プロローグ
鬱蒼と茂る森の中。
まるで、御伽話のような、そんな森。
しかし何処かから覗かれているかのような、
そんな深淵を思わせる童話みたいに深い蒼。
「きみは、初めまして...かな?」
ふわっとうっすら、本当にうっすらと金木犀の香りが鼻をかすめる。
気のせいかと思わせるくらいで、言われなきゃ気づかないくらいの、ほんの一瞬。
だけど風の噂で聞いたことがある。カミサマって金木犀の香りがするらしい。
「あれ、おかしいな...
耳、聞こえない子なのかな」
目の前で手をフリフリしている。
「!!」
はっと我に帰った。
あまりにも夢の中にいるような、そんなお日様の暖かさに
つい、うとうとしてしまっていたのだ。
……?お日様の…暖かさ…?
ありえない、ここは森淵。
深淵のように暗い森だから、そう呼ばれている。
お日様なんて、ましてや光が差す事すらないはず。
一度深呼吸して落ち着こう。
「カミサマ、ですか?」
向こうはきょとんとした顔の後、ふふっと小さく笑顔を作ってこう言った。
「まぁ、そんなとこかな」
よかったーと言いながら、私の頬の汚れを指でゴシゴシと拭く。怪我が無いかも確認しているようだった。
まるで会話は成立していないが一応事の流れは成り立っているらしい。
「カミサマって案外、お日様みたいで
……少し変なのね」
―――これは私の中の1番古い記憶。




