お守りにしちゃ物騒だろ
牛肉
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アレクトとは組合で別れた。納得はしてないが、とにかく明日どれくらい動けるか見る、ってことで俺も覚悟を決めたからだ。
本当に休日になった事だし、まずは飯だと市場に向かう。そのへんの飯屋に入ってもいいんだが、なるだけ量を食べたい俺は塊肉なんかが売ってる市場を選択した。
「安いよ安いよ!」
「今なら100g230円!」
「今朝とれたて新鮮だよ!」
などと賑わう市場で人混みに紛れながら、魔境産の肉を探す。普通の肉でも良いんだが、魔力が多く含まれた魔境の肉は食べたら気持ち悪くなると嫌う人もいるが、俺にはご馳走だ。っと見つけた。今回はミノタウロスだ。店主がミノのミノが安いよ。ミノの上ミノ、ミノのミノサンドだよ。と呼び込んでいる。ミノミノうるせぇな。
ミノミノ言いながらも無事に買えたので、家に帰る。ある分買いしめたが、余裕で食える量だ。むしろ足りんかもしれん。
母は出かけているようだった。実は母が普段何をしているのか俺は知らない。まぁ、何も知らされてないなら、俺が把握しておく必要はないんだろ。
ブロックを切り分けて、肉を焼いていく。
焼いて食べるを繰り返す。ちなみにタレは自作だ。
当たり前だが、この世界にエ〇ラはない。そこで俺は焼肉のタレを自作した。エ〇ラこそ至高、異論は認める。家にはそのタレが大量にストックされており、しばらく無くなりそうにはない。この間支部でおすそ分けしたら『売ってくれ』と言われて行列を作った逸品だ。
気付けば肉はなくっていた。
いい加減資料を読んでおこうと自室に帰る。
クリアファイルにまとめられた資料には、アレクトの資料もあった。姐さんの字で、個人情報につき読了後破棄。と書いてあった。
――――アレクト・倉田
人種:エルフ
性別:女性
年齢:19歳
等級:F級
異能:結界を張る異能
魔力量:高
魔法:戦術魔法レベル
主な役割:後衛
活動期間:なし
備考: 結界による防御と戦術魔法による魔法攻撃を得意としている。高等魔法学校卒業、成績は優。
――――
結界がどこまで有用かわからないが、本人は自信有りげだったし、魔法レベルは5段階中4。これを在学中に収めたんだとしたら確かに優秀だ。成績の評価基準は俺にはわからんが、優って事はいいんだろう。俺は手にカッターの魔法(生活魔法)をまとわせて、人間シュレッダーになって紙をバラバラにしてしまう。
「これくらいなら、俺にもできるんだよ。たまに失敗するけど。」
アレクトの資料をゴミ箱に放り込むと、俺はもう一度魔境の資料を読み込む事にした。
「星和!アンタ換気せずに焼き肉したでしょ!?換気しろっていっつもいてるじゃない!」
と、怒られることを俺はまだ知らない。
次の日、俺とアレクトは現地集合し、姐さんの到着を待っていた。今回、アレクトがシーカーとして初仕事と言うこともあり、副支部長である姐さんが監督につくことになっていた。
「あの…一野さん。」
「星和でいいですよ。なんですか?」
「はい。では、星和さん。……その荷物は?」
今回の俺の装備は、新しい相棒のガントレット、どうせ壊す防具は支給品のヘルメットとベスト、これまた支給品の戦闘服、ナタ兼用のナイフ、背中に巨大なバックパックだ。
「このバックパックですか?食料ですよ。俺は異能を使うと何故か異様に腹が減ってしまって。持って行けるときには必ず食料を持参するんです。」
「そうですか。それと、副支部長に話してるときみたいに、砕けて話していただいても大丈夫ですよ。」
