第十四話 日常
ピザを食べ終わった後、三人は荷物をまとめておやつの時間になるころには帰っていった。
みんなが帰った後、朝ごはんとお昼ご飯のために使った食器たちを純花と一緒に洗う。
「お泊り楽しかったね。」
「本当にね。明日から学校だけどちゃんと準備できているの?」
「アハハ、さすがにこれからだよ。」
今日までの楽しい時間にもう少し浸らせてほしいのに純花はすぐに現実へと戻そうと声をかけてくる。
連休明けに忘れ物をしてしまうのは学校のあるあるだと思う。
そのあるあるに自分がはまってしまわないようにきちんと用意しなければ。
洗い物を終わらせて、わたしは部屋に純花を残し自分の部屋に戻り純花に言われたように明日の用意を済ませる。
リュックの中に教科書を詰め、それから筆箱とメガネケースを入れる。
用意が終わって部屋に戻ってみると、そこに純花の姿はなかった。
机の上に何かある。
近づいて見るとそれは小さなメモだった。
そこには「私も明日の用意をしてきます。夕食の準備はしに来るので安心してください。」と書いてあった。
そうか、まぁ純花にもやるべきことがあるだろうし仕方がないか。
流石に夕食の時間まで時間があるので少しばかりソファーで昼寝をすることにした。
「そろそろ起きなさい、寝坊助さん。」
耳元で鍋とお玉でかんかんと音を鳴らされるというずいぶん古典的な方法で私の昼寝は中断された。
目を開くと、ちょうど目の前に夕陽によって真っ赤に染まったカーテンがある。
顔に影がかかったのを見て、上を向くと純花の顔がそこにはあった。
「あ、やっと起きた?もうだいぶ遅い時間よ。」
「そっかぁ、純花が家に戻った後すぐに昼寝したんだった。」
「そうだったの?じゃあ、あんたもう三時間も寝ちゃったのね。そんなので夜寝られるの?」
「さぁ、分かんない。もし寝られなかったらどうしよう。」
「さぁ、知らないけど、どうでもいいし。」
「ひどいっ。」
「まぁ、ご飯できているから食べましょう。」
向かい合うように食卓に座り、食器を一つずつ回しながら三角食べをしながら食事をすすめていく。
メインの豚の生姜焼きを食べながら、白米を口に放り込む。
そのあと、みそ汁で口の中を流し込む。
ご飯を食べ終わると、流しへ食器を持っていき、水につけておく。
「お風呂の用意をしてくるね。」
「ええ、行ってらっしゃい。滑らないようにね。」
「子供じゃないんだからわかっているよ。」
お風呂場に行き、シャワーで浴槽を流し、スポンジでこすり、再び浴槽を流す。
そうやって、お風呂掃除を終わらせて戻ると、純花がニュースを見ながらくつろいでいた。
「なんかいいニュースあった?」
「いいえ、特にこれといっていいのはないわよ。」
そういうのでテレビの方へ視線を向けると、そこにはこの連休の人の動きや政治の話がほとんどだった。
お互いにお風呂に入り、純花に髪を乾かしてもらいながらもう一度テレビをつける。
「いいご身分ね、人に髪乾かしてもらっておいてそんなことするだなんて。」
「まぁまぁ、ありがたいとは思っているよ。そうだ、今日はどうするの?」
「今日?ああ、このまま泊まっていくわ。布団戻すのめんどうくさいし。」
「そ、そうなんだ。」
時間も遅くなってきたので、わたしたちは寝室の方へ移動する。
純花は何やら布団の上でスマホをいじっている。
と、思っていると枕元に放り投げて、こちらを向き、口を開く。
「ほら、さっさと寝るわよ。」
「うん、じゃあ、電気消すね。」
「ええ、ありがとう。」
電気を消して、布団に入る。
すると、違和感に気が付いた。
何かと思って考えているとふと気が付いた。
純花がこちら側を向いているのだ。
昨日までは寝る時は向こう側を向いていたのだ。
そのことに何となく気が付いた時、急に、昨日までいた人の気配がないことが気になってしまう。
つまり、分かっていたことだが二人きりなのだ。
そのことを気にしだした時、わたしは純花のことをじっと見つめてしまう。
そうすると、今まで全く気が付かなかったことが見えてくる。
長いまつげ、薄い眉毛、寝息に揺れる髪の毛先、少し熱いのか滲んでくる汗、そこに張り付く前髪。
そんな風にじっくりと―傍から見ればただの変質者だが―純花のことを見ていると、
「何?人のことじろじろ見て、何かついているの?」
「え、あ、いや、そんなことないよ。ただ、こんなに近くにいることもなかなかないなと思ってね。」
「ああ、そんなこと。もう十分見たでしょ。さっさと寝ないと朝居た起きられないわよ。」
「それはそうだね。もう寝るよ。」
わたしも瞼を閉じ、寝る準備をする。
するとすぐに、眠ってしまった。
瞼を閉じる寸前、視界の端で純花の口が緩んでいるように見えた。




