ラスボスは中ボスを従えてるって?ゲームだけにしてくれよ
あれから何度か戦闘があった。どれも中級魔境主クラスだが、九条が加わったことで戦況は変わった。
盾役が増えた分、俺がアレクトのカバーに回る場面は減る。その分、殲滅に集中できる。悪くない配置だ。
角の生えた熊が突っ込んでくる。
体重は推定八百キロ。突進速度は時速六十キロ程度。魔力で強化された角は鉄板を砕けるだろう。
「右!」
九条の声と同時に、小盾が衝撃を受け止める。カコン、と意外なほど軽い金属音が響き、突進が止まる。
触れたエネルギーを無効化し、蓄積して反撃に使う。吸収と放出の異能だ。
「返すよー。」
九条が踏み込み、全身から白光がはじける。衝撃波の放出だ。
角熊の巨体が真横に吹っ飛ぶ。八百キロの肉塊が宙を舞う光景は壮観だった。
速ぇ。
俺は残った一頭に拳を叩き込む。体内の魔力を循環させ、筋繊維を強化。ガントレットが魔力を通し、拳にエアハンマーが具現化する。
ズドン!
拳が角熊の脇腹に食い込む。肋骨が砕け、内臓を潰す。即死だ。
……腹減ったな。
再生の異能は使ってない。それでも魔力消費で空腹感が増す。戦闘が続けば続くほど、胃袋が空になっていく。
次は炎を纏った狼の群れだった。
群れの規模は十二匹。炎のブレスを吐く中級魔物だ。連携して包囲してくる。
めんどくせぇな。
「ブレス来るわよ!」
アレクトが杖を振り上げ、結界を展開。三枚重ねの透明な壁が炎を受け止めた。
横から回り込んだ炎狼が九条に吐息を浴びせる。あの炎の温度は普通なら即死だ。
「はーい、吸っちゃうね。」
九条の体が一瞬だけ赤熱し、炎が霧散する。熱を丸ごと吸収したのだ。
次の瞬間、直線放出。掌から白光が一直線に奔り、群れを薙ぎ払った。
ドカン!
数匹がまとめて黒焦げになった。
「……えげつねぇな。」
「でしょ? でもまだ溜まってるから大丈夫ー!」
肩を回しながら笑う九条。この余裕が恐ろしい。
俺は残った炎狼に突っ込み、夜を展開して感覚を広げる。一匹、二匹、三匹と、拳と蹴りで潰す。最後の一匹は蹴り飛ばし、近くの木に叩きつける。炎狼は動かない。
「お疲れ様。連携、良くなってるわね。」
アレクトが杖を下ろした。息も乱れていない。
続けて、樹鬼。十メートル超の樹木の巨人だ。
巨腕が地面を叩き割る。
ドガァン!
直径三メートルのクレーター。動きは鈍いが威力は驚異的だな。
九条が盾を添えて余波を受け止め、衝撃を吸収する。白光が淡く揺れる。どれくらいかわからないが、溜め込んだ量は相当だろう。
俺は樹鬼の足元に回り込み、魔力をガントレットに集中し、爪に風を纏わせる。今度は切断属性だ。風で鋭く補強した爪を、露出した根元めがけて連打。
ズドドドド!
樹皮が削れ、核が露出した。
「レクト!」
「了解!」
炎弾が核を貫き、樹鬼が崩れ落ちる。地響きが森を震わせた。
奥に進むにつれて、魔物の群れは大きくなり、もはや戦っていない時のほうが少ない。
立て続けの戦闘で息が荒い。魔力消費で胃袋が空っぽになってきた。
アレクトの結界で1時休止する。こういう時に安全圏が作れるのも、アレクトの強みだ。
「……中級魔境主相当が連続して来てる。異常ね。」
アレクトが眉をひそめる。
「いやな予感しかしねぇな。」
その時、森の奥から地響き。
ドォン……ドォン……ドォン。
姿を現したのは巨象。
体高十五メートル。背に樹を生やし、牙は黒く光る。ただ立っているだけで空気が重い。
「……上級魔境主!」
アレクトの顔が青ざめる。
「おいおい、まだ残党も片付いてねぇのに……ここで出てくるとか狙ってんのか?」
巨象の咆哮。
グオオオオオ!
