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追放されたベッドメイカー、寝床を整えただけでパーティが最強になってしまう  作者: わたぎきぬ
第一章 ノア、弱小パーティに拾われる
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第9話 高級宿屋のふかふか

 ギルドの受付に、見慣れない金額が並んでいた。


「……特別報酬」


 ミリアが小さく呟く。


 商会からの追加支払い。

 理由は簡潔だった。


 ――安心して眠れた。


 それだけ。


 規定に照らし合わせる。

 問題はない。任意支払い。


「……半分は、暁紅蓮隊へ」


 事務的に仕分ける。


 だが、手がほんの一瞬だけ止まった。


(……やっぱり、そこなのね)


 視線が、報告書の一文をなぞる。


 “睡眠により、体調が著しく改善”


 冒険者の報告書にしては、異質な言葉。


 討伐でも、戦闘でもない。

 “寝た”という結果だけが、強調されている。


(……ズレてる)


 だが――そのズレが、結果に繋がっている。



「はぁ!?」


 ライガの声がギルドに響いた。


「これマジかよ!?」


「……間違いありません」

 ミリアが淡々と答える。


 提示された金額に、ロイドが眉をひそめた。


「自分たちの働きに対しては、過剰な額だ」


「でも……嬉しいですね」

 フィナが微笑む。


 シエラは腕を組んだまま書状を見ている。


「……評価基準が気に入らないけど」


「いいじゃねぇか!」

 ライガが笑う。


「これで――行けるぞ!」


「えっ、本当に……?」


「夢だったんだよ!」


 ライガが拳を握る。


「ふかふかのベッド! うまい飯! 最高の風呂!」


 ロイドが顎に手を当てる。


「……出来れば装備に回したいんだが」


「はぁ!?」

「今それ言う!?」


「合理的判断だ。生存率は装備で上がる」


 シエラが横から言う。


「……いい肉、食べれるかもしれないわよ」


 一瞬。


 ロイドが止まる。


「……高品質なタンパク質か」


「そこかよ!」


「回復効率の向上が見込める」


 フィナが笑う。


「ふふ、ロイドさんらしいです」


「……では今回は例外とする」


「だからその許可なんなんだよ!」


 ノアは藁束を背負ったまま、ぽつりと呟く。


「……ふかふか」


 その一言だけが、妙に静かに落ちた。



 石畳の通りの先。


 目的の宿は、明らかに格が違った。


 重厚な扉。

 整えられた外観。

 出入りする客の雰囲気も違う。


「……マジかよ」


 ライガが足を止める。


「入るぞ!」


 勢いのまま、扉をくぐる。


 空気が変わる。


 広いラウンジ。

 落ち着いた照明。

 静かな会話。


「……すげぇ」


 自然と声が小さくなる。


 その時。


「あ」


 シエラが視線を止めた。


 ラウンジの一角。


 そこにいたのは――


「……アルファ」


 ライガも気づく。


 一瞬の間。


「行くか」


 軽く言う。


 だが――


 レオンが、軽く手を上げて制した。


 それだけで十分だった。


 歩みが止まる。


 視線だけが向く。


 そして――


 レオンは、ノアを見る。


「久しぶり」


 短く。


「元気そうでよかった」


 ノアは少しだけ目を細める。


「……そっちこそ」


 それで終わり。


 フィナが一歩前に出る。


「失礼します」


 一礼する。


 ノアの袖を軽く引く。


「行きましょう」


「……うん」


 そのまま、紅蓮隊は階段へ向かう。


 上階へ。


 視線だけが、背中を追った。



「……なんでアイツらが」


 ガレスが鼻で笑う。


「場違いね」


 リリアが冷たく言う。


「……変わってない」


 エマが小さく呟く。


 レオンは何も言わない。


 ただ、グラスを傾ける。


 その動きに、わずかな間があった。


 既に彼らは、この街に長く留まる立場ではない。


 攻略地点手前。

 前線に拠点を構えることを許された存在。


 選ばれた者たち。


 それが、チーム・アルファだった。


 ――だからこそ。


 振り返る理由は、本来ない。



 部屋の扉が開く。


「――うわ」


 ライガの声が漏れる。


 広い。

 整っている。

 空気が違う。


 そして――


「ベッド……」


 フィナが近づく。


 そっと触れる。


「柔らかい……」


「うおおお!!」


 ライガが飛び込む。


「やっべぇ!!」


 沈む。

 包まれる。


「これやばいぞ!!」


 ロイドも静かに横になる。


 一瞬、目を閉じる。


「……確かに良い」


 フィナも横になる。


「……安心します」


 シエラは少し遅れて腰を下ろす。


「……悪くない」


 そのまま横になる。


 しばらく、誰も動かない。


 沈黙。


 だが、それは“落ちる”沈黙ではない。

 ただ、静かなだけの時間。



 食堂。


「うまそ……」


「……うっま!!」


 ライガが声を上げる。


 フィナが微笑み、ロイドが頷く。


 料理は確かに一級だった。


 香りも、味も、文句はない。


 だが――


 どこか、引っかからない。


 満足しているのに、満たされない。



 紅蓮隊の部屋。


「最高だったな!」


 ライガが笑う。


 ベッドに倒れ込む。


 沈む。


 だが――


「……でもなんか、違うな」


 天井を見たまま、ぽつりと言う。


「……ふかふかでしたけど」

 フィナが首を傾げる。


「だよなぁ……」

 ロイドが言う。


「……回復効率が落ちている気がする」


 シエラがベッドを押す。


「……悪くない。でも」


 言葉を切る。


 沈む。

 柔らかい。

 だが、支えがない。


 体が、落ち着かない。


 ノアは背中を軽く触る。


 少し考えて――


「……ちょっと、惜しい」


 誰も、その意味を聞かなかった。


 ただ。


 その夜。


 眠りは、浅かった。


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