ジャンヌ・ダヴ――1
ジャンヌ・ダヴ―視点の話になります。
そんな考え、想いが、目の前の女性、土方鈴の脳内で渦巻いている等、詳細がジャンヌ・ダヴ―に分かる筈が無かったが。
ジャンヌ自身も、色々な考え、想いが、自らの脳内で渦巻かざるを得なかった。
ジャンヌは考えた。
50年余りに亘った、あの異世界生活の日々、更にその大半というより、殆どを彼、野村雄と私は共に過ごしたと言っても、決して過言ではない。
更に、その間に全部で12人の子を、アランを筆頭にして生して、良き父、良き母として、彼と私は過ごすことにもなったのだ。
そして、彼と共に過ごす日々が、少しでも幸せなように、私は努力し続けて、彼もそれを素直に喜んでくれる一方で、無理をするな、と却って諫められる程で、本当に幸せだったのだが。
50年余りに亘る異世界生活を終えて、元の世界に還った後で、私は思い知らされた。
彼、野村雄の傍に、実は目の前の女性、土方鈴の前世、篠田りつが居た異世界もあったことを。
最初は些細と言えば、些細な出来事からだった。
それこそ私、村山愛、土方鈴、岸澪、更に彼の5人全員の前世の記憶が蘇った直後、大騒動を引き起こしてしまったことから、彼は日本海兵隊に入って、国外での平和維持活動等に従事する一方、彼以外の私を含む4人は、フランスに留学して大騒動のほとぼりを冷ましたのだ。
その留学生活の中で、ヴェルダンの宿から始まった50年余りの異世界生活の日々があったのだが。
その日々は、想わぬところにまで影響を引き起こした。
それが何かというと、料理の味付けだった。
私は、異世界から戻って来た直後といってよい頃、この世界で久々にポトフを作ったのだ。
自慢する訳では無いが、私はポトフが最初の人生の頃から好きで、得意料理の一つだった。
更に言えば、ややこしい表現になるが、最初の人生での私の孫にして、生まれ変わって来た私の祖母になるサラに対して、私が生まれ変わりなのを納得させたのも、私のポトフの味だった。
サラは、私の作ったポトフの味が、自分の記憶にある祖母の味と一致したことから、私を生まれ変わりだと確信することになったのだ。
だが、この時のポトフの味だが。
まず、サラが首を捻った。
「ジャンヌ、塩味がきつくなっていないかい」
「えっ」
自分は全く意識していなかった。
更に他の2人、澪や愛までが言い出した。
「異世界で50年余り過ごしたせいかもしれないけれど、塩味がきつくなっている気がする」
その一方、鈴が涙を零しながら、言い出した。
「この塩加減、あの異世界で彼が、野村雄が好んだ塩加減。何で貴方が作れるの」
「「「えっ」」」
その言葉を聞いた私、澪、愛が揃って驚愕の余りに絶句した。
「ちょっと待って、鈴だけが、違う異世界に行っていたよね。それなのに何でそうなるの」
その場に居る全員が暫く沈黙した後、澪が切り出した。
だが、他の3人には、何となく察するモノがあった。
その答え合わせをするかのように、鈴が言い出した。
「嘘だと思うの」
澪は、無言で肯いた。
どうのこうの言っても、澪には自分こそ正妻だ、という想いがある。
最初の大騒動、前世の記憶が蘇った際に引き起こした大騒動の直後、この場に居る4人全員は、私の主張から、前世のことは基本的に持ち出さずに、彼、野村雄と改めて結ばれようとすること、という協定を全員で締結した。
そうしないと、澪が圧倒的有利なのが自明だからだ。
とはいえ、澪にしてみれば不本意極まりないことだ。
だから、他の3人が、彼、野村雄のことは、自分の方がよく分かっている、という態度を執ると必要以上に突っかかるようなことになる。
「そうね。私も料理を作るわ。その料理を味わえば納得するでしょう」
鈴は澪に対して、言い放った。
50年余りも最愛の人と寄り添って、共に食事を食べていれば、何時かお互いの好みの味、この話で言えば塩加減が寄り添うのも当然では。
この話の中では、ジャンヌも鈴もお互いに異世界の中で最愛の人である野村雄と寄り添って、50年余りを過ごしたことから、最愛の人の好む料理の味、塩加減を共に把握して、作れるようになったのです。
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