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食費が増える…


あれからテレビを見ながら寝てしまった俺に母は「部屋に戻りなさい!」と叱りつけた。全く、仕事終わりくらいダラダラさせてほしいもんだ。


――――

俺は毎朝起きると、鍛錬をする事が日課になっている。鍛錬と言っても今は師匠もいないし、身体の動きを確認する程度だ。


というか、俺が本気で鍛錬すると、えらいこっちゃな惨状になってしまう。具体的に言うと、地面が畑かと思うほど掘り返される。


庭に出て、手に入れたばかりのガントレットを装着する。ずしりとした重量感が心地よい。魔力を込めると更に重くなるが、今は慣らし程度に軽く振り回してみる。


「うん、いい感じだ。」


感覚を確かめながら、師匠に教わった格闘術を確認していく。特殊な呼吸法、鎧通しの技法、震脚の動作。ちなみにこの格闘術に名前はないそうだ。何でも今世の格闘技の基礎を集めただけの、ただの技術だかららしい。


この世界の武術は魔法や異能と組み合わせることを前提に発達しているため、前世では考えられないような技術が当たり前に存在する。素手で硬い魔物でも攻撃が通せる技術があるし、震脚がまじで地面を粉砕する。


だが、無機物系や植物系の魔物となると話は別だ。体の構造や急所の位置が違いすぎて、使える技術は限られてしまう。


そんな時は結局、ただ殴る蹴るの力技に頼ることになる。技術より筋力と魔力で押し切るスタイルだ。


一通り身体を動かしたあとシャワーを浴びて、母が作ってくれた朝食をとる。今日のメニューは日本の朝食セットだった。


「毎朝毎朝飽きずによくやるね。休みの日くらいゆっくりしてもいいんじゃないの?まったく、マグロみたいな子だよ。」


「母さん、昨日から海鮮の話ばっかりだ。いい加減にしとかねぇと生臭くなっちまう。あと、できる時にやっとかねぇと、いざって時に動けねぇんだ。それに休日じゃねぇよ。朝から支部に呼ばれてるんだ。」


「こんな時間に?アビス行きの時はもっと早く出るじゃない。あんた、またなんかやらかしたの?アタシは心配だよ。」


「……ちがうよ。副支部長が俺に仲間を付けたがってんだよ。」


「いいじゃない!新しい仲間、新しい出会い、アタシまでワクワクしてきたよ!今度連れてきなさい、たくさん食べさせてあげんだからね!」


「まだ決まったわけじゃねぇっつうのに、気が早いよ。」


俺の仕事の仲間を想像して、興奮する母に辟易しながら俺は支度を整え、支部に向かった。



――――

「1番星ちゃん、こっちよ!」


エリーゼ姐さんの声に俺は慌てて駆け寄る。


「姐さんすんません、遅れたみたいだ。」


「いいえ、いいところに来たわね。アレクト・倉田さん。昨日話した、とっておきの人材よォ。」


姐さんに紹介された人物を見て、俺は少し驚いた。

長い銀髪に青い瞳、整った顔立ちの美女だった。俺と同じくらいだろうか。よく見ると耳が少し尖っているのが分かる。エルフか、それとも混血だろうか。


どこか冷たい印象を受ける表情をしているが、俺が何より興味を持ったのは、その目だった。静かな青い瞳だが、奥底で何かが燃えているような、そんな目をしていた。


「アレクト・倉田です。よろしくお願いします。レクトとお呼びください。」


礼儀正しく頭を下げる彼女に、俺も慌てて頭を下げる。


「一野星和です。よろしく。えーっと…」


俺は姐さんの方を見る。正直、チームを組むことにまだ抵抗があった。過去の経験もあるし、何よりこんな少女が俺のペースについてこれるとは思えなかった。俺も他人の事は言えねぇがな。


「レ・ク・ト。いいじゃない、呼んであげれば。本人も望んでるみたいだし。」


姐さんは俺の困惑をよそにそんな事を言ってくる。


「レクトさんですね。で、姐さん。こんな女の子を俺に連れ回せって言うのか?魔境で何かあっても、俺は責任取れないぞ。」


「あらァ、命の危険があるのにいかがわしい事するつもり?…………わかったわよ。でもあなどっちゃいけないわ。とにかく、応接室を空けてるから、移動しましょう。」


俺がキツく睨んでいることに気付いた姐さんは戯言をやめて、有無を言わさぬ口調で言い切ると、俺たちを奥の応接室に案内した。


「1番星ちゃんの情報は資料を見せて説明してあるわ。アレクトちゃんは去年この町に越してきて、今年の春に高等魔法学校を卒業したばかりなの。F級の新人シーカーよ。でも在学中の成績がとても優秀だったから、アタシが直々にスカウトしたのよ。」


