第九話 告白
二日後、桃ちゃんたちがやってきた。
後ろには楓と千夏が紙袋を持って立っていた。
「やっほー、遊びにきたよー。」
「これ、一応お菓子ね。よかったら食べて。」
「わぁ、ありがとう。別によかったのに。」
「いやいや、遊びに来たんだからさすがにねぇ。人としての最低限の行動だよ。」
「うん、ありがとうね。とりあえず入っていて。純花を呼んでくるから。」
「わかったぁ。ほら二人とも、入ろ入ろ。」
「もう、桃ちゃん、手を引かないでよ。」
そんなことを繰り広げているのを横目にお隣さんちに声をかけに行く。
インターホンを鳴らし、少し待つ。
なかなか返事が返ってこないので、合鍵を使って家に入る。
玄関を進むとリビングにも明かりがついていない。
まだ、眠っているのかと思い、純花の寝室に向かう。
部屋のドアをノックするが返事はない。
「おーい、入るぞ。」
ガチャっと音を立ててドアが開く。
扉を開けるとそこには、いまだ寝息を立てて眠っている純花がいた。
「おーい、そろそろ起きろよ。」
純花の肩を揺らす。
すると、うーんとうなり声をあげながら細く目を開く。
「あ、起きた?純花。」
「え、飛鳥?どうしてここに居るの?」
「今日はみんながお泊りに来る日でしょ。全然、起きてこないから起こしに来たよ。」
「え、嘘、もうそんな時間?ごめんね。」
「ううん、大丈夫だよ。まぁ、ほら、さっさと着替えな。」
「わかったわ。ありがとうね。」
純花が着替えようとするので、いったん部屋から出て、リビングへ向かう。
しばらくして、リビングまでやってきた純花とともにわたしの家にまで戻るわたしたち。
家に戻ると、リビングでゆったりしている三人がいた。
「あぁ⁉やっと帰ってきた。もう、遅いよう。」
「ごめんなさい。わたしが寝坊しちゃってて。」
「そうだったのか、珍しいね。純花が寝坊なんて。」
「いやぁ、実は休みの日は純花ってこんなもんだよ。」
「もう、変なこと言わないでよ、飛鳥。」
「本当に詳しいわね、飛鳥は。」
「まぁ、幼馴染だからね、私たちは。」
「まったくもぉ。そういえば、三人は朝ごはん食べてきたの?私たちはまだだから何か作るつもりなのだけど。」
そう言えば、まだだった。
自分の朝ごはんさえ忘れてしまっていた。
「軽くだけど、食べてきたから私はいいかな。」
「もし作ってもらえるなら、もらっていいかな?」
「桃ちゃんも欲しい。」
「はいはい、分かったわ。四人分ね。」
「純花、お願いね。」
というわけで、ご飯を作ってもらっている間、わたしたちはリビングで撮り溜めてあった映画鑑賞ということにした。
映画もプロローグが終わったころ、純花からご飯ができたと声がかかる。
わたしたちは映画を止めて、みんなで食卓へ行こうとする。
しかし、純花のほうがこちら側にご飯を持ってくる。
「こっちじゃないとみんなでご飯食べられないでしょ。この家の食卓、イスが二つしかないんだから。」
「ああ、ありがと。純花。」
さっきのメンバーに純花を含めて、もう一度映画を再開する。
それから数時間、やっぱり千夏もご飯をつまみながら、映画鑑賞を再開する。
部屋の明かりを落とし、みんなでソファーに寄りかかって、動き回る画面を目で追いかける。
それから、一、二時間ほどわたしたちはお互いに体を預けあいながら映画の視聴を続ける。
その映画は、時に激しく、時に優しく、物語が二度三度波打つ笑いあり涙あり緊張ありのアクション映画であった。
みんなで集まって遊んでいると、ただ映画を見ているだけなのにものすごく集中していて、すぐに時間が飛んでいく。
それから数時間、撮り溜めてあった映画だけでは足りず、棚の中にあった映画のディスクをいくつか取り出し、さらなる鑑賞会を続けることとなった。
気が付いた時には窓はわたしの顔を写すようになっていた。
そんな時、誰かの腹の音が大きくなった。
「もう、こんな時間だね。」
「じゃあ、わたしはご飯の用意しようかな。」
純花がそこから立ち上がる。
「なら、わたしも手伝うよ。」
千夏がそこに続いて、純花の背中を追う。
「って、あら。」
「え、どうかしたの、純花。」
「そういえば、今日の朝、ご飯作ったときに食材ほとんど使ったんだったわ。」
「じゃあ、買いに行ってくるよ。」
「なら、私たちも一緒に行くよ。」
桃ちゃんが私の声に乗っかってくれる。
わたしたちは二手に分かれることになり、できる限りの料理の準備を行う純花と千夏のチームと食材の買い物に向かうわたしと桃ちゃんと楓のチームとなった。
わたしたち、食材調達チームは家の近くのスーパーへ向かった。
ここは近所の中では、一番大きいスーパーで品ぞろえが良いらしい(純花調べ)。
