エリーゼのために…?
「今日はあたりだったなぁ。」
軽トラサイズの化けカニでも、味はやっぱりカニ……というより巨大なエビに近かった。
身は繊維が太くて噛みごたえがあるが、しっかり甘みがあった。問題はミソだ。甲羅いっぱいに詰まったそれは、濃厚を通り越して内臓の暴力。チーズとレバーを混ぜて煮詰めたような重さで、好き嫌いが分かれるだろう。殻が分厚いおかげで、そのまま鍋代わりに使えたのは助かった。魔物素材って、食っても調理器具にしても便利だな。
カニ鍋をじっくり堪能した俺は、アビス帰りに「組合」に報告に向かう。カニと戯れた後なので凄まじい臭いが周囲の人間を遠ざけるが、皆いつもの事と苦情を言うものはいない。それもそのはずで、過去ラフレシア型の魔物が出現した時はもっと大変だった。まさに歩く悪臭だったからな。
「ちわーっす。」
適当な挨拶をしながら葉灘地区を管理する「組合」に入る。正式には日本軍魔境対策局探索者組合葉灘支部だ。単に「組合」とか「支部」で通じるからみんな使わないけど。
「第一隊所属、一野星和帰投しました!」
第一隊は魔境の討滅を主眼に置く部隊だ。第二は巡回と防衛、第三は支援である。
綺麗とはいかないが、整えられた組合の報告窓口に俺の声が響く。
「あらぁ、アタシの一番星ちゃん。帰投報告ご苦労様。」
そう言って奥から、オカマ……ゲフンゲフン……ネエサンが出てくる。33歳の立派な乙男だ。名はエリーゼと言う。その名以外で呼ぶと、謎の怪力で殴り飛ばされ、壁に埋まることになる。姐さんが許容範囲内だ。ここの管理を一手に担う、副支部長だ。一番星は俺のあだ名だ。
「観測班からの報告も来てるし、事後処理もはじまってるわぁ。後は調査班に任せていいから、アナタはゆっくり休んでちょうだい。」
両方第一部隊の班だ。観測班は支部の受け持つ範囲に発生したアビスを観測することを目的にした班、魔境収束の確認も担当する。調査班は発生したアビスに偵察に入る班、魔境収束後の残党処理も担当する。
「了解!……姐さん、シャワー室借りていいか?流石にこの状態で帰ると母さんが怒る。」
「そうね。そうした方が良いわ。この後少し話があるから、ここに寄ってちょうだいね。」
「わかった。」
組合には一通り生活できる設備が整っている。俺のように悪臭を漂わせる者や、深夜に帰投するものがいるため、シャワー室や仮眠室、食堂もある。
流石に湯船はないが、下手したら一般家庭の風呂より質がいいシャワー室を出ると、姐さんはホールのソファで待っていた。
「さっぱりしたわね。そこに座ってちょうだい。」
「それで、姐さん。俺に話って何だ?最近は何も問題起こしちゃいないぞ。」
俺は内心恐々としながら尋ねる。俺は過去、いろいろ問題を起して姐さんにさんざん迷惑をかけた。この前は支部内焼肉のタレブーム事件だった。こうやって話していると少し物怖じした気持ちになる。
「いやねぇ。アタシが話すと説教だと思ってるのかしら。そろそろ仲間を迎え入れるべきって話をしようと思ってたのよ。…………あら?これも説教かしら。」
「…………けど姐さん、俺の任務についてこれる奴なんていねぇだろ?別に俺は一人でなんとかなるし、隊のサポートだってある。必要ねぇだろ。」
「それは、これまではって話よ。確かにアナタはとても強いシーカーよ。異能、魔力量、攻撃力、本部のシーカーと比べても上澄みと言っていいレベルだわ。でも攻撃魔法の腕だけみたら下も下じゃない。」
本部は支部とは桁違いに優秀なシーカーが集められている。各地の支部で対応できないアビスに派遣し、対処している。
「だから、物理が通りにくい魔物がいるアビスには行ってねぇじゃないか。俺だって弱点はわかってる。」
「いいえ、わかってないわ。うちの調査班と観測班は優秀よ。アビス発生の感知は早いし、規模の測定もほとんどズレないし、内部の魔物構成もある程度調べてくれる。だけどね、何事にもイレギュラーが出るものよ。今回だってもう少し発見が遅れていたら大事だったわ。だからもし、調査しきれてないレイスやスライムがいて、奇襲されたら?魔境主が予想と違って、逃げ切れない状況になったら?それとアナタの異能の問題もあるわ。」
そう、俺の異能には問題がある。1つしかないはずの異能が、俺にはぜか2つあった。周囲を夜にする異能と再生の異能だ。これは両親、副支部長、支部長しか知らない事実だ。周囲には夜の異能しか公開していない。再生は月のヒーリング効果とかなんとか言って誤魔化している。
問題だが、俺は夜の異能を使って星を降らせることができる。当然だがそんな埒外な力を使ったあとの俺は行動不能になるが。切り札の一つだ。
「それは……そうだけど、でも……。姐さんだって知ってるだろ?」
俺は過去チームで活動していたが、昇級するときに討滅したアビスでチームが壊滅し、チームを組むことに否定的になっていた。
「とっておきの人材がいるの。明日紹介するから、朝九時にここに来てちょうだい。」
そんな奴この支部にいたか?と思うが、俺が何か言う前に姐さんは仕事に戻ってしまった。