「母の再婚で1年前にここに来ました。見ての通り、エルフです。エルフですので、魔力操作と魔力感知には自身があります。本当は魔力量も自身を持ってたんですが、アナタには負けますね。」


アレクトが少し笑いながら紹介を付け足した。


「卒業から少し時間が立ってますが、どのくらいの実戦経験を?」


今はもう夏だ。俺の前世の面接ばりにめんどくさい質問に、アレクトが答える。


「実戦経験はほとんどありません。学校での模擬戦と、実習で初級に数回入った程度です。空白期間は一度帰国していました。」


「姐さん、まじで俺と組ませるのか?結構、過酷で危険だぞ。潰れちまうよ。」


「彼女は優秀よ。学校での評価は最上位クラスなんだから。足手まといにはならないわよ。」


俺はその言葉を聞き、とりあえず能力を聞いてみる。


「話を止めてすまない。レクトさんは何が得意なんですか?」


俺が尋ねると、アレクトは少し考えるような仕草を見せてから答えた。


「基本後衛です。状況によっては強化魔法で近接もしますが、自衛レベルです。魔法での攻撃と結界の異能でのサポートが得意です。」


「攻撃魔法…」


俺は思わずつぶやく。確かに俺の弱点を補ってくれそうだ。


「一野さんは、物理が通りにくい相手には苦戦すると聞いています。私なら、そういった相手にも対応できます。」


アレクトの言葉に、俺は少しムッとする。


「別に負けてませんよ。今まで倒せなかった魔物はいません。」


「でも、効率は悪いでしょう?苦手な相手に、無理やり殴りかかっていては。」


「…まあ、それは。」


確かにスライム系やレイス系の魔物と戦うのは苦手だ。魔力を纏わせた拳で無理やり倒していたが、効率が良いとは言えない。今まで無かったが、群れで来られたり奇襲を受ければ、良くて撤退悪ければ死だ。


「それに、一野さんの切り札である隕石攻撃。使った後は動けなくなるんですよね?」


アレクトは俺の弱点の一つを口にする。


「…そのとおりです。」


「だったら、その間の護衛が必要でしょう。私の結界なら、一野さんが回復するまで守り抜けます。」


アレクトの言葉には自信があった。だが、俺にはまだ懸念すべき部分があった。


「レクトさん、俺の出撃ペースについてこれますか?俺、結構無茶なスケジュールで動くんですが…」


「どの程度ですか?」


俺は正確に把握してないので姐さんを見る。


「月に20〜30回くらいよ。ハシゴして出撃した月は特に多いわ。途中で別チームが討滅に成功したりするから、全部が魔境主と戦ってるわけじゃないけど。」


アレクトの表情が一瞬変わった。驚いたというより、何か別の感情が顔をよぎったような顔だった。


「…それは確かに多いですね。でも、私は多くの魔物を倒したいと思っています。むしろ、そのペースの方が助かります。」


「倒したい、って…」


俺が言いかけた時、姐さんが手を叩いた。


「はい、話はそこまで。とりあえず明日、一緒に出撃してもらうわ。お互いのことは、実戦で確かめなさい。」


「えっ、もう決まってるんですか?」


「昨日の夜に確認されたアビスがあるわ。調査班の報告では初級。観測班からは脅威度は低いって話よ。魔物構成は猿の魔物が確認されてるわ。明日の朝一番で出撃よ。」


姐さんは俺たちに資料を手渡す。


「獣系か…」


俺は苦い思い出に少したじろぐ。アレクトの初戦ということもあって、不安が記憶を刺激したのかもしれない。


「馴らしにはちょうどいいと言う事ですね。」


アレクトが自信ありげに言う。


「…わかりました。とりあえず、一度一緒に行ってみましょう。」


俺は渋々同意した。正直、まだ完全に納得したわけではないが、姐さんがここまで推すなら、何か理由があるのだろう。


「よし、決まりね。アビスの情報は各自資料を読んでちょうだい。状況が変われば連絡するわ。詳しい打ち合わせは明日の朝、現地でしましょう。今日はお疲れ様。」


姐さんに解散を告げられ、俺たちは組合を出た。


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