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龍寝転がって子犬にビビる

「緊急任務よ!」


姐さんがハルバードを背に担ぎ、ホールの扉を蹴り開けて飛び込んできた。肩で息をしながらも、声はよく通る。


俺はちょうどレクトと新しい強化案を机に広げていたところだ。


「おいおい、姐さん。なんだよ、また出張か?」


「出張?生ぬるいこと言ってんじゃないわよ。ドラゴン、ドラァゴンよ!よりによって大陸の魔境主が移動したのよ。こんなの前代未聞よ!しかもこの街の北山の上でドンと居座ってるの!」


「……っ」


アレクトが息を飲む。


「……クソ立地だな。理由は?」


「後よ後。知りたきゃ本人……本竜に確認しなさい!今は避難誘導中よ。私達は軍と本部の討伐編成が揃うまで、待機よ。わかったわね!?」


姐さんが続けて言う。


「支部長が現地で采配中よ。今回は私達3人でチームよ。5分で出るわよォ!」


レクトが俺の目を見る。


「……食べるなら今のうちにしときなさい。どうせ食べるんでしょ?」


「読まれてるな。はいはい。」


ポケットから携行食を二本まとめて口に押し込み、水で流し込む。本当は肉が良かったが、まぁしょうがない。



――

組合のヘリへ乗り、北へ一直線に向かう。窓の外、山が近づくにつれて空気が硬くなる。熱の揺らぎが目に見えそうだ。ヘッドセット越しに乾いた声が聞こえてきた。


『こちらドラゴン対策臨時本部、支部長だ。着いたらすぐ前線ブリーフィングだ。時間はない。』


支部長の声だ、相変わらず金属みたいな声だが、この状況でも落ち着いているのは安心する。


「支部長直々にお出ましってことは、けっこうヤバいな。」


「当たり前よ。ドラゴンなんて災害級、やばくないわけないじゃない。」


臨時本部につくと、組合の緊急車両が詰めており、観測班や調査班の面々が慌ただしく動き回っていた。まさに災害対策本部だ。


テントの中に入ると、地図と無線が散らかされ、雑多な音で満ちていた。


「来たか。」


支部長が最短距離の言葉で迎える。視線が俺たち三人を一度だけなぞって、すぐ地図に戻る。


「状況だが、約1時間前に山頂にドラゴンが着陸。全長は30m近く、翼幅50mはあるな。着陸時に少し暴れて、熱波と無音圧で周辺が傷んでる。山腹の陸橋は危険な状況だ。人的被害は軽傷8名、重傷なし。現在、消防、警察と連携し、避難誘導中だが、もし動き出せばまずい状況だ。」


支部長が状況を説明する。


「次に、軍と本部の到着見込みだ。」


支部長は地図の上で指を止めた。


「正確な時間は多少前後するが、軍の先遣隊は30分後。火力は低いが広範囲での遮蔽が可能との事だ。本隊は90分後。長距離の制圧手段は本隊到着までない。本部の討滅編成は60分後に先頭が来て、75分で揃う見込みだ。」


姐さんが頷く。


「つまり、それまで動かすなってことね。」


「そうだ。」


支部長は視線を上げる。


「三人で先行、山頂手前で待機しろ。動いたら即座に牽制し、縫い付けろ。市街地側へは一歩も行かせるな。」


「了解。」


「次に対策だ。」


支部長は地図から目を上げた。


「対象は4足タイプだが、基本的にはワイバーンの上位互換だ。一番危険なのはブレスだ。胸がふくらんだら来るぞ。倉田、結界で受けて流せ。星和は避けろ、突っ込んで撹乱。エリーゼはなんとか張り付いて飛ばすな、片翼でも尾でも重くすれば飛べないはずだ。」


レクトがうなずく。


「了解。厚みはこっちで合わせるわ。」


姐さんが肩で笑った。


「尾と翼は私が見るわ。薙ぎが来たら下がって、逆へ外しなさい。」


支部長は指で稜線をなぞる。


「翼を開いたら飛ぶ前に止めろ。翼の根を打て。星和は脚だけ見ろ。踏み切る直前に崩せ。」


「了解だ、俺はいつも通りだな。」


俺は短く返す。


「正面に立つな。常に斜めで動け。」


支部長は言葉を重ねた。


「退くのは稜線側だ。市街地方向へは絶対に下がるな。軍の先遣隊が来るまで隕石は禁止、繰り返す、禁止だ。」


「「「了解。」」」


――


山頂に黒がひとつ。山の上に山があるような異様を風の流れだけがその輪郭を撫でていく。


鱗は鍛鉄の板を重ねたようで、風で擦れた縁だけが鈍く光る。


前肢は山肌を掴み、爪の下で石が粉になって風下へ薄い筋を引く。尾はゆっくりと左右に動き、羽ばたきはない。瞬きも、ほとんどしない。たまに、横へ走る薄い膜が目を洗うだけだ。


