表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放されたベッドメイカー、寝床を整えただけでパーティが最強になってしまう  作者: わたぎきぬ
第一章 ノア、弱小パーティに拾われる
13/71

第12話 同条件での検証②

 同じ街道。

 同じ依頼。

 同じ流れ。


 それは、もう偶然ではなかった。


 一度きりの偏りでも、たまたま噛み合った結果でもない。

 少なくとも、青葉の剣の面々にはそう見えていた。


 早朝。

 まだ陽が低い。


 街道の入口。

 昨日とほとんど同じ位置に馬車が並び、

 商人たちが慌ただしく荷を確かめている。


「……また早ぇな」


 ケインが肩を回す。

 軽い調子の言葉。


 だが、その動きには僅かに残りがあった。


 ドルトは無言で装備を確認している。

 盾の縁。留め具。革紐。

 一つずつ、確かめる。

 手はいつも通り、正確だった。


 ルナが短く言う。

「条件は変わらない」


 ミナが小さく笑う。

「検証にはちょうどいいね」


 ハルトは一度だけ頷く。

「予定通り行く」


 それで十分だった。


 配置は昨日と同じ。

 役割も変えない。

 手順も崩さない。


 再現性の確認。

 それが、この日の目的だった。


 街道に出て、しばらく。


 空気が、先に動いた。


「来る」


 ハルトの声と同時。

 藪の奥から影が飛び出す。


 ジャッカルの群れ。

 数は多い。


 だが、それだけではない。


 後方。

 一体だけ、動きが違う。


 細く長い四肢。

 濁った光を帯びた目。

 低く、喉を震わせるような鳴き声。


 その声に応じて、群れが散開する。


「……メイジ個体」

 ルナが即座に言う。


「後ろが指揮してる」


「前、押さえる」


 ドルトが踏み込む。

 盾は立てない。角度を作る。

 受け、流し、押し返す。


 ケインは側面へ。

 滑るように回り込み、一体の脚を払う。


 ルナの詠唱は短い。

 ミナが間に入り、継ぎ目を消す。


 完成された連携。

 いつも通りの形。


 本来なら――ここで決まる。


 奥を落とす。

 ボスを潰す。


 最短。


「奥、行く」


 ハルトが踏み出す。

 一直線。


 メイジジャッカルへ。


 だが――


 群れが動いた。


 鳴き声。

 指示。


 前衛が、一瞬で厚くなる。


 塞がれたわけではない。

 ただ――進路が、わずかにずれる。


「……っ」


 ケインが一体を弾く。

 その、一瞬。


 後方。

 メイジジャッカルの口元に光が集まる。


「詠唱――」


 言い切る前に。


 魔法が放たれた。


 炸裂。

 地面が抉れる。


 直撃ではない。


 だが――


「チッ!」


 ドルトが一歩引く。


 防御が一手、増える。


 流れは切れない。

 だが、伸びる。


「問題なし」


 ハルトの声は変わらない。


 即座に立て直す。


 隊形を戻す。

 ケインが切り込む。

 ルナが封じる。

 ミナが繋ぐ。


 そして――


 ハルトの一閃。


 メイジジャッカルの首が落ちた。


 残った群れは散る。

 追撃はしない。

 必要がない。


 戦闘終了。


「……浅いな」


 ドルトが肩を回す。


「何が?」

 ケインが聞く。


「踏み込みだ」


 それ以上は言わない。


「一手、遅い」

 ルナが淡々と続ける。


「誤差だろ」


 ケインの軽さ。


「そう」


 ルナも追わない。


 ハルトは周囲を見る。


 負傷なし。

 精度も落ちていない。

 判断も狂っていない。


 ――だが。


 少し離れた場所。


 暁紅蓮隊。


「うお、今の見たか!?」

 ライガの声が響く。


「すげぇ楽なんだけど!」


「調子いいです」

 フィナが笑う。


「動作に無駄がない」

 ロイドが短く言う。


「当然でしょ」

 シエラが返す。


「いつも通りよ」


 ノアは藁束を軽く叩いた。


「いい感じですね」


 ハルトは一瞬だけ視線を向ける。


 そして――外した。


 その後も同様だった。


 接敵。

 処理。

 終了。


 すべてが正確。

 すべてが安定。


 青葉の剣は強い。

 乱れない。

 崩れない。


 だからこそ分かる。


 ほんの僅かなズレ。

 昨日から続く違和感。


 夕刻。


 任務は終了した。

 被害なし。

 問題なし。


 記録上は、完全な成功。


「……昨日と同じ条件だ」


 ハルトが口を開く。


「配置も、数も、流れも同じ」


 短い沈黙。


「精度は落ちていない」

 ドルト。


「理論上の誤差範囲」

 ルナ。


「じゃあ問題ねぇな」

 ケイン。


「そういうことになるね」

 ミナ。


 ハルトは一度だけ目を閉じる。

 そして開く。


「……連携の精度が高い」


 視線は向けない。


「無駄がない」


 一拍。


「良いチームだな、ライガ」


「だろ?」

 ライガが笑う。


「ま、昇格はお前たちの方が早かったしな」


「いやいや――」


 その軽口を拾わず。


 ハルトは一歩だけ距離を詰める。


 声を落とす。


「……妙な話を聞いたら、深追いするな」


 ライガの動きが止まる。


「は?」


 視線は合わせないまま。


「この街道、最近“変な依頼”が混じってる」


 一拍。


「正規の紙に乗らないやつだ」


 断定はしない。

 説明もしない。


 それで足りる。


 ロイドの眉がわずかに動く。

 シエラが目を細める。

 フィナが考えるように顔を上げる。


「……関わると面倒なやつ、ってことだろ」

 ケインが低く言う。


「“外で稼いでる連中”ってやつだね」

 ミナが続ける。


 ルナは何も言わない。

 ただ、一度だけ紅蓮隊を見る。


 ドルトも同じだった。


「気にしすぎるな。ただ――」


 逡巡。


「アイアンループ。選ぶ依頼は、よく見ろ」


 それで終わり。


 具体的な意味は出ない。

 だが、線だけははっきりしている。


「なんだよ、それ……」

 ライガが顔をしかめる。


「忠告だ」


 短く、終わる。


 空気が少しだけ重くなる。


 その中で。


「……正規じゃない依頼」

 ノアが呟く。


「ギルド通さないってことですよね」


「まぁ、そういうことだろうな」

 ロイド。


「……危ないんですか?」

 フィナ。


「危ないから表に出てないのよ」

 シエラ。


 それが答えだった。


 ノアは少し考え。

 藁束を軽く叩く。


「……寝床、ちゃんと作れなさそうですね」


「そこ!?」

 ライガが声を上げる。


「いや、大事ですよ」

 ノアは真顔だった。


「変な場所だと、ちゃんと寝れないので」


 一瞬だけ、空気が緩む。


 だが――消えない。


 夕暮れの街道。

 長く伸びる影。

 軋む馬車の音。


 青葉の剣は前へ進む。


 振り返らない。

 引きずらない。


 知っているからこそ、距離を取る。


 その背を見送りながら。


 紅蓮隊の側には、言葉だけが残る。


 ――アイアンループ。


 それは敵ではない。

 だが、触れていいものでもない。


 形を持たないまま。


 違和感だけが、静かに積み上がっていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