第五話 我が家での物語
あれから少しして家に着いた。
「「ただいま。」」
二人一緒に自分の帰りを証明するかのように、声を出す。
これで、非日常だった今日という日も終わる。
これからはいつも通り純花の作ってくれるご飯を食べてお風呂に入って寝るだけだ。
純花がご飯を作ってくれている間、俺は今日見ていたものよりかは固めのソファに体重を預けながら、たまたまやっていたバラエティ番組に目をやる。
体を張った企画にチャレンジする芸人が商品を獲得している姿を見ていると、ふとあることを思い出した。
その用事を済ませるために俺はソファーから立ち上がり、純花のほうへ向かう。
「え、何?どうかした?」
「いや、これ渡すの忘れていたからさ。ちょっとこっち向いて。」
そう言って、こっちを向いた純花の顔に手を近づける。
その手はそのまま純花の髪をなでるように触れて、そのある物を差し込む。
「なに、これ。」
「え、プレゼント。髪飾り。」
俺が純花にあげようと思っていたのは、かんざしみたいな髪飾り。
俺は、こういうのに詳しくないからなんて言えばいいのかわからないが店員さんになったつけ方をまねして純花につけてみた。
「うん、やっぱり。よく似合っている。」
「そう、ありがとう。うれしいわ。」
なぜか急に恥ずかしくなってきたので、ソファーの方に逃げる俺。
顔は耳まで真っ赤になっていることだろう。
それぐらい、顔が熱い。
それからの記憶はあまりはっきりとはしていないが、純花の作ってくれたハンバーグを食べて、風呂に入って寝たのだろう。
ただ、寝るときになっても体の熱が取れなかったのだけはよく覚えている。
「ねぇ、桃ちゃんたちのクラスに遊びに行こうと思うんだけど純花はどうする?」
「もちろん、行くわ。」
そう言うので、わたしは純花と一緒に桃ちゃんたちのクラスに行く。
すると、桃ちゃんたちはやっぱり、三人で集まってしゃべっていた。
桃ちゃんたちはわたしたちを見つけると手招きしてくれたので、それに従ってわたしたちはそこへ近づく。
「ねぇ、何の話をしていたの?」
「ああ、ちょうど飛鳥のことを話していたんだよ。」
「わたしの?」
「そうだよ、あっくん、最近女の子っぽくなってきたねって話していたんだよ。」
「そうかなぁ。」
「そうだよ、だって一人称もわたしになっているし。」
「そういえばそうだね。なんでだろ。」
「あれじゃない、体だけじゃなくて心も女の子になってきているんじゃない?」
「そういうものかなぁ。」
自分でも気が付かない間に自分という存在が少しずつ変わってきていたということだろう。
そうか、最近感じていた違和感はそういうことなのだろうか。
だんだんと傾いていく夕陽を視界の片隅に入れながら、桃ちゃんたちとの会話に花を咲かせる。
夕陽の頭、地平線に沈んだころ、わたしたちは会話を終え、帰り支度を始める。
とはいっても、わたしたち二人はカバンを取りに行くだけなので簡単だった。
昇降口で靴を履き替える五人。
駅まではおよそ五分。だが、その五分が永遠に続きそうだといつもいつも感じてしまう。
学生しかいない電車の中でもわたしたちはしゃべり続ける。
「飛鳥君は最近どう?女の子になってからそこそこ経つけど。」
楓がそう聞いてくる。
「そうだなぁ、でも、わたしは何も変わってないと思うけどなぁ。」
「あっくん、そんなことないと思うよ。ほら、さっきも言っていたけど一人称も変わってきているし、やっぱり何かは変わってきたんじゃない?」
「そうそう、しぐさとかも女の子らしくなってきているわよね。」
「確かにご飯食べている時とかも最近は今までと違うかもしれないな。」
そう口々にしゃべる桃ちゃんたち。
「そんなこと言われても、わたし自身は全然わからないなぁ。」
「確かに最近の飛鳥は変わったわね。」
純花までそんなことを言う。
「ほら、やっぱりそうなんじゃん。やっぱりあっくんは変わったんだって。」
そう話しているうちに、電車は駅についてそれぞれが家に帰っていく。
今日の晩御飯はカレーライスだった。
これは明日もカレーになるだろう。
ちなみに純花のカレーは冗談抜きで今まで食べたものの中で一番おいしいのである。
「おいしかったよ、ごちそうさま。」
「お粗末様。どういたしまして、食器はいつも通り置いておいてね。」
「はーい。」
ご飯を食べ終わったわたしは、一度自宅に戻る。今日は課題がたくさん出されたので、純花と一緒にやろう―決して見してもらうのではない―と思い、それらを取りに行ったのである。
今日出された課題は、数学と英語と化学の三つ、それぞれの量が多いので、大変なのである。
課題が終わったのは十二時ごろ。
時々休憩をはさんでいたとはいえ、かなり時間がかかってしまった。
お互いお風呂に入りたいと思うところがあったので、今日はもう解散となった。
自宅に戻ったわたしはお風呂の用意をしながら、撮り溜まったアニメを見ることにした。
とは言っても、お風呂の用意に三十分もかかるわけがなく、一番面白いところで、お風呂の用意が完了してしまった。
お風呂に入ったわたしはすぐベッドに入った。
ちなみにもうお風呂に入るのには慣れてしまった。
これが桃ちゃんたちの言っていた、心も女の子になってき始めている兆候なのだろうか。