土方鈴―2
土方鈴視点の話に戻ります。
自分の目の前のジャンヌ・ダヴ―が、そんなことを考えている一方、土方鈴は少しズレたことを思い起こさざるを得なかった。
私は最初の人生の記憶、更には異世界での記憶から、本来の故郷の会津を未だに恋しく想っている。
だからこそ、会津味噌や会津野菜、更には他にも色々と会津の産物に惹かれてしまう。
例えば、干し柿だ。
私にとって、最上の干し柿といえば、会津身不知で作られた干し柿だ。
勿論、それ以外の渋柿から作られた干し柿を認めない訳では無いが、会津身不知が最上なのだ。
そんな感じで、会津の産物こそが、最上という想いが抜けない。
だが、ジャンヌは、そうではないようだ。
本来の故郷のプロヴァンス地方、マルセイユを捨て去りたいという想いが垣間見える。
何故に本来の故郷を捨て去りたいのだろうか。
そういった想い、考えが浮かんだことから、私、鈴は以前にジャンヌに訊ねた。
「答えたくないのならば、答えなくて良いけど、貴方はマルセイユで生まれ育ったのよね」
ジャンヌは無言で肯いた。
「それならば、何故にブイヤベースを、貴方は作らないのかしら」
私、鈴にしてみれば、どうにも謎でならず、ジャンヌに敢えて問い質すことになった。
ブイヤベース、マルセイユというか、プロヴァンス地方の明らかな名物料理だ。
そして、ジャンヌは、「マルセイユのサキュバス、ジャンヌ」という異名を持つ程の存在だ。
だから、ブイヤベースに、ジャンヌは思い入れがあって当然だが、ジャンヌにそんな気配は皆無だ。
だからこそ、却ってどうにも不思議でならず、私はジャンヌに問い質すことになった。
それに対するジャンヌの答えだが。
「私は故郷のプロヴァンス地方というか、マルセイユに良い想い出が無いのです。だから、捨て去ることにした次第です。更に言えば、私が生んだ子達も、マルセイユと縁が薄かった。そうしたことからすれば、当然のことでは」
挑発していると言えば、挑発しているとしか、言いようが無い口振りで、ジャンヌは私に対して口答えをしてきた。
流石の私も、いわゆるカチンと来る事態で、私なりの伝手を駆使して、ジャンヌの想いを探ることになったのだが、その調べた結果について、私は唸らざるを得なかった。
ジャンヌは、自ら言っていることだが、本当に幼少時について、良い想い出が無かったのだ。
それこそ10歳前後で、両親に加えて長兄以外の兄弟姉妹全てを失い、更に第一次世界大戦勃発に伴い、長兄まで戦死したことから、ジャンヌは街娼になったのだ。
更に言えば、10歳前後で長兄以外の家族を失い、更には街娼として働かざるを得ない以上、料理を始めとする家事等、自らが学んで覚える等、極めて困難としか、言いようが無い状況に陥ったのだ。
そんなこんなのことから、ジャンヌと、彼では無かった野村雄とが結ばれた世界では、ジャンヌは自らの親族等がいない状況に陥っていたのだ。
更に言えば、最愛の男性、雄の子どもらが自らの最も濃い身内だったのだ。
そういったことが絡み合った末、自分達は悪戦苦闘した上で、野村雄が岸澪を始めとする彼女達に産ませた子について、それなり以上の処遇を受けることが出来るように、ジャンヌはしたのだ。
とはいえ、それは仮初めの平和としか、言いようが無い。
そんなことから、最終的にだが、それなりの事態を迎えざるを得なかったのだ。
それを知った私は唸らざるを得なかった。
ジャンヌにしてみれば、故郷は親しみを持てる存在では無かったのだ。
勿論、それは結果論というか、後知恵の果てなのだが。
そうしたことも相まって、彼、野村雄に結果的に、ジャンヌがしがみつく事態が起きたのではないだろうか。
私は、そんなことを考えてしまった。
故郷についての想いは、本当に愛憎が相混じる複雑なモノに成るのが、良くあることではないでしょうか。
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