第十九話 文化祭Ⅱ
お腹がすいてきたので、わたしたちは二手に分かれて、食糧確保に向かうこととなった。
わたしと純花は、たこ焼きや焼きそばなどの主食をメインに探し、千夏たちはクレープなどのデザートを持ってくることになっている。
焼きそばの屋台までやってくると、もうお昼時なこともありとんでもない行列ができていた。
「これじゃあ、帰るのはいつになるかわからないね。」
「そうね、ただ、散々遊んだからちょっと足が痛いわね。」
「大丈夫?なんなら、向こうで座っていてもいいんだよ。私が並んでおくからさ。」
「いえ、あなたに全部任せるわけにはいかないからいいわよ。」
なので、二人で二十分ほど並ぶこととなった。
ようやくのことで、たこ焼きと焼きそばを購入できると日陰の座れる場所に移動する。
三人に携帯で連絡を取り、少し待っていると、三人がやってきた。
そして、改めて、全員で買って来たものを確認してみると、焼きそばとタコ焼きとクレープとかき氷とわらび餅が机の上にはおかれていた。
全員で少しずつ食べ物を分け合い、食事を済ませる。
お昼からは、バザーコーナーに移り、いろいろなものを見て回る。
楓は古着を買ったり、桃ちゃんはサッカーボールやバスケットボールを買ったり、千夏は雑貨を買ったりしている。
みんな、ずいぶん楽しんでいるようで。
わたしは最近、アクセサリーにハマっているので、いろいろブレスレットとかを見ている。
そこでハート型のチェーンを使った色違いのペアブレスレットを見つけた。
わたしは、今日の最後にそれを渡そうと思い、それを手に取った。
そんな風に、バザーコーナーで半日を過ごし切ってしまった。
「現時刻をもちまして文化祭一般部門を終了します。」
その放送を聞いて、外部の方々が帰っていく。
これからは後夜祭として、キャンプファイヤーを囲みながら、残り物をただ販売して、残りのひと時を楽しむ時間となる。
この時間になると、気になる子をダンスに誘ったりして、告白率も高くなる。
だからこそ、わたしもその勢いに乗ろうと思い、今、この屋上に立っている。
左手にスマホを、右手に昼間買って来たブレスレットを握りしめている。
すでに純花には一人で屋上に来るように連絡をしてある。
下では、みんなが音楽に合わせてダンスを踊ったり、それを眺めたりしている。
緊張を和らげようと深呼吸をしていると、カンカンと階段を上る音が響いてきた。
キィーと音を立てて、扉が開かれる。
「ごめん、待たせてしまったかしら?」
「ううん、そんなことないよ。こっちこそ、急に呼び出してごめんね。」
「まあ、さっきまで一緒にいたのに急に一人になって、急に呼び出したりして。」
「ご、ごめん。」
「で、どうしたの?屋上なんかに呼び出して。」
純花は少し寒そうにしている。
確かに秋の、それも日も沈んだ時間だ。
寒いのも当然だろう。
「いやぁ、下では色恋沙汰が流行ってるじゃん。」
「まぁそうでしょうね。それがどうしたの。」
「それにね、わたしも乗っかろうと思う。」
純花の顔が朱く染まったと思う。
何かを察したのだろう。
「大事なことだから一回しか言わないよ。」
わたしは大きく息を吸って、
「今のわたしにこんなことを言われても困るかもしれないんだけどさ、俺はお前が好きだ。今までも、いまも、これからも一緒にいてほしい。もし、この告白を受けてくれるのなら、このブレスレットを受け取ってほしい。俺は純花のことが大好きで。お願いします。」
そう言って、わたしは右手を前に出す。
その中にはあのブレスレットが入っており、同じものが右手首で輝いている。
純花はだんだんとこちらに近づいてくる。
そして、わたしの手を握りながら、
「よろしくね、飛鳥。」
そう言ってくれる。
わたしは無意識に純花を抱きしめる。
「ありがとう。純花、ありがとう。」
わたしの目からふと涙が落ちる。
「遅いのよ、飛鳥は。私ずっとまってたんだからぁ。」
純花はわたしの胸の中で泣いてしまっている。
そのまま、十分に満たないほどの時間抱き合ったままでいる。
「純花、落ち着いた?」
「ええ、大丈夫よ。ごめんなさいね。」
「ねぇ、純花。好きだよ。」
わたしはちょっとの期待を込めて、その言葉を純花に告げる。
「ふふ、私もよ。飛鳥。」
純花はそういって瞼を閉じる。
わたしも目を閉じて、顔を純花に近づける。
そして、軽い水音が焚火の音の中に溶けていく。
永遠とも思えるような一瞬の時間が過ぎると、お互いに顔を離す。
「純花、一緒に下で踊ろう。」
「ええ、行きましょうか。」
二人して、一緒に笑いながら階段を降りる。
校庭にやってくると、すでに踊り切っていたのであろう呼吸が乱れている千夏と楓がいた。
さらにその近くには友達と話し合っていた桃ちゃんがいた。
三人はわたしたちを見つけるとこちらにやってくる。
「ねぇ、純花。付き合ったこと、みんなに話してもいい?」
「ええ、私もそのつもりだったから。」
二人で頷きあって確認を取る。
「ねえ、ちょっといいかな?みんなに言っておきたいことがあるの?」
「奇遇だね。わたしたちにもあるんだよ。」
千夏から予想外の返答が帰ってくる。
「まあでも、先に飛鳥の言いたいことから聞こうかな。」
「うんじゃあ言うんだけど、」
純花と手をつなぎ、
「わたし、海染飛鳥と九重純花は今日付き合うことになりました。」
「やっぱりそうだったのね。」
楓がうれしそうに言う。
桃ちゃんの顔はすごく真っ赤になっている。
「それで、千夏たちのは何だったの?」
純花も顔を真っ赤にしながら、照れ隠しのように聞く。
「うん、実は、私たちもさっき告白して、付き合うことになりました。」
「「「ええ~⁉」」」
「え、どっちから告白したの?」
「え、わたしだけど。」
「「「ええ~⁉」」」
「そんなにびっくりすることかな。」
いやだって、楓の気持ちは知っていたけど、まさか千夏からなんて。
「待って、桃ちゃんこれからボッチになるの?」
「いやいや、たとえ誰と誰が付き合っても、この関係はなくならないよ。」
「そうそう、だから安心してよ、桃ちゃん。」
それからは、みんなでキャンプファイヤーを囲みながら、順繰りで踊っていた。
途中桃ちゃんが、大量のデザートをもってきて、みんなして、胃を痛めるなんてこともあった。
そんなこんなで、わたしたちの文化祭は自分的にもクラス的にも成功という結果となった。
翌日は片づけの時間として一日休みとなった。
まぁ、休みとはいえ全員学校に来るので、授業があるかないかの差なのですが。
みんなせっせと作った物を解体したり、借りたものを返したりといろいろやることは盛沢山だったのである。
どっちかって言うと今日の方が大変だったかもしれない。
ここでは桃ちゃんが大活躍した。




