、寝床を整えただけでパーティが最強になってしまう  作者: わたぎきぬ
第二章 弱小パーティは駆け上がる
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第4話 キュプロス砦の番人④

 夜の森は、重かった。


 湿った空気が肌に絡みつく。

 視界は狭く、音は遠い。

 昼とは、まるで別の場所だ。


「……ここからは静かに行くぞ」


 低い声が落ちる。


 バルガスだった。

 オールバックの男。

 いつもの葉巻は咥えていない。


 代わりに、その目だけが鋭く光っている。


「相手はキラーコンバットとリッチデッドウルフだ」


 短く告げる。


「空と地上、両方来る」


 周囲の連中が、無言で頷く。

 言葉は要らない。

 この隊は、それで通じる。


「陣形を組む」


 指示が飛ぶ。


「前衛、三。間隔を開けろ」

「中衛、左右に散れ。魔法は温存」

「後衛は中央。崩れるな」


 淀みがない。

 無駄もない。


 慣れきった動きだった。


 各々が、指定された位置へ滑り込む。

 確認はない。


 それでも崩れない。


 この隊は、完成されている。


「お前は最後尾だ」


 バルガスがノアを見る。


「後ろの警戒。簡単な仕事だ」


「……分かりました」


 ノアは頷いた。

 疑問は持たない。


 言われた通りに動く。


 それでいい。

 それで――この隊は回る。


 行軍が始まる。


 足音を殺す。

 枝を踏まない。

 呼吸を抑える。


 森の奥へ。


 ゆっくりと、沈むように進む。


 やがて。


 音が来る。


 上空。

 羽音。


「来るぞ」


 小さな声。


 次の瞬間。


 影が滑空する。


 キラーコンバット。

 巨大なコウモリ。


 音もなく接近し、爪を振るう。


「迎え撃て」


 バルガスの声。


 同時に動く。


 前衛が受ける。

 中衛が斬る。

 後衛が支える。


 淀みがない。

 迷いもない。


 流れるような連携。


 次の瞬間。


 地面が裂ける。


 腐臭。


 リッチデッドウルフ。

 崩れた肉を引きずりながら、低く唸る。


「崩すな」


 短い指示。


 隊列は乱れない。


 受ける。

 削る。

 仕留める。


 静かに。

 確実に。


 戦闘は長く続かなかった。


 問題はない。

 むしろ――余裕がある。


 夜の森であっても。

 この隊は崩れない。


 だからこそ。


 成立する。


 バルガスは、わずかに手を上げた。


 ほんの小さな動き。


 だが。


 一人が気づく。

 次に繋がる。


 さらに後ろへ。


 光が走る。


 指先で弾いたような、小さな光。


 短く。

 長く。

 短く。


 規則的な点滅。


 声はない。


 だが、意味は共有されている。


 ――撤退。


 全員が理解している。

 全員が従う。


 静かに。

 自然に。


 後退を始める。


 音を立てない。

 気配を消す。


 森の中へ溶けるように。


 誰一人、振り返らない。

 誰一人、確認しない。


 必要がないからだ。


 最後尾は――切り捨てる。


 それだけのこと。


 ◇


 静かだった。


「……あれ?」


 ノアは前を見た。


 誰もいない。

 さっきまで、確かにあった気配が消えている。


「……はぐれた?」


 そう思った。


 置いていかれた、とは考えない。

 自分が遅れたのだと。


 それだけの認識。


 一歩、進む。


 足音が、やけに大きく感じる。


 いや。


 周囲が静かすぎる。


「……あれ?」


 もう一度。


 同じ言葉。


 返事はない。


 その時だった。


 上から影が落ちる。


 バサッ、と。


 キラーコンバット。

 鋭い爪が振り下ろされる。


「うわっ」


 反射的に身を引く。


 ギリギリで避ける。

 距離を取る。


 さらに。


 地面が軋む。


 腐臭。


 リッチデッドウルフ。


 低く唸りながら、間合いを詰めてくる。


「……うわ、最悪」


 思わず漏れる。


 囲まれている。

 助けは来ない。


 その状況を、ようやく理解する。


「……まずいかも」


 小さく呟く。


 だが。


 その直後だった。


 ノアの視線が、ふと逸れる。


 木。

 幹。

 枝の張り。

 葉の付き方。


 一歩、下がる。


 さらに視線を巡らせる。


 地面。

 草。

 湿り気。

 空気の流れ。

 音の抜け方。


「……あ」


 何かに気づく。


 そのまま、しゃがむ。


 手を伸ばす。

 草を摘む。

 指先で擦る。


「これ……」


 感触を確かめる。


 湿り。

 繊維。

 ほぐれ方。


 その間にも。


 上では羽音が回る。

 地上では唸り声が近づく。


 だが。


 ノアの意識は、そこに向いていなかった。


「……やっぱり」


 小さく呟く。


 ポケットに手を入れる。


 取り出したのは、白い綿。

 高級宿で使われていたもの。


 柔らかく、軽い。


「持ってきててよかった」


 ぽつりと漏らす。


 夜の森の中で。

 魔物に囲まれながら。


 その言葉だけが、静かに落ちた。


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