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神様の気まぐれ  作者: 四季織姫
九条千夏の恋心
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第Ⅰ話 九条千夏の参戦

 これは高校三年生の夏の奇妙な運命を歩く男の子に出会う前の私、九条千夏の淡い恋心の足跡の記録です。

 ささやかな記録ではあるが昔話に少し付き合ってほしいかな。

 私の最愛の恋人、姫野楓との恋の一ページを暫し堪能してください。


 四月、今日は高校の入学式が執り行われる日である。

 そんな日の朝から私は盛大に寝坊をかましてしまったのであった。

 時刻は八時を過ぎてしまっている。

 本来の予定ではもう三十分も前に起きて用意を始めるはずだったのだ。

 しかし、現実はいつも非情である。

 時計の針を見て愕然とする私をよそに針はなおも動き続けている。

 なんて馬鹿な話をしている時間はないのだ。

 トーストをいただきながら私は足早に家から飛び出した。

 家から学校までは徒歩三十分、正直歩いていたので間に合わないのは目に見えてわかっていた。

 だからこそのダッシュである。

 それから十分ほど息も絶え絶えになりながら、通学路を走り続ける。

 走る足に集中し、疲れ切っていたのもあったのだろう、道の角で一人の女生徒とぶつかってしまった。

 それが皆さん知っての通りの楓ちゃんなんです。

「あ、いたた。ごめんなさい。前の方をよく見ていなくって、大丈夫ですか?」

 私は急いで立ち上がって相手の方へ手を差し出す。

「いえ、私の方こそ不注意でした。…ありがとうございます」

 彼女は私の手を取って立ち上がる。

 その子の服装に目が行った。

「もしかして、同じ高校じゃないですか?」

「え?ああ、本当ですね。ここに今いるってことは新入生じゃないですか?」

「はい、そうです。もしかしてあなたも?」

「ええ」

 なんて談笑しだしたあたりで、忘れていたことが思い出される。

「入学式!間に合わない!」

 二人して完全に忘れてしまっていました。

 そうして二人して初日から遅刻になってしまった。


「二人とも、入学式初日から遅刻とは相当中学で優しくされていたのかな?」

 三年の時の担任、歌川先生から説教を喰らう。

 そのまま、席に通されて周りの目を気にしながら着席する。

 その頃には入学式の諸事項は済まされており、残るは閉式の儀を執り行われている最中だった。

 それから新入生は自らのクラスへと場所を移され、担任より話を受ける。

 ここで私にとって嬉しいお話があった。

 それは朝会った彼女、楓ちゃんと同じクラスであった事だ。

 担任は広宮先生というらしく、男性の優しそうな先生であった。

 私はてっきり先ほど説教を喰らった歌川先生なのかと思っていたがどうやら違うらしい。

 広宮先生は優しい声で名指しこそしなかったが入学式に遅刻した生徒に対して一言注意が入った。

 ただそれ以上のことはなく、先ほど怒られたことと十分反省しているだろうという話をしていた。

 話を終えると先生はとっとと教室から退散していった。

 どうやらあとはクラスメイト同士で仲良くしろということだそうだ。

 そのうちにクラス内はザワザワと盛り上がり始める。

 私はとりあえず、楓ちゃんのところへ行く。

「さっきはごめんね。私は九条千夏。入学式を遅刻したもの同士仲良くしてほしいな?」

「ううん、私の方こそごめん。私は姫野楓。こちらこそよろしくね」

 とりあえず、挨拶をすることはできた。

 入学式から怒られてしまったのはショックだけどこういう縁ができたことは喜ばしい限りである。

 そんな感じで二人で喋っていると、二人の女の子が話しかけてきた。

「ごめんなさい。私たちも話に入れてもらえるかしら」

 先に話しかけてきたのはクラス中がバラバラになったあと楓ちゃんの後ろの席に座って話をしていた女の子だった。

「私は斉藤純花。二人はさっき遅刻していた人たちよね。私の席から見えていたのよ」

「そうそう、それで私は桃ちゃん。篠原桃って言います。よろしくね」

 それを追うように言葉にしたのは純花の隣に立って喋っていた女の子だった。

 二人はもしかして知り合いとかなんだろうか?

「私たちもさっき知り合ったばかりなのよ。席が前後だったの。さっきまで別の子達とも混ざって喋っていたのだけれどその子達は他へ行ってしまったわ」

「もしかして顔に出てた?」

「ええ、くっきりと」

 どうやら私は本当にわかりやすい人間のようだ。

 もしかすると先生達も私がそういうわかりやすく辛い顔をしていたのかもしれないとふと思った。

 そのあとは私たちの番ということで自己紹介をした。

 四人で下校に移ったが、そこで会話があったかと言われればそうであったかはよくわからなかった。

 なぜかといえば、私以外の女の子が全員美少女だったからである。

 私は可愛い女の子に目がない類の人間で、家にはアイドルの写真集なんかがたくさん置いてあるような生活をしているのでこの状況には大変見に余る体験だったのだ。

 だからこそ私にはその場で意識を保てるほどの精神力なんてものは持ち合わせておらず、どうやって歩いていたのかすら怪しいほどの状態で帰宅したというのが現実であったのだ。

 帰宅後にやることと言えば、趣味のピアノを触ることだった。

 正確には今はキーボードなわけだが、つい数週間前まではクラシック畑の人間であった。

 今は、ポップスのバンドにハマってその曲を必死に練習しているのが毎日の日課であった。

 正直、バンドマンのアドリブなんかは今の私にはさっぱりというのが現状だった。

 それでも、もう十年ほどになるピアノ歴もあって多少は指が追いついている。

 それが自分の中では楽しくって仕方ない。

 昔は音楽なんて本当に嫌で嫌で仕方なかったのだが。

 だって、小中とピアノが少し弾けるからと言って伴奏を頼んでくるのだ、それも教師も含めて全員が。

 ほんと嫌になっちゃう。

 なんて考えていたのだが、最近は楽しさがかなり優っているのだ。

 ヘッドフォンをしてキーボードに触れているので母親の「夕食ができたよ〜」という言葉さえ聞こえておらず、ただただ夢中で弾き続けている。

 腹の虫が鳴り、空腹に気がついた時には食事は冷めきり、母親の目線も冷めてしまっていた。

 冷めた食事をとりながら、高校では軽音部に入りたいな、などと考え込んでまた箸が止まってしまうのだった。


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