今日のメニューはカレーということなので、入れたいものを買ってきたら、いい感じに純花たちがカレーにしてくれるらしい。
つまり、闇鍋カレーということらしい。
わたしはこういうのは苦手だから、普通の食材しか買うつもりはないが、問題は桃ちゃんだろう、楓のことは心配していないが、桃ちゃんは性格上、こういう時はかなり冒険するはずだ。
それぞれ別に会計をするということなので、私は内心ビクビクしながら食材を籠へと運ぶ。
鶏肉にじゃがいも、ニンジンに玉ねぎと、ごく一般的なものを入れていく。
そこに、アクセントとしてショウガを入れる。
ついでに、これからの連休用の食材もまとめて買ってきてほしいということだったので、安くなっていた食材を中心に肉、魚、野菜をまんべんなく入れていく。
あらかた籠に詰め終わったのでレジに並ぶ、そこにはまだ二人の姿はない。
レジに通し終わりスーパーの端で二人が来るのを待っている。
先にやってきたのは楓の方だった。
「ごめんねぇ。待たせちゃったかしら。」
「いや、そんなに待っていないし、桃ちゃんもまだだから。それにしても、すごい量だね、半分持つよ。」
やってきた楓は、両手に袋を持ちそのまま両手で段ボールの箱を抱えている。
その箱をわたしは楓から奪いとる。
「ちょっと、いいの?重いでしょ、それじゃあ。」
「いいのいいの。こういうのは男の子の役目なんだから。」
「もう、今は飛鳥も女の子でしょ。」
「それは言わないお約束だって。」
楓と二人でしゃべりながら待っていると、
「ふたりとも~、お待たせ~。」
桃ちゃんが大声をあげてやってきた。
「もう、桃ちゃん、こういうところで大声上げちゃダメでしょ。」
「あはは、楓、お母さんみたい。」
「笑わないでよ、飛鳥。」
「ねぇ、二人とも帰ろうよ。」
後ろで声がしたので振り返ると、出口の方で桃ちゃんが待っていた。
わたしたちはため息をつきながらあの子の背を追いかける。
「でも、楓は何でそんなに大荷物だったの。」
「え、何、どういうこと。」
桃ちゃんが反応する。
そうか、桃ちゃんにはこの箱はわたしの荷物に見えるのか。
「あのね、桃ちゃん。この箱もね、楓の買って来たものなんだよ。」
「え、そうなの⁉何買ったの、楓。」
「えっとね。それ全部お菓子なの。」
「え、これ全部⁉桃ちゃん、太ると思うなぁ。」
「もう、そんなこと言わないでよ。それに桃ちゃんだってお菓子あったらどうせ食べちゃうでしょ。」
「それはそうだけどぉ。」
わたしたちは来た道と同じ道を歩く。
その背はほとんど沈んだ夕陽によって照らされている。
そして、わたしたちは大きな荷物を抱え、家にまでやってくる。
そして気づいた、荷物が大きすぎて鍵を取り出すことができない。
仕方なくインターホンを鳴らす。
「はーい。飛鳥?どうしたの。」
「悪いんだけど、鍵開けて~。手が痛い。」
「ああ、なるほど。わかったわ。」
純花に開けてもらう。
「わっ、みんなすごい荷物ね。そんなに買ってきちゃったの。」
「お買い物、楽しくて。」
買って来たものを家の中に運び込む。
「やあ、みんなお帰り。すごい荷物だね。」
「これなら、何でも作れるでしょ、二人とも。」
「そうだね、今日のカレーには何を入れようか。」
「それなら、別に買って来たの~。」
「ええ、ちゃんと分けてもらって来たわ。」
「そうなのか、なら、貸してくれ。作ってくるよ。」
純花と千夏はこれから調理に入るそうなので台所に向かう。
わたしたちは並んでソファーの背もたれにお腹を預け、二人の調理風景を見守ることにする。
「そういえば、買い物に行っている間二人は何していたの。」
「ああ、準備もすぐ終わったからね。二人でしかしゃべれない、赤裸々な話をしていたのだよ。」
「?赤裸々ってなに、楓。」
桃ちゃんには伝わらなかったようだ。
「えーっとね、なんていえばいいのかしら。」
「要は恥ずかしい話をしていたんだよ。」
「へぇ。」
「もお、千夏。余計なこと言わないでよ。」
二人はしゃべりながらでも、せっせと調理を進めていく。
すると、どんどんカレーの形となり、鍋には我々の知る茶色のスープが出来上がった。
まずは一口、食べてみる。
するとはじめはカレーのおいしさが口に広がるのだが、ここで急に酸味が走る。
「すっぱ。やば。何これ。梅干し?」
独特の柔らかさと酸味が口の中に広がる。
「あ、それ私だわ。どお、おいしい?」
「ウソ、楓。全然美味しくないんだけど。というか、美味しいつもりで入れたの?」
「ええ、そのつもりよ。」
楓は堂々と言い切った。
とりあえずはあきらめてカレーを食べ進める。
すると、ピーマン、大根、蓮根、こんにゃく、唐揚げ、最終的には飴玉なんかも出てきた。