肉食え
以前書いてたやつが、駄文長文でにっちもさっちも行かなくなったので、世界観等引き継いで書き直しています。まずは1話目。
ジュウジュウと焼ける肉の音に思わずつばを飲み込むと、辛抱たまらず自家製のタレを勢いよくかけ、貪るように食らった。
焼いて、食べる。
焼いて、食べる。
食べながら焼いて、また食べる。
しばらく食べ続けたあと。
「あぁ、なくなっちまった。……腹減ったなぁ。」
食い尽くしたあとのセリフじゃねぇな、と自分でも思いながら、さっき倒した魔境の主である巨大な牛を見下ろす。肉はもうない。俺が食ったんだから当然だ。
「しかしよく食うようになったもんだ。三頭分はあったのに……まだ腹減ってるぞ。」
どこに消えたのかと、今世の筋骨隆々の体を見下ろす。
そう、今世の体だ。
俺には前世の記憶がある。
「大変だったなぁ。」
死んでから今までを、少しだけ思い返す。
――――
俺の名は三葉陽成
断じて産婆でも妖精でもない。……くだらんこと言ってるがピンチだ。
「やっちまった……痛てぇ……」
バイクとキャンプが趣味で、その日も山へ向かっていた。天気予報を見ずに。……本当にアホだった。
途中から降り出した雨は本降りに変わり、視界は最悪。そこにシカが飛び出した。
「っと、どぅわあぁ!」
間抜けな声を出しながら避けたが、舗装もあやしい渓流沿いの道で、荷物満載のバイクはバランスを崩した。
次の瞬間、俺は川べりに投げ出され、岩に叩きつけられた。
「……っ。」
息もできないし、声も出ない。
しばらくして、ようやく呼吸だけは戻ったが、体は動かない。
ここは人の通らない山奥。携帯も圏外だ。
「……これは詰んだなぁ。」
迫る死を妙に他人事みたいに受け止めながら、くだらないことばかり考えていた。
――引き返せばよかった。――
――シカ、ほんとに当たってなかったか?――
――死に際は気持ちいいって話だが、全然そんな事ないぞ。――
そんなことを思いながら、意識は途切れた。
――――
で、俺こと一野星和が生まれたってわけ。
いや、ほんとに大変だったぞ。
目が覚めたら赤ん坊なんだから。最初は障害が残ったかと思って焦った。
この世界は前世と似ているけど、決定的に違う所がある。
魔法があって、異能があって、魔物がいる。おまけに亜人も。……あいつら影薄いけどな。
つまりファンタジー現代に転生したわけだ。
赤ん坊の頃は体が自由に動かないし、少し大きくなっても年相応に振る舞うのが面倒でな。
だから三つか四つの頃に両親へバラした。「俺、転生者なんだ」って。
普通なら信じてもらえないだろうけど、この世界じゃ極まれにあることみたいで、歴史の偉人にも転生者がいたらしい。
それからは早かった。
異能を鍛え、魔法を鍛え、体を鍛た。
ただ、こっちの父はもういない。
俺が十四のときに死んだんだ。強くて、自慢の父だったけど……魔境はそんなの関係なく命を奪う。
あの日から俺は余計に鍛えるようになった。
理由は……まぁ、いろいろだ。
16になる年に探索者組合に所属した。
アビスと呼ばれる魔境に潜り、魔物を狩るシーカーになって、もう2年。あっという間だった。
探索者組合は日本軍の下部組織だ。軍人じゃないが軍属扱い、ってやつ。中卒の俺でも一応公務員だ。
今の俺はどういう奴かっていうと。
髪は黒っぽい茶で、陽に当たると色が変わる。目もほぼ黒。で、2m近い体格の筋肉バカの中卒シーカー。外から見りゃ変わり者だろうな。
で、そんな俺が今なにしてるかって?
……叱られる覚悟を決めてる。
牛肉
https://amzn.to/46YtupJ