「わかった。レクトさんも楽な口調でいいぞ?疲れるだろ。」
「んん……わかったわ。さん付けもいらないわ。レクトって呼んでって言ったじゃない。」
アレクトは切り替えるように咳払いして砕けた調子で話す。ちょっと印象が変わるな。
「じゃあレクト、俺も気になってたんだが、そのリボルバーって……」
アレクトの装備は簡単なものだった。外の魔力へ干渉しやすくする杖、支給品の戦闘服と防具、腰にナイフと古いリボルバーがさげられていた。
「魔導銃よ。」
「シーカーで魔導銃って珍しいな。いないわけじゃないんだけど、弾が高価だって話じゃないか。」
魔導銃は魔法効果を込めた弾丸を撃てるため軍隊で兵力の平均化に重宝されるが、弾薬費用や運用効率の問題から、各地の魔境を個別に攻略するシーカーには不向きだった。
「そこまで上手くないから、お守りみたいなものよ。」
「そっか。」
魔力が少なくなった時の、バックアップのようなものかと納得した。
「二人とも待たせたわね。」
そうこう話しているうちに姐さんが到着した。
車から降りて姿を見せた姐さんは、重装備にハルバードを携えた姿で、俺たちの前に立った。
装備重量は常人なら動けないほどだが、姐さんは涼しい顔で歩み寄る。重さを操る異能があるからこそ成せる芸当だ。
「今回の魔境は初級規模よ。資料を見てくれたと思うけど、調査班の報告では猿の魔物が群れてるわ。脅威度は低いと見られているけれど、囲まれて投擲されるから注意してちょうだい。」
俺は顎を引いて答える。
「了解。俺はいつも通り前に出て暴れて潰す。」
姐さんが視線を横に流す。
「アレクトちゃんは攻撃魔法で数を減らして。一番星ちゃんは多少の被弾は問題ないから、周りの邪魔を減らしてあげて。」
「わかったわ。」
アレクトは自信有りげに、杖を握り直して頷いた。
「アタシは監督役。よほどのことがない限り戦闘には介入しないわ。アタシの守りも不要よ……いいわね?」
「……いや、その格好で監督役って言われてもな。」
思わず口から漏れた本音に、姐さんがニヤリと笑う。
「ちゃかさないの。監督役でも、万が一に備えておくのが副支部長ってもんよ。ま、見てるだけで済むように頑張りなさいな。」
「姐さんが出る前提で考えるのも癪だしな。」
俺が肩をすくめると、アレクトも少し笑って頷いた。
強がってはいるが、やっぱり初仕事への不安はあったのだろう。今は程よく力が抜けた顔をしている。
「じゃぁ、状況開始!」
「はい!」
「了解。」
森の魔境へと足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。湿った匂いに混じるざらつく魔力の気配。背筋を撫でるような圧は、初級にしては魔力が濃いように感じる。
「夜を広げる。」
俺は短く告げ、異能を展開した。視界がわずかに暗転し、五十メートル範囲の気配が浮かび上がる。木の上、斜面、前方に、ざっと二十八。全員、石を握ってやがる。
「……数は二十八。右に六、上に十、残りは散開。囲んで投げるつもりだ。」
「じゃあ、結界を張るわ。」
初めてみたアレクトの結界は透明な三角形のパターンが球状に広がる。
蜂の巣を内から見たらこう見えるのかな、なんて思っていると。
「ギギャアアッ!」
一斉に石が降り注ぐ。結界にぶつかり、ガンガンと音を立てて弾かれた。破片が飛び散るが、彼女の防壁は揺らがない。
「アレクト、これどれくらい持つ?」
「これくらいなら半日だって大丈夫よ。」
「……出れないんだが?」
「大丈夫よ、内からは通れるから。」
「じゃあ、このまま自分を守っててくれ!」