音じゃない。臓腑を揺さぶる圧。威嚇だけでこの威力だ。
「仕留めるぞ!」
俺は即断した。
残る中級を蹴散らして、巨象に道を通すしかない。
アレクトが大規模魔法で群れを焼き払い、九条は衝撃を周囲の魔物に叩きつける。轟音が森を揺らす。
「足止めは任せて! 吸った分、返すよー!」
白光の奔流が放たれ、角熊がまとめて吹っ飛び魔物の密度が下がる。
「よし、道を作る!」
俺は夜を広げる。群れの密度を読み、巨象の死角に回り込むルートへ。
邪魔になるのは炎狼が三。角熊が一。
魔力で身体強化し、筋繊維を極限まで引き絞る。最初の炎狼を殴り抜き、顎ごと首をへし折る。二匹目は蹴りで胸を潰し、三匹目は喉を掴んで地面に叩きつけた。ズガン、と一メートルの窪みができる。
残る角熊が牙を剥いて突進してきたが、アレクトの炎弾がひるませる。そこへ俺の拳が脇腹に突き刺さり、肋骨が砕けて沈む。
巨象が大地を割るように咆哮した。
「グオオオオオ――!」
耳じゃなく臓腑を揺さぶる圧だ。胃袋まで震えて吐き気が込み上げる。
前肢が振り下ろされる。ビルの柱を丸ごと倒すみたいな重さ。俺が息を呑むより早く、九条が小盾を突き出した。衝撃は丸ごと吸われて、盾に足が当たっただけの金属音が鳴る。
次の瞬間、九条の全身から白光が迸り、巨象の顔面を削り抜く直線の閃光となった。皮膚が裂け、牙が欠け、血煙が霧のように散る。
巨体が一瞬怯んだ、その隙をアレクトが逃さない。
「雷撃!」
青白い稲妻が傷口に突き刺さる。肉が爆ぜ、筋が焼ける匂いが鼻を刺す。
「今だ!」
俺はガントレットに魔力を叩き込み、風を纏わせて拳を突き上げた。
ズドン!
顎をぶち抜く手応え。骨が砕け、巨象の頭がのけぞる。全身が痙攣し、地面に沈んだ瞬間、大地がドンと揺れて森がざわめいた。
周囲に漂っていた魔力の圧が一気に緩む。
だが森はまだ静かじゃなかった。
「……残り、まだ動いてる!」
アレクトの声と同時に、茂みから炎狼が三匹飛び出した。さっき蹴散らした群れの生き残りか。
「鬱陶しいな!」
俺は正面から来た一匹を拳で迎え撃つ。ズドン! 顎ごと頭蓋が潰れ、火花のような血飛沫が散った。
「右、まだ来るよ!」
九条の声。次の炎狼が火炎を吐くが、彼女の盾が吸収し、逆流するように白光の閃撃が吐き返す。炎狼は叫びを上げる間もなく弾き飛んだ。
「最後は任せて!」
アレクトの雷撃が一直線に走り、三匹目の体を貫く。肉が焼ける匂いが風に乗って流れる。
「……ふぅ、これで終わりね。」
だが、すぐに地響き。角熊が二頭、巨象の轟音に呼応するように突進してきた。
「おかわりかよ!」
俺は舌打ちしつつ踏み込む。一頭目の突進をガントレットで迎え撃ち、エアハンマーを叩き込む。脇腹が陥没し、巨体が横倒しに転がった。
二頭目が爪を振りかざして迫る。だがそこにアレクトの結界が展開し、動きをわずかに鈍らせる。
「今!」
俺は跳躍して拳を振り下ろした。ゴシャリと嫌な音がして、熊の頭部が地面にめり込む。
……静寂。
森に残っていた魔物たちは、巨象と群れの中核を失ったことで一気に瓦解したようだ。ちらほらと影はあるが、脅威ではない。魔境の収束とともに魔石になってくれればいいが、まぁ、あとは調査班におまかせだ。
「これで……掃除完了、か。」
俺が息をつきながら言うと、アレクトも杖を下ろして深く息を吐いた。九条はまだ笑顔を浮かべたまま、盾を軽く回してみせる。
「うん、ちゃんと三人で当滅たっせーい!上出来でしょ?」
「ほんとに、ね。偵察だけのつもりが、主までやるなんて想定外だわ。」
