食い放題でもとを取るのは難しい
――星和がアビスで牛を食っていた頃――
私、アレクト・倉田は副支部長から一枚の紙を渡されていた。
「これが一野星和のプロフィールよ。個人情報だから、持ち出し禁止ね。……アナタにはぜひ、この子と組んでほしいの。」
押田東吾。私が去年、母の再婚で越してきたこの町の探索者組合の副支部長だ。
もっとも彼は「エリーゼ」と名乗り、その名以外で呼ぶことを固く禁じている。
鍛え上げられた大男の体でウィンクしてくる仕草は、どうしても私の感覚では馴染まなかった。
「拝見します。」
「まぁ、かたーい。もっと気楽にしてちょうだい。疲れるでしょ?」
「では……そうするね、エリーゼさん。」
資料に目を落とすと、副支部長が驚いたように笑った。私は無視して読み進めた。
――――一野星和
人種:人
性別:男
年齢:18歳
等級:C級
異能:周囲を夜にする異能
魔力量:異常
魔法:基礎魔法レベル
主な役割:前衛アタッカー
活動期間:2年3ヶ月
備考:夜にする異能は範囲内索敵が可能。本人限定の再生能力あり。さらに隕石を落とすことが可能と確認済み。上級魔境の主を一撃で討滅した記録あり。
体内魔力の扱いに優れ、身体強化と保護の魔法を重ねることで極めて高い耐久と攻撃力を発揮する。
実績:上級魔境主討滅、年間最出撃数保持者
二つ名「星屑」
――――
「……え?これ、実在する人間?」
思わず声が漏れた。上級魔境主を一撃討滅?二年で?しかもC級?
冗談みたいな経歴が並んでいる。
「するわよぉ。今もアビスに潜ってるわ。」
「でも……魔力量が“異常”って?」
「測るたびにエラーなの。平均を出すどころじゃないのよ」
「なら、後衛で魔法を撃たせれば……」
「外の魔力に干渉するのが下手なのよ。そのせいで生活魔法も失敗するわ。けど体内魔力の扱いは天才的。だから前衛なの。」
私は唖然とした。
隕石を落とす規格外の力があるのに、生活魔法で失敗する?極端すぎる。
「でも、上級魔境を討滅したのに、C級止まり?」
「支部で認定できるのはそこまで。本部も“期間が短すぎる”って渋ってるの。あの子はシーカー歴まだ二年よ。それに……ソロなの。」
「ソロ……って、一人で?そんな馬鹿な。」
「C級の特権でね。任務拒否や専属ドライバーも許される。けど実際は、任務をかっさらって行っちゃうのよ。年間最多出撃数って書いてあるでしょ?二位の倍よ。」
私は言葉を失った。
怪物だ。力も行動も。
「……で、私が一緒に行く理由は?」
「物理が通りにくい魔物には無力に近いのよ。際限なく魔力を吸収してくる相手も不味いわ。スライムみたいな不定形もやばいわね。それと、切り札の隕石を使ったあとは行動不能になるのよ。もし相手を倒せてなかったら危ないでしょ?行動不能の彼を回収して帰ってくる人が必要よ。むしろこっちが本命かしらね。」
「むしろなんでソロなんか許可したの?」
「最初はパートナーも付けたのよ。でも置いていかれる、振り回される、回収も間に合わない……そんなのが続いて、皆が音を上げちゃったの。仕方なく“ソロ扱い”にしただけ。ほんと困ったちゃんだわ。」
「私なら、彼に付いていけると?」
「そう願っているわ。でもアナタならアビスに行くのを断らないでしょ?魔物、殺したいものね。」
「……うん。」
胸の奥に眠っていた炎が、じわりと熱を帯びる。
「わかったわ。彼に会ってみる。」
エリーゼは満足そうに笑って言った。
「そう言ってもらえると思ってたわ。今日はもう帰っていいわよ。」
そう言ってエリーゼは部屋から出ていく。
私は再び資料に目を落とし、別紙を見て小さくつぶやいた。
「……大食い大会優勝って、誰がこんなこと書いたの……もはや何でもありじゃない。」
誰も答えてはくれなかった。




