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追放されたベッドメイカー、寝床を整えただけでパーティが最強になってしまう  作者: わたぎきぬ
第一章 ノア、弱小パーティに拾われる
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第10話 レベルアップしてる?

 ギルドの掲示板の前が、いつもより騒がしかった。


 朝の依頼更新の時間。

 普段なら、目当ての紙を確認して散るだけの場所。


 だが今日は、違う。


 妙な人だかり。

 流れが止まり、視線が一点に集まっている。


「おい、見たか?」

「……あぁ」


 視線の先。


 一枚の通知。


 そこに書かれた文字は、あまりにも分かりやすかった。


 暁紅蓮隊――Dランク昇格。



「は? もうD?」

「早すぎるだろ……」

「ついこの前までEじゃなかったか?」


 ざわめきが広がる。


 感心と、戸惑い。


 そして――


「いや、Eの時も運だったろ」

「今回も依頼が軽かっただけじゃねぇの?」

「査定、甘くないか?」


 混じる、懐疑。


 露骨な悪意ではない。

 だが、引っかかる。


「俺らなんてまだFだぞ……」

「E上がるのにどんだけかかると思ってんだよ」

「負傷率もあるしな……あんな無傷で回してるのがそもそもおかしい」


 現実を知っている声。


 だからこそ、重い。


「……普通、どっかで崩れるだろ」


 ぽつりと落ちた一言に、誰も反論しなかった。


「……なんか、出来すぎてるんだよな」


 その違和感だけが、場に残る。



「……本当、ですか?」


 フィナが掲示板を見上げる。


「マジだろ!」

 ライガが笑う。


「Dだぞ、D!」


 ロイドが腕を組む。


「昇格基準に照らせば、妥当だ」


「自分で言う!?」

「事実の確認だ」


 シエラは、周囲の空気を読む。


「……でも、納得してない人が多いわね」


 視線が集まっている。

 好奇心。

 値踏み。

 測るような目。


 ノアは、その横で首を傾げていた。


「Dって、そんなに大変なんですか?」


「普通はな!」

 ライガが即答する。


「そんなポンポン上がるもんじゃねぇんだよ!」


「へぇ……」


 本気で分かっていない顔だった。



「――昇格は、規定に基づいています」


 静かな声が差し込む。


 ざわめきが止まる。


 ミリアだった。


 書類を見ながら、淡々と告げる。


「達成率、成功率、負傷率」

「すべて基準値を上回っています」


 ページをめくる音。


「……以上です」


 簡潔。


 余計な感情はない。


 だが――それで終わらせない。


「C・Dランク以降はノルマが発生します」


 空気が変わる。


「一定期間、結果を維持できなければ降格」

「評価は継続して行われます」


 ここで、初めて顔を上げる。


 視線が、真っ直ぐに刺さる。


「運で維持できる領域ではありません」



 言葉が落ちる。


 ざわめきが、ゆっくりと引いていく。


「……なら、問題ないってことか」

「まぁ……規定通りならな」


 納得ではない。

 理解でもない。


 ただ、反論の余地が消えただけ。


 そして――


「でもよ」

「なんであんなに安定してるんだ?」


 疑いは消えた。


 だが、疑問は残る。

 むしろ、輪郭を持って強くなる。


「……同じ依頼でも、俺らなら絶対どっかで崩れるぞ」

「だよな。疲れも出るし、判断も鈍るし」

「なのにあいつら、ずっと同じ調子だろ?」


 一拍。


「気持ち悪いくらいにな」


 誰かが苦笑する。


 否定する声は、出なかった。



「いやー、でもすげぇよな!」


 ライガが笑う。


「Dだぞ!」


「嬉しいです」

 フィナが頷く。


 ロイドが言う。


「……運ではない」


「でも理由は説明できないわね」

 シエラが続ける。


「再現性が曖昧」


「調子いいだけ、って感じでもないしな」


「……はい」

 フィナが少し考える。


「自然に動けてる感じがします」


「それだな!」

 ライガが頷く。


「なんか、無理してねぇんだよな!」


「……無理をしていないのに、結果が出ている」

 ロイドが呟く。


「効率が良い、とも言えるが……説明がつかない」


 シエラが小さく息を吐く。


「気持ち悪いわね」


「言うなよ!」


 軽口の裏に、引っかかりが残る。



 その横で。


 ノアは会話に加わるでもなく――


 ごそごそと、ポケットに手を入れていた。


 指先で何かをつまむ。


「んー」


 小さく首を傾げる。


「これ、何の植物だろ」


「……は?」

 ライガが振り返る。


 ノアの指に挟まれていたのは、わずかな繊維。


 白く、細く、軽い。


 高級宿のベッドから、こっそり抜き取った中綿だった。


「お前、何してんの?」

「いや、ちょっと気になって」


「気になるなよ!」


「いい匂いしたので」


「だからって持ってくんな!」


 ロイドが眉をひそめる。


「……後で戻しておけ」


「え、ダメなんですか?」


「ダメに決まってるでしょ」

 シエラが呆れる。


 フィナが苦笑する。


「……すみません」


 ノアは素直に頷いた。


 だが、その指はまだ止まっていない。


 繊維を指先でほぐす。

 軽く引く。

 空気の含み方を確かめる。


「……柔らかいだけじゃない」


 ぼそりと呟く。


「え?」

「何が?」


 誰も拾わない。


 ノアはもう一度だけ、目を細めた。


 軽い。

 均一。

 だが――


「……ちょっと、詰まりすぎてるかも」


 その違和感の正体を、まだ言葉にできないまま。


 指先の感触だけが、確かに残った。


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