こちらを見る時だけ、瞳の焦点がわずかに詰まる。刃物が鞘に入ったまま、喉に当てられている感じ。動かないが、すでにこちらを認識している。そういう待ち方だ。


周囲は暴れた影響か、斜面の一部はガラス質に光り、おそらく立派に生えていただろう木々がなぎ倒されている。


「……動かないわねェ。」


「姐さん、今動かないことはいい事じゃないか?ここに巣食うつもりか、いっときの宿にする気か。……でも、どうも嫌な予感がする。」


「星和、その予感は前に言ってた"大きな危機"?」


「わからんが、このままで済むはずがない気がする。」


俺達は今、ドラゴンにほど近い位置まで来ていた。俺、アレクト、姐さんの三人だ。


普通なら多数のシーカーで囲むのだが、今回は街が近すぎる。戦闘の影響を広範囲に広げないため、少数精鋭となった。


観察を続けているとドラゴンが動いた。


すかさず、観測班より無線が入る。


『観測より。山頂個体、南東へ向き直り。移動の兆候、強。』


支部長も無線を飛ばしてくる。


『出撃!』


俺達はすかさず飛び出した。


すでに夜は展開済だ。周囲の環境が手に取るようにわかるが、どうやったらこうなるんだと言うほどに、山頂付近は更地にされ、魔力と熱がひどい。


俺達に気づいたのか、ドラゴンがこちらを向くなり、光が瞬いた。


カッ


光り輝く熱戦が放たれ、俺達に迫る。


「展開!」


アレクトの多重結界は最初から全力で展開され、いつもの透明な球が俺達を包む。


熱戦が結界に触れた瞬間に3層が持っていかれる。4層目がビキバキときしみ、ヒビがはいるが、アレクトは必死に熱線をそらした。


「…重っ」


ドバゴっ


山肌を焼いた熱線は瞬時に地面をガラス化させて、その熱量を俺達に伝えていた。


「レクト!このまま展開しててくれ!俺は突っ込む!」


それだけ言い残し、俺は身体強化と身体保護を全開にして、結界から飛び出した。


次々と放たれる熱線はすべて避け、ドラゴンの側面へと回り込む。


首が向いた方にブレスが行くから、案外わかりやすいな。


そんな事を思いながらも、もう側面だ。


ドラゴンはブレスを止め、左前足を内から外へ薙ぎ払ってくる。


「挨拶代わりにくらいやがれ!」


俺は大将作の試作2号をドラゴンの前足に正面から叩きつけた。


ッボとい風切り音と共に振り抜かれる左前足に俺の拳が接触する。


ズパンッ


正面から衝突したドラゴンの腕を弾くが、俺も弾かれた。


ごろごろと転がりながら、衝撃を散らすと、ドラゴンは興味深いような目で俺を見てくる。


よほど小さな存在に腕を弾かれたのに驚いたのか、俺が生きているのが不思議だったのかわからないが、振りぬいた姿勢のままだ。


「……なんだよ。照れるじゃねぇか。見つめんなよ。」


そんな事を言いながらも再度接近、今度は俺からだ。魔力を試作2号に通して、外の魔力へ干渉する。


今回は相手がでかい、面だ。


魔法使い達がエアハンマーなどと、言っていた風の圧力で叩く魔法を俺は拳に纏わせる。


膨大な魔力を風に変換し、巨大な拳として視認できるほどの風をドラゴンの脇腹に叩きつける。アッパーのように振り上げられた拳は狙いたがわず命中し。


「ッグガガァ!」


などと言いながら、ドラゴンの体制を崩す。


「行くわよォ!」


そう言いながら、後ろ足をかけのぼった姐さんが尻尾の付け根にしがみつき、異能を発動させる。


途端に崩れた姿勢がもっと後ろに崩れた。


俺は両腕で着地しては飛んでアッパーを繰り返した。


アレクトの魔法も飛んでくる。


雷、氷、炎。


様々な種類の魔法が飛んできて、何が効くのか試しているようだ。


……案外いけるか?


などと思っているとドラゴンが転がり始める。


慌てて姐さんは飛び降り無事だが、後ろ脚の拘束が解かれる。


まずいっ……飛ばれる。


そう思った俺は、回転中のドラゴンに突っ込んだ。


巨体がゴロゴロしてるのだから、凄まじい迫力だが、見えてないだろ、それ。


跳躍、ちょうどドラゴンのたたまれた羽のそばで両腕を組んで、振り下ろす。


今回は斬撃属性を載せてみた。


ほとんど音がなく、サクッと翼膜が半ばまで切れる。


まぁ、この巨体だ、大したことはない。人間で言うと指の間から手のひらの半ばまで切れたようなもんだ。


「グギャァァ!」


痛かったみたいで転がるのをやめ、俺に完全にヘイトを向けてくる。


次の瞬間、俺への集中攻撃が始まった。


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