「いきなり上級とか、サービス良いよね?」
九条の能天気な声。俺はため息をつきながら、限界に近い空腹を自覚する。
「……とにかく肉だ。腹減った。これだけの肉、数日持つだろ。」
周囲に転がる熊達と巨象の肉を睨みつける。
飯は武器だ。食えば戦える。
バックパックから携行食を取り出して噛みしめる。まずいが、今は味はどうでもいい。腹に入りゃなんでもいい。
「どうやって持って帰るつもり?熊は大丈夫だろうけど、象は無理じゃない?」
アレクトが苦笑する。
「切ってヘリにぶら下げりゃなんとかなるだろ。」
「……なるといいわね。」
「だめならその場で食ってやる。」
こいつは誰にもやらねぇからな。
――
帰りのヘリの中。
ちなみに熊のついでに狼も吊ってもらってる。象は無理だった。いくらかその場で食ったが、九条に『一応、国家資源だからね!』と言われて渋々諦めた。
「そういえば、シズ。吸収と放出って聞いてたから、そのまんま返しだと思ってたんだが、どうも違うな?」
「そーそー!私の異能って、エネルギーをぜーんぶ吸い込んで、あとからドーンって叩き返すやつなの。広げたら衝撃波、ぎゅっと絞れば光線!……って言っても、そのものが光ってるんじゃなくて、エネルギーが空気をこすって光って見えてるだけなんだ。だから炎にしたり氷にしたり、身体を強化したりって変換は一切できないの。吸って返す、それだけ!でもそれで充分強いでしょ?」
「実際とんでもなかったしなぁ。……なぁ、本部任務ってこんなんばっかか?」
「んー、半分は“もっとひどい”かなー。」
九条が笑う。笑うけど、目は笑ってない。
「もっとひどいのがあるのね。」
アレクトが肩で息を整えつつ、膝の上で杖を握り直す。
「本部任務の基本は、支部で対応できない物だからねぇ。中の魔物を減らして、生きて帰ったら勝ち。主を倒せたらボーナス!」
九条が親指を立てる。俺は親指を下げたい。
「ボーナスは肉で頼む。現金より早い。」
携行食をもう一口。……やっぱまずい。
地面が近づき、機体が沈む。
とりあえず、報告だ。それが終わったら飯!
「やれやれ、ボスラッシュはもうごりごりだ。」
「……」
―――極秘任務指示書―――
1.任務概要
当該対象はドラゴンと戦闘中、仲間への捕食衝動を示し、体表に魔物化の兆候(角・牙・鱗)が発現。本人は「夜の異能による再生の副作用」と申告している。
摂食した高位魔物の特徴が肉体に反映されていると推定される。
2.危険評価
・人間を捕食した場合の影響は不明。完全な魔物化や異能変質の可能性あり。
・空腹時に衝動が強まるため、常に満腹状態を維持させることが望ましい。
・戦力価値は極めて高いが、統制を外れた場合の危険度も同等に高い。
3.指示
・監視任務は「公表してよい」。対象本人および周囲の隊員には、あなたが監視役であることを明示して差し支えない。
・ただし、処分権限については秘匿せよ。対象および周辺には一切告知せず、必要時のみ実行に移すこと。
・暴走兆候を確認した場合は、吸収・放出の異能を用いて速やかに制圧せよ。
・対象の攻撃力をそのまま返すことで抑制可能と判断されている。
・状況が制御不能と判断される場合、処分を含む実力行使を許可する。
4.報告体制
・監視状況は定期的に本部監察局へ報告すること。
・処分権限に関する情報は極秘扱いとし、他者への開示を禁ずる。
以上。
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