必要な事だけ聞くと、俺は勢い良く飛び出した。
猿が枝から襲い掛かってくる。拳で迎え撃ち、骨を砕く。背後からの影には肘を叩き込み、地面に沈めた。
「ギャッ!?」
「次だ!」
アレクトの杖から稲光が迸る。空気がバチバチと震え、青白い雷撃が放射される。枝に群れていた猿が痙攣し、直撃した数匹は黒焦げになって落下。近くにいた奴らも硬直して木から転げ落ちた。
「えげつねぇ……俺に当てるなよ!」
「そっちこそ、近づきすぎると巻き込むわよ!」
結界で投擲を防ぎ、雷撃で薙ぎ払い、俺が残党を拳で粉砕する。群れは瞬く間に崩れていった。
姐さんは腕を組んで眺め、ただ一言。
「悪くないわね。」
――その時。
地響きが響き、大木が揺れる。
黒毛に覆われた巨体――三メートルを超えるゴリラの魔境主が現れた。
「主のお出ましか!」
巨体が大岩を抱え上げ、咆哮と共に投げ放つ。
「こんなもん!」
俺は拳を振り抜き、正面から砕いた。粉砕された破片が後方のアレクトへ飛ぶ。
「っと、危ないわね!」
結界は火花を散らして破片を弾いたが、びっくりしたのかアレクトが叫ぶ。
「悪ぃ!気をつける!」
俺が叫ぶと、アレクトは杖を握り直しながら答える。
「驚いただけよ、こっちは気にしないで!……援護する!」
その言葉を背中で聞きながらゴリラを迎撃する。
ゴリラの巨腕が振り下ろされる。俺は拳で受け止め、地面がめり込むほどの衝撃に耐える。
「ぐっ……っ!」
「ウオオオオオッ!」
拳と拳が正面からぶつかり合い、拮抗する。
これはちょっと予想以上だな、身体強化かけるか?
そこへ――
「こんなのはどう?」
アレクトの杖が閃き、圧縮された炎弾がゴリラの顔面へ迫る。
「ギッ!?」
唐突な熱に顔をそむけようとした一瞬の隙。俺は地面に震脚を叩き込んだ。
ドンッ、と地面が爆ぜ、衝撃が骨を伝ってゴリラの巨体を揺らす。
「もらったッ!」
震脚の衝撃をすべて拳に載せ、渾身の一撃を突き出した。
ズドンッ!
ゴリラの胴体に大穴が空き、背中まで貫通する。
巨体は呻き声もなく、そのまま崩れ落ちた。
「……っしゃあ!」
俺は拳を振り払い、残心する。
アレクトは結界を解き、安堵の息を吐いた。
「……とんでもないわね。魔法無しでここまでやるなんて。」
「鍛えてるからな。ついでに言うと……腹、減った。」
戦場に緊張感が残る中、不意に漏れた俺の言葉に、アレクトは思わず笑った。
姐さんもハルバードに寄りかかり、ニヤリと口角を上げる。
「合格ね。二人とも、初戦にしてはいい連携だったわ。それとも簡単すぎたかしら?」
姐さんの言葉に二人とも笑って、俺たちの初コンビでの討滅は幕を下ろした。
ちなみにゴリラの味だが、まず匂いからして強烈だった。牛肉のような甘い香りの奥に、鉄のような血の匂いと、獣じみた土臭さが混じっている。
「ちょっと、やっぱりやめときなさいよ!」
とアレクトが青い顔で言っていたが気にしない。
ひと口かじれば、繊維は驚くほど太くて硬い。噛むたびに筋が歯を押し返し、顎に力を込めなければ裂けない。その分、肉汁は濃厚で、赤身の旨味と野性味のある脂が口いっぱいに広がった。牛や豚に慣れていると荒々しく感じるが、不思議と嫌な臭みは後を引かない。
後味は鹿肉に近い。鉄分を思わせる渋みが舌に残り、それを嚙み潰すたび、濃い赤ワインでも欲しくなるような重たさを感じさせる。下処理を怠れば臭みが勝つだろうが、丁寧に焼き上げれば、豪快な旨味の塊に化ける。
まさに「力を食っている」ような味わいだった。
食べ終わったあとの姐さんの呆れた顔と、アレクトの組む相手間違えたかもって言いたげな顔が印象的だった。




