ジャンヌ・ダヴ――2
とはいえ、土方鈴が料理を作るのは、すぐの話にはならなった。
鈴が意外と拘ったからだ。
私を始めとする他の3人は、ポトフを作るのか、と考えたのだが、鈴は否定した。
「負ける試合はしないわよ」
鈴はそう言った。
確かにポトフは、鈴にしてみれば、余り馴染みが無く、作ったことがない料理だ。
鈴は実家のコネを使って、様々なモノを日本、それも会津から空輸で取り寄せた。
どうして、そこまで拘るの、という私達からの問いに対して、鈴は答えた。
「だって、私と彼、野村雄の故郷だもの。故郷の味で勝負しようとするのが当然でしょう」
とはいえ、彼はこの場にいないのだが、と私達の脳裏では疑問が渦巻いたが、鈴は自信満々だった。
そして、作り上げたのが、会津味噌を使い、伝統の会津野菜を具にした味噌汁だった。
その味噌汁を、結果的にサラも加わって、5人で食べることになったが。
「ちょっと味噌汁とポトフでは違い過ぎるから、塩加減がどうのと言われても」
と岸澪は口を濁した。
又、味噌味になれていないサラも、微妙な顔をした。
だが、前世や異世界で料亭の女将をしていて、味覚が優れている村山愛は一驚した。
「この味噌汁の塩加減、確かにあのポトフと同じような塩加減」
私も愛と同感だった。
確かに味噌味だから、細かに言えば違うのだが、長年に亘って彼と共に過ごして食べてきた料理の塩加減としか、言いようが無い。
「如何かしら。ジャンヌなら、分かるでしょう。夫婦として長年に亘って、同じモノを食べていると、同じ味付けを好むようになるのよ。どうにも折り合いがつかず、離婚理由になることもあるけど」
鈴は挑発するように言い、私は無言で肯くしか無かった。
鈴ではなかった、篠田りつと野村雄は幼馴染で、共に会津が故郷だ。
だから、故郷の味で、鈴は私に勝負を挑んだのだ。
そう私が考えていると、鈴は独り言を言った。
「本当なら、味噌は自作品で、この味噌汁を作りたかった。私が作った味噌を、あの異世界の中で、彼は最高の味噌だ、と褒めてくれた。いつも、あの異世界で亡くなるときの心残りの一つが、彼に味噌を作れなくなることだった。でも、ここは流石に風土が違うし、とても作れないから」
鈴は自分と彼との縁の深さを、私達に見せつけると言えば、見せつけているのだが。
それ以上に私には、彼と鈴の間柄について、羨まざるを得なかった。
そういえば、私が赴いたあの異世界で、彼は時折、遠くを見ていた。
その際に故郷の味を思い起こすことがあったのではないだろうか。
とはいえ、あの時代に故郷の会津のモノを新鮮なままで、フランスまで運べる訳がないし、自分から故郷を捨てた身だ、遠い異郷から偲ぶしかなかったのだろう。
だが、その一方で、私の心中では燃え盛るモノを感じざるを得なかった。
今度は正面から、彼女と戦って、彼を私の傍に居させよう。
彼女はズルいと言えばズルい手段を使った。
彼、野村雄が海兵隊士官ではなく、陸軍士官になった異世界に赴いたのだ。
それによって、私達3人を自然に排除し、一人で彼を独占することに成功したのだ。
そして、彼と結婚することになったのだが、皮肉なことに子ども全てに先立たれ、更には私達までが不幸な最期を迎えることになった。
彼女は、それが無念で異世界から、生きて戻ることになったのだ。
更に私が赴いた異世界では、岸澪が暴走したので、彼がフランスに居座ったという事情が加わる。
もし、この世界において、彼女と正面から戦った場合、幼馴染としての記憶もある彼女に、私は勝てるだろうか。
かなり難しい気がしてならないが、とはいえ、戦う前から負けを自認する訳には行かない。
あの時に私は、そう決意して戦うことにしたのだ。
話中で会津野菜が出てきますが、それなり以上の種類があって、味噌汁に合う野菜は何か、悩んだ末にぼかしたという裏事情があります。
どうか、緩く見て下さい。
更に言えば、味噌は令和の今でも地域により、好みがかなり分かれるようです。
それこそ幼いころから食べてきた味噌が至高という人が多いとか。
そうしたことから、鈴としては、彼の記憶の奥底にある会津味噌こそが、彼にとって至高という想いから、ジャンヌ達を挑発するような言動を採りました